シーン1:生存確認
生徒たちが登場。ナツキが人数確認を始める。1、2、3、…10、11。居ないはずの“11”の声をあげたのは、最後尾のヒッチーだ。皆に突っ込まれるヒッチー。確認のカウントが繰り返されるなか、ひとりずつ列を抜け後方の椅子に座っていく。レイナだけが地面に転がっている。皆がその、転がった体を見つめる。
シーン2:それ以前
草むらで人の体のようなものを見つけたヒッチーのモノローグ(傍らでは、居眠りしているモモに、ナツキが話しかけている)。それは生き物?のようにも、見えた。生き物以前?のようにも、見えた。脅えながら、ヒッチーは転がったレイナの体に近づき、声をかける。「君は、人間か?」 動きだし、声をあげたレイナに、のけぞるヒッチー。
シガタツが、バットを手にゆっくりとレイナに近づいていく。「人は、見たものを、覚えていることが、できると思う。忘れることが、できると思う」
シーン3:崖
レイナのモノローグ。大地震のあと、街のいたるところでブルーシートを見かけるようになった。地震で崩れた学校裏の崖も、この夏までシートで覆われていた。ブルーシートの青は、空の青、海の青──。
シーン4:ブルーシート
地面に広げたブルーシートの“家“で、ままごとのように日常を繰り広げるユウカ。遠くから見ている生徒たちが、ユウカの仕草を言葉にする。ギターを弾き始めるユウカ。「私が住んでいた、あの家には…たぶん、もう戻ることは、ない」。レイナがユウカの体を、ブルーシートで包む。
フミヤが学校の校舎について語る。入試の時に、一度だけ入った北校舎。その2日後の地震。延期された入学式の時には、北校舎に入ることはできなくなっていた。仮設校舎への移転。北校舎は、今年中に取り壊されるという。地震で、たくさん、人が、死んだ。けれど、僕たちは…死んではいない。
シーン5:誕生日
いつもの教室風景。アイリが、わざとらしく「誕生日おめでとう!」とシガタツに近づき、交際を迫る。「お前のこと知らねーし、だから好きじゃねーし」と拒絶するシガタツ。アイリは勝手にふたりの未来を占う。アイリにバットを向けるシガタツに、原っぱで見たものの記憶が蘇る。あのひどい匂いのする、肉の塊のようなもの…
シーン6:眠る練習
鏡の中の自分を見つめるモモと、傍らのナツキ。モモは、毎日、寝てばっかりいる。それはいつか、夢も見ず、ずーっと眠り続けるための練習なのだと言う。
シーン7:灰色の猫
教室の隅でユカが雑談を始める。白猫と黒猫から生まれた、黒い毛の子猫。混ざって灰色になると思ってた、とユカ。猫からヘビ、魚の話へと、やりとりは続く。魚は、自分の生んだ卵や子どもを食べたりしない。人間は、人間を殺しながら、生きている。白黒の猫から生まれた子猫のように、父親と母親、ふたつの成分から子どもはできあがっている。ぜんぜん違うものが、自分の中にあるということ。いつかその自分も大人になって…大人になった自分たちは、誰かを殺す立場になったりするのだろうか…
シーン8:眠る理由
ナツキとモモの会話。モモの父親は原発事故を起こした会社、ナツキの父はその下請けで、放射線量を計測する会社に勤めている。眠くなるようになったのは、あの地震の後からだと、モモ。いろんなことを考えようとすると、どんどん頭が重くなって、眠ってしまうのだ。モモがナツキに尋ねる。人間は、本当は何のために眠るの?
シーン9:空
イズミが、草むらで見たのは死体だったのかと、ヒッチーを問い詰めている。混乱するヒッチー。あれは、人間以前? でも、色だけははっきり言える。それは青かった、この空が写ったみたいに、とヒッチー。ふたりは空を見上げる(側にいたモモ、ナツキ、いつの間にか入ってきたレイナも空を見上げる)。ユカが携帯で誰かに謝っている。「ウチはまだ、混ざるってことが、怖くてしかたないんだよ。ごめん…ごめんね」
シーン10:天気予報
イズミが問題を出し、皆がそれを英語にしていく──ブルーシートは、ブルーです。今日はとってもいい天気。明日の天気は、わかりません。
シーン11:あの日
ナツキがジャンケンゲームを仕切り始める。彼女が繰り出す質問に、皆が答えていく──卒業したら、いわきから出たい人。いつか日本を出たい人。生まれ変わったら、もう一度、人間になりたい人。次のゲームは椅子取りゲームだ。最後まで残ったふたりが、椅子のまわりを回っているところで、突然、ゲームは中断。
シガタツとフミヤだけが残っている。フミヤは、彼の家が壊れていくときの様子を、ブツブツつぶやきながら、踊りで表現している。シガタツは、椅子を奇妙な塔のように積み終わると、フミヤに言う。「人は、見たものを、覚えていることができると思う。人は、見たものを、忘れることができると思う」
フミヤの声、大きくなる。「逃げて!ここから!逃げて!逃げて!逃げて!」
生徒たちが戻ってくる。それぞれの言葉がリフレインされ、全員で再び、生存確認のカウント。10をすぎて、「11」。数え終わると、皆は校庭の後ろに去っていく。ひとり残ったレイナが、“あの時”を語る。自分が居なくなった世界のことを考えていたあの時──。
校庭の向こうから皆の声。「おーーーい!おーーーい!お前は、鳥かー!」
レイナが皆のところに走っていく。「おーーーい!おーーーい!お前は、人間かー!」