南出謙吾

触れただけ

2017.03.27
南出謙吾

南出謙吾Kengo Minamide

1974年、石川県出身。99年より大阪で劇団「りゃんめんにゅーろん」を主宰する傍ら、2006年からは音響家Shinomyと共に演劇ユニット「Common days」旗揚げに参加。東京では、劇団「らまのだ」の座付作家としても活動している。15年『終わってないし』で第2回北海道戯曲賞優秀賞受賞、17年『触れただけ』で第22回劇作家協会新人戯曲賞を受賞。その他、第21回劇作家協会新人戯曲賞、第15回、18回OMS戯曲賞、第10回、第12回AAF戯曲賞の最終選考ノミネート。俳優としても第33回大阪春の演劇祭最優秀主演男優賞受賞している。現代を薄く覆う社会不安を背景に、日常生活の会話の中で展開するどこかいびつでときに滑稽な男女の人間関係の鬩ぎ合いを描く。

らまのだ
https://www.lamanoda.com/

現代を薄く覆う社会不安を背景に、どこかいびつな男女の人間関係の鬩ぎ合いを描く南出謙吾(1974年生まれ)が第22回劇作家協会新人戯曲賞を受賞した作品。「劇王神奈川VI」出品作(一場)と、劇団「らまのだ」で『終わってないし』として上演した二編(二、三場)を合わせ加筆・改定している。挫折して弟のマンションに転がり込んだ兄とその恋人、弟の三角関係を描いた一場、その恋人の妹と援助交際をしている中年男による二場、中年男の元妻と学生時代の恋人による三場で構成。

「劇王神奈川VI」出品作『まど』
撮影:劇王神奈川VI実行委員会

らまのだ公演『終わってないし』より
「ちゃんとした夕暮れ」 撮影:古里麻衣

らまのだ公演『終わってないし』より
「天気予報を見ない派」 撮影:古里麻衣

Data :
[初演年]『まど』:2015年/『ちゃんとした夕暮れ』『天気予報を見ない派』:2016年
[上演時間]90分を想定
[幕・場数]3幕3場
[キャスト]7(男4・女3)

 第一場「まど」。多くの車が行き交う音が聞こえるマンションの一室。部屋の主で不動産会社に勤める直人(弟)が帰宅すると、奈美(兄の恋人)がベランダから飛び降りないよう、利男(兄)が見張っているというのっぴきならない状態だった。

 利男は大手企業に勤めていたがストレスから会社を辞め、弟のマンションに転がり込んでいた。現状に疲れ、別れを切り出す奈美を利男は認めようとしない。優等生だった兄と立場が逆転したことが少し嬉しく、また奈美のことも憎からず思っている直人はこの状況を甘んじて受け入れている。

 ビールを飲みながら話す三人。別れ話はすぐ、直人の会社による周辺の宅地開発や、交通量が増える眼前の道路についてなど横道にそれる。「三人で暮らそう」と言い出す奈美。利男も飲めない酒に酔い、奈美が席をはずした隙に直人に「奈美とつきあえ」など勝手なことを言い、寝てしまう。

 直人は奈美に、ノルマ達成のため契約書を偽造したと告白する。奈美も子どもの頃の万引きを告白する。両親の愛情を独占していると感じていた彼女は、妹と対等の立場になるため万引きしたのだ。だが号泣する家族を見て、以来感じるのは他人の痛みばかりで、自分の痛みがわからなくなったと言う。

 窓の外を眺める二人は、向かいのマンションで煙草を吸う利男の姿を発見。奈美はそれを見て、「利男は別れを承諾した」と言い出て行く。入れ違いで戻る利男。兄弟は、奈美が二人のどちらも選ばないことを噛み締めつつビールを飲む。

 外界から急ブレーキと衝突音。それでも車の走行音は続く。

 第二場「ちゃんとした夕暮れ」。和食レストランの個室にスーツ姿の中年男・大西と女子高生風の梓(奈美の妹)が座っている。二人はどうやら援助交際しているらしい。大西はどうやら離婚したらしく、正式に付き合いたいと迫る。

 大西は、仕事も生活も充実し、人生が最高潮だと感じた瞬間、たまらなく寂しくなり、それを夫婦で共有することもできず、妻が買い忘れた卵を買いに家を出たまま戻らなかったのだと言う。1ヵ月後、妻に送った離婚届もいつの間にか受理されていた、と。

 梓は、今の恋人と別れて大西と正式に付き合ってもいいが、いろいろな理屈をこね回し、友達と互角な人間関係を保つためにも、自分の価値を認めているならこれからもお金をちゃんと払うべきだと、結婚までちらつかせて説得する。

 ためらいながらもお金を渡す大西。立ち去ろうとする梓の前で、大西は思い立ったように前妻に電話をかける。大西が話し出した途端に切れる電話。少しずつ増えていく車の走行音が重なる。

 第三場「天気予報を見ない派」。木下(大西の元妻)が住む古びたアパートの一室。木下は同窓会を装い学生時代の恋人・祐介を呼び出す。携帯電話が鳴り、木下は受けるがすぐに切る。

 突然の呼び出しを訝る佑介に、木下は夫が買い物に出たまま戻らず、離婚したことなどを告げる。木下は「一人で生きる退屈と寂しさを、恋愛感情とは無関係に二人で居ることで紛らわそう」と祐介に持ちかける。

 散歩のついでに買い物をした木下は、学生時代によく食べたオムライスをつくろうとするが、卵を買い忘れている。

 大西と別れてから、近くのスーパーでパートをしながら質素に暮らす木下。今住んでいるアパートには立ち退きの時期が迫っている。他愛もない会話の中で佑介にふと木下に対する傲慢な優しさが芽生えるが、木下はそれを見透かしたように「ヨリを戻さなくていい」と言う。

 不意に訪れる停電。かつて自分を置き去りにし、今また翻弄する木下に祐介はかすかな怒りをにじませる。明かりが戻り、卵を買いに行くと言う祐介に、帰って来るかと確認する木下。

 彼を見送る木下の携帯電話が再び鳴り出すが、画面の光だけを残し溶暗。激しく往来する車の音だけが闇に響く。

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