国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan

An Overview 解説

2010.6.9

National Policy on Promoting International Exchange in the Performing Arts 舞台芸術の国際交流を取り巻く文化政策の潮流 吉本光宏(ニッセイ基礎研究所)

 舞台芸術の国際交流を取り巻くわが国の文化政策は、1990年以降、急激な変化をとげている。まず、90年に芸術文化振興基金が設立され、以後、文化庁を中心に舞台芸術団体や劇場への支援制度が大幅に拡充されてきた。97年には新国立劇場が開場し、現代舞台芸術の分野で、国が本格的な作品制作・公演事業を開始した。また、2001年には文化芸術振興基本法が施行され、芸術家の自主性や創造性の尊重、国民の鑑賞・参加・創造の環境の整備など、8項目の基本理念が定められ、国や地方自治体の責務が明文化された。2007年2月には、基本法に基づいて「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第2次基本方針)」が閣議決定されている。

 一方、行財政改革の流れの中で、文化庁の直営だった国立美術館・博物館は2001年4月に独立行政法人化され、特殊法人の日本芸術文化振興会、国際交流基金も03年10月に独立行政法人に移行された。また、小さな政府の実現に向けた「官から民へ」の流れの中で、03年の地方自治法の改正によって「指定管理者制度」が導入され、地方公共団体の設置した公立文化施設の運営が民間事業者に開放された。その結果、文化政策の分野でも、従来以上に効率性や透明性が求められ、政策評価やアカウンタビリティが重視されるようになっている。

 こうした動きと並行して、アートNPOの活躍も各地で注目されるようになってきた。1998年のNPO法施行から10年間でその数は2,014件に達し(2007年9月現在、「NPO法人アートNPOリンク」調べ)、中でも中間支援型のNPOが様々な分野で芸術文化の振興に重要な役割を果たすようになっている。2006年には、公益法人制度改革関連3法案が国会で可決され、財団法人や社団法人の設立が大幅に容易になり、公益財団・社団には様々な税制上の優遇措置も検討されている。これら民間の非営利・公益団体は、これからの日本の舞台芸術の振興にとって、重要な役割を担うことが期待されている。

創造活動への予算拡充を図ってきた文化庁
 中央政府において文化政策の中核的役割を担ってきたのは、1968年に設置された文化庁である。文化庁の政策は、文化財保護の充実(史跡等の保存・活用、文化財等の保存、伝統芸能等の伝承、国立文化財機構整備運営等)、芸術文化の振興(文化芸術創造プラン、舞台芸術の振興、国立美術館整備運営等)の二つに分けられているが、長らく前者に予算の大半が割かれていた。しかし、芸術文化振興基金の設置された90年以降、文化庁の総予算とその中に占める芸術文化振興の予算割合も確実に増加し、舞台芸術団体や劇場に対する国の支援制度は確実に拡充されてきた。

 96年に創設された「芸術創造推進事業(アーツプラン21)」は、予算規模の面でも内容の面でも、それまでの国の芸術支援制度を抜本的に見直すものであった。「芸術創造活性化事業」として約22億円が予算化され、わが国を代表する芸術団体への重点支援、海外フェスティバルへの参加や海外公演、国内の国際フェスティバルへの支援などが行われた。

 それまで国の芸術文化への支援は、規模も小さく、個別公演の赤字補填的なもので、支援対象が幅広いことから、「ばらまき」との批判も出ていた。アーツプラン21は、舞台芸術の水準を高めるため、各分野で牽引車的な役割を果たしている芸術団体を対象に、年間を通じた公演活動費の3分の1を限度に重点的に支援するというもので、初年度は15団体にそれぞれ数千万円から1億円の支援が実現している。

 さらに2002年度には、前年度に施行された文化芸術振興基本法を受け、同プランは「文化芸術創造プラン」に改編され、新たな政策体系のもとで予算も120億円と前年度から倍増された。その際、劇場にも芸術団体と同様の重点支援(芸術拠点形成事業)が導入された。地域の芸術拠点となる文化会館や劇場は、優れた自主公演などの事業経費の3分の1まで、原則として3年間継続で支援されるようになった。

 文化庁の予算は2003年に初めて1,000億円を超えたが、その後は芸術文化の振興に対する支援額を含め横ばい状態が続いている。また、芸術団体や文化施設に対する重点的な支援は、現在も継続されているものの、05年度に芸術団体への3年継続の仕組みが廃止されたこと、団体や施設の活動全体に対する支援から公演や事業ごとの支援へと変更されたこと、支援対象が広がり1件あたりの支援額が小さくなったことなど、当初の重点支援の色彩は薄まりつつある。

 なお、現在の「文化芸術創造プラン」の主な舞台芸術関係のプログラムは表に整理したとおりである。
舞台芸術の国際交流を取り巻く文化政策の潮流 表

 1997年に開場した新国立劇場は10周年を迎え、今年は若杉弘(オペラ)、牧阿佐美(舞踊)、鵜山仁(演劇)の3人の芸術監督の下、10周年記念事業を含め、オペラ10演目(49公演)、バレエ5演目(26公演)、現代舞踊5演目(21公演)、演劇8演目(117公演)の主催公演が行われている。また、98年のオペラ研修所、2001年のバレエ研修所に続き、05年には演劇研修所も設置され、現代舞台芸術における芸術家等の人材育成においても、重要な役割を果たすようになってきた。

国際文化交流の推進と国際交流基金の役割
 近年では、文化庁も国際交流事業に積極的に取り組むようになってきたが、国際文化交流の分野で、長年にわたって中心的な役割を担ってきたのは国際交流基金である。人物の招聘及び派遣、海外における日本研究の促進や日本語の普及、公演・展示・国際交流会議などの催し、日本文化の海外紹介、アジア地域との交流強化、等々、国際交流基金は1972年の設立以降、非常に多岐にわたる国際文化交流事業に取り組んできた。

 2007年度の総予算は約162億円。そのうち文化芸術交流の促進の予算は約22億円で、人物の派遣・招聘、文化芸術分野における国際協力、市民・青少年交流、造形芸術交流、舞台芸術交流、メディアによる交流の6種類の事業が行われている。舞台芸術交流には、日本の舞台芸術の海外公演及び海外の舞台芸術の国内公演の企画実施や助成、国際舞台芸術共同制作(国内・海外の両方での公演)、国際芸術フェスティバルへの公演団体や専門家の派遣、舞台芸術の国際交流に資する情報の収集、整理、発信などの事業が含まれている。

 ここ数年は、国際交流の分野でも文化庁の方が国際交流基金より潤沢な予算を有しているが、資金提供以上に重要な役割を果たしているのが、現在18ヵ国19都市に開設されている日本文化会館や日本文化センターなどの国際交流基金の海外拠点である。それらは、日本と諸外国との芸術文化交流にとって、双方向のゲートウェイとして機能している。設立後30年以上の活動によって、そうした海外事務所で培われてきたノウハウやネットワーク、それに基づいた情報の提供や相談対応などは、資金援助だけでは得られないものであり、わが国の国際文化交流にとって、貴重なリソースといえる。

 国際交流基金は2003年10月の独立行政法人化を契機に、より効率的で効果的な活動ができるよう大幅な組織変更や事業再編が行われ、従来にも増して戦略的な取り組みが求められるようになっている。
地方公共団体の文化政策と財団法人地域創造
 わが国の政府機関の文化政策においては、地方公共団体も重要な役割を果たしてきた。しかし、都道府県、市町村をあわせた文化予算は、ピーク時の1993年の9,550億円以降、一貫して減少傾向が続き、2007年度には約3,980億円にまで落ち込んでいる。その背景には、近年の財政状況の悪化や市町村合併の進展に加え、各地の文化施設の建設が一段落したことも要因となっている。

 90年代には全国各地に新しい文化施設が次々と整備され、特に劇場やホール施設は、その10年間で約1,000館、つまり年間100館のペースで新設が続いた。ちなみに、2006年3月末現在で、公立の劇場やホールは約3,300館に達しているが(地域創造調べ)、これらの施設のうち、舞台芸術の自主公演を積極的に実施している館は限られているのが現状である。その原因は、事業予算が限られていること、劇場運営の専門家や経験者が少ないことである。最近では、指定管理者制度の導入によって、公立文化施設にはこれまで以上に効率的な運営と経費の縮減が求められるようになっており、一部の事例を除いて、多くの公立劇場やホールは厳しい運営を余儀なくされている。

 そうした中、1994年に地方公共団体関係者によって設立された財団法人地域創造は、芸術文化の振興によって創造性豊かな地域づくりを実現することを目的に、全国の地方公共団体の文化行政、とりわけ各地に整備された公立文化施設の活性化に向けて、財政支援や研修交流事業など、様々な取り組みを実施している。

 2007年度の財団予算は約27億円で、その約45%にあたる12億円が、地方公共団体等が自主的に実施する創造的で文化的な芸術活動の環境づくりに向けた財政支援として支出されている。この財団の特徴的な活動のひとつに、地方公共団体や公立文化施設などの職員を対象にした交流研修事業がある。とりわけ、ステージラボと呼ばれる公立劇場・ホールのスタッフを対象にした短期集中型の研修事業は、財団設立後、既に1,800人以上が受講し、その中から、各地の劇場・ホールで活躍する有能なスタッフが誕生している。

 その他にもこの財団は、複数の公共ホールが連携して共同で演劇製作に取り組むネットワーク事業、東京国際芸術祭における地域劇団の公演、コンテンポラリーダンスやクラシック音楽のアウトリーチ活動の促進など、地域の文化施設の活性化に資する幅広い事業を展開しており、予算規模は小さいながら、全国各地の文化施設や地方公共団体の文化政策を活性化する上で、たいへん重要な役割を果たしている。

 最近の日本の文化政策は、政府機関の予算面だけを見ると停滞傾向にあると言わざるを得ない。しかしながら、舞台芸術の国際交流への関心は以前にも増して高まっており、海外の舞台芸術機関が日本の政府や公的な機関の支援を得て、日本との国際交流を推進する場合、情報や相談の窓口は国際交流基金(海外オフィス)、パートナーは国内の主要な公立劇場や舞台芸術団体、そして財源はそれらの団体が獲得する文化庁や財団法人地域創造等の助成金、といった基本構造を理解すること、それがまず第一歩となるであろう。それらに加え、今後は全国各地でアクティブな活動を展開するアートNPOとパートナーシップを組むことも、事業の実現に向けた情報収集や体制づくり、民間企業や地方公共団体からの支援金の獲得、といった面からも有効な方策となろう。

 公共、民間を問わず、様々なセクターの多様な仕組みが有効に活用され、わが国と諸外国との舞台芸術交流がますます活発になることを期待したい。