文学座アトリエの会『あの子はだあれ、だれでしょね─尼崎連続変死事件より─』
(2015年9月16日〜30日/文学座アトリエ) 撮影:宮川舞子
演出:藤原新平
Data
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[初演年]2015年
[上演時間]1時間40分
[幕・場数]1幕6場
[キャスト]10人(男3・女7)
別役実
あの子はだあれ、だれでしょね
─尼崎連続変死事件より─
別役実Minoru Betsuyaku
1937年、旧満州(現、中国東北部)生まれ。早稲田大学政治経済学部中退。日本の不条理劇を確立した劇作家として、多くの演劇人に影響を与えた。小説家、童話作家、エッセイスト。ベケットらの不条理劇に影響を受け、鈴木忠志らと劇団早稲田小劇場を創設。戯曲『象』(1962年)で注目され、『マッチ売りの少女』(1966年)と『赤い鳥の居る風景』(1967年)で第13回岸田國士戯曲賞を受賞。1971年、『街と飛行船』『不思議の国のアリス』で紀伊国屋演劇賞受賞。同年『そよそよ族の叛乱』で芸術選奨新人賞、 1987年に戯曲集『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』で読売文学賞、1988年、『ジョバンニの父への旅』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。2007年、劇作130本を達成する。戯曲や童話の他に、生物学の常識を覆す奇書のふりをしたジョークエッセイ『虫づくし』をはじめ、日本古来、および現代の妖怪の生態を解説した『もののけづくし』や、『けものづくし』『鳥づくし』『道具づくし』『魚づくし』など「〜づくし」シリーズは、ナンセンス作家としての著者を一躍有名にした。また衝撃的な事件の闇に包まれたメカニズムを鋭敏な目で分析した犯罪エッセイ「犯罪症候群」などの独創的な論考も発表しており、その関心は森羅万象に及ぶ。
一場。女1が「アノコハダアレ、ダレデショネ」と歌いながら、ひな壇に古びた人形を並べている。この家の長らしい半ヤクザ・男1が集金から戻ると、その見知らぬ女1は「三丁目のミヨ子」と名のり、勝手に家に上がり込んでいたようだ。
それから、ミヨ子とその養子・男2は、男1の家族をどんどん浸食していく。男1の孫娘・女3と女2は ミヨ子の養子二人とそれぞれ結婚予定で、重ねてミヨ子との養女縁組みも準備中。男1の息子・男3は縛られ、男1の妻らしき老婆は「死んでいる」と、出刃包丁を持った男2が告げた。
二場。ひな飾りはやや片付いている。ミヨ子は、ウソを織り交ぜながら言葉巧みに家族を取り込み、老婆の死を隠蔽し、孫娘たちの結婚話も進めており、すっかりこの家に住み着いている。息子・男3の会社に勝手に出かけて退職手続きもしており、退職金を受け取るつもりのようだ。
そして家族は、男3が会社の金を使い込んでクビになり、ビルの屋上から飛び降り自殺したと聞かされる。
三場。ゴザの上で食事をする、近隣の女5、女6、女7が、現実か想像か分からない、それぞれの夫殺害方法についてのおしゃべりをしている。
四場。息子の遺体を入れた柩の台車を押す男1と、それに付き添う娘・女4は葬儀場へ向かう。ミヨ子が葬儀場を突如変えたり、喪主も勝手に決めたりと取り仕切っているようで、家族は混乱している。ミヨ子が無理矢理出させたという息子の退職金の行方も分からない。退職金は女4が盗んだとしてミヨ子が警察に手配書を作らせたと聞き、男1と女4は呆然と立ち尽くす。
五場。ひな飾りの前で、逃亡をはかったらしい花嫁姿の孫娘・女3を、ミヨ子は恫喝する。どこに逃げようとしていたかを問いつめていくうちに、男1が女たちを「ヨコハマのコトブキ荘」という売春宿へ送り込んでいることが露見する。そして、かつて孫娘・女2が、「コトブキ荘」で女3と結婚予定である男2の子を身ごもったことも判明。それでも結婚式を続行しようとするミヨ子だったが、近頃、近所で連続している猫殺し調査中の刑事がやってきた隙に、女3は風呂場で首を吊って死んでいた。
六場。男1は、逃亡したミヨ子の養子・男2に預けられた赤んぼを育てている。孫娘・女2は橋から落ちて死んだ。
近隣の女6と女7が、かつてひな祭りの日に、とある男が家に入ってきた女をひな壇の前で手ごめにしたという事件を思い出す。
ミヨ子はかつて忍び込んだ家で、ひな人形とその家の母親、小さな娘二人を見て、そこに入り込めば自分が“ミヨ子”になれると思い、その母親と馴染みになり、殺したと独白する。
しかし、ひな飾りは3年毎に2つの家を往復しているらしく、ミヨ子は間違えた方へ入り込んだのではないかという疑惑が浮かび上がる。
「コトブキ荘」から逃げてきた娘・女4に、男1がミヨ子は留置所で自殺したと告げ、二人は別れる。一人残った男1は乳母車を前に、風が吹く中、立ち尽くす。
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