鄭義信

ドールズタウン

2007.06.30
鄭義信

鄭義信Chong Wishing

1957年、兵庫県姫路市生まれ。作家、演出家。同志社大学文学部を中退し、横浜放送映画専門学校(現・日本映画学校)美術科に学ぶ。松竹の美術助手から劇団黒テントに入団。
同世代の仲間と作った劇団新宿梁山泊を経て、現在はフリーとして活躍。文学座、オペラシアターこんにゃく座、新国立劇場ほかに戯曲を提供する傍ら、92年に立ち上げて自ら作・演出を務めるプロデュース集団「海のサーカス」で、人生の機微を描いた哀しくもコミカルな作品を発表。93年に『ザ・寺山』で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。並行して映画にも活動の場を広げ、同年『月はどっちに出ている』の脚本で毎日映画コンクール脚本賞、キネマ旬報脚本賞などを受賞。98年には『愛を乞う人』でキネマ旬報脚本賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第1回菊島隆三賞、アジア太平洋映画祭最優秀脚本賞など多くの賞を受賞した。平成13年度芸術祭賞大賞他を受賞した『僕はあした十八になる』(2001年 NHK)などテレビ、ラジオのシナリオでも活躍中。08年、新国立劇場制作の日韓合同作品『焼肉ドラゴン』(11年、16年再演)は韓国ソウルでも上演。同作品で第16回読売演劇大賞優秀演出家賞、第12回鶴屋南北戯曲賞、第43回紀伊國屋演劇賞、第59回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2014年春、紫綬褒章受章。
https://www.lespros.co.jp/artists/wishing-chong/

ドールズタウン 結城座×鄭義信
本作は、370年以上の歴史を持つ江戸糸あやつり人形劇団「結城座」のために、鄭義信が書き下ろし、演出した新作。舞台上では人形と実際の人間とが共演し、人形遣いは人形を巧みに操りながら役者としても台詞を話す。この作品では、第二次世界大戦中、戦火の中「ドールズタウン」で暮らす人々を人形が演じ、時代変わって戦後、当時に思いをはせる人々を人間が演じるという上演スタイルとなっている。人形と役者が織りなすコミカルでシリアスな作品。
ドールズタウン

Data :
[初演年]2007年
[上演時間]1時間30分
[幕・場面数]一幕十場
[キャスト数]12人(男6・女6)

撮影:石川純

 「おかめ」と「ひょっとこ」という二人の人形遣いがいる。旅芸人で、行く先々で芸をしては糊口をしのいでいるが、現在無一文。早く次の町へ行かないと飢え死にしてしまう。ひょっとこは焦っているが、おかめは少し知恵が遅れているせいか、呑気なもの。二人は疲れて鉄橋にもたれ、持っている「幸太」人形を取り出してみる。

 そのむかし。終戦の年。関西。

 川沿いに小さな街がある。貧しい人達の貧しい家々。鉄橋から見下ろすと、それらはまるで吹けば飛ぶ人形の集落のようだ。

 少年・幸太はそこで暮らしていた。父は戦死し、家には母ふさよと、間借り人の河島さんがいる。河島さんは革なめしを仕事にしている部落出身者。足が悪く、口数は少ないが、幸太には優しい。自転車を貸してくれたりもする。しかし、母が河島さんになんとなく気があるところが、幸太は気に食わない。

 戦争が終わったら、ここから自由に出かけられるのに……と夢見つつ、仲良しのハーフの真理子、近くに住むうめとみつるの姉弟らと遊ぶ日々。噂話や自慢話、嘘や喧嘩をつきまぜた、現実とも幻想ともつかない話を作っては、みんなで冒険するのが好きだった。

 しかし戦争は日増しに激しくなっていく。母や河島さんは訓練に駆り出され、大好きなハーフの真理子は、彼女の身を案じる祖父から蔵に閉じ込められてしまう。うめもみつるも、行きたくはないが田舎に疎開が決まった。

 そして激しい空襲。夜中までふさよの革草履を作っていた河島さんは、焼夷弾にやられてしまう。街の人たちも死んだり、焼け出されたりして、川は死体で溢れかえる。

 幸太とふさよはなんとか鉄橋まで逃げてきた。しかし周りは炎ばかり。ふさよは河島の作った革草履を幸太に渡す。そして下流に中州があるからそこまで泳げ、と息子を川に投げ落とした。自分は泳げないから一人で行け。ふさよは炎に揉まれつつも、笑いながら手を振りつづけた。

 生き残った幸太は、真理子が蔵から出られなくて死んだことを知る。好きだった人たちがみんないなくなってしまったことも。そして、喜びも悲しみも、すべて抱えて生きていかなければいけないことを知る。

 時代が変わり、人形遣いのひょっとことなった幸太は、つれあいのおかめとなんとかかんとか生きている。母の笑顔、大好きだった真理子の笑顔を胸に、見知らぬ人に幸福を、笑顔を分けてあげるために。

Profile

結城座
日本の江戸時代1635年に初代結城孫三郎が旗揚げ。その後373年(2007年現在)の長い年月を経て、現在 『国記録選択無形民俗文化財』 『東京都の無形文化財』に指定される、日本唯一の伝統的江戸糸操り人形の劇団。江戸幕府公認の五座(歌舞伎三座の市村座・中村座・河原崎座、薩摩座、結城座)の中で、現在もその活動が存続しているのは結城座のみとなっている。座長は、現在の十二代目結城孫三郎。
結城座の主な活動として、伝統的な演目による古典公演の他に、現代作家による書き下ろしや翻訳による新作公演を手がけ、役者と人形が同じ劇空間で競演したり、人形遣いが人形を使う一方で生身で役を演じたり、また新作の劇中に古典の手法や、江戸時代から伝わる「写し絵」(ガラスの板に絵を描き投射する)などを挿入するなど、常に結城座独自の新しい舞台空間を創造し続けている。
ヨーロッパ、中近東、東南アジア、旧ソ連、アメリカなど数々の海外公演でも成功を収め、1986年ベオグラード国際演劇祭で上演した人形劇「マクべス」で、『特別賞・自治体賞』を受賞。2007年7月には、ジャン・ジュネ作、フレデリック・フィスバック脚本・演出で、2002年に初演されたフランスとの海外共同制作『屏風』が、アヴィニヨン演劇祭のメインイベントとして再演される。
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