燐光群『ゴンドララドンゴ』
(2016年7月16日〜31日/下北沢ザ・スズナリ) 撮影:姫田 蘭
Data
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[初演年]2016年
[上演時間]約2時間半
[キャスト]16人(男7・女9)
坂手洋二
ゴンドララドンゴ
坂手洋二Yoji Sakate
1962年生まれ。1983年に燐光群を旗揚げ。以後ほとんどの作品の作・演出を担当する。99年にACCのグラントによりNYに留学。劇団外への執筆および演出、評論集・戯曲集も多数。日本劇作家協会会長を10年にわたって務める。日本演出者協会理事。国際演劇協会日本支部理事。演劇をひとつの「メディア」として捉え、「共同体」と「個人」の相克をテーマに、社会問題をジャーナリスティックな視点で掘り下げる。沖縄問題、自衛隊問題、宗教問題などを取り上げる一方、舞踏、音楽、映像といった他ジャンルとの交流シリーズや、現代能の形式を導入したシリーズ、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)にまつわる連作を発表。海外15カ国27都市で公演を実施し、海外のアーティストとの合作を行うなど、国際的にも活躍。岸田戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞、紀伊国屋演劇賞、朝日舞台芸術賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞など受賞歴多数。
ゴンドラで作業しながら、青春期を過ぎた二人の男・ロクとトラが会話をしている。同僚の事故の話、ロクの関わる小劇場演劇界の話題……。自分の人生の現在の意義を確かめるように「自分の命と引換えに世界中の人が救われるとしたら」と口にするロク。小学生の娘ミチが父の乗るゴンドラという言葉を「さかさま言葉」にして“ゴンドララドンゴ”と書いたと嬉しそうなトラ。いつものように作業を終え、ゴンドラ降下用のスイッチをトラが押した瞬間、ロクとトラの身体が入れ替わった。
仕事帰りに行きつけの居酒屋に寄ったロク(外見はトラ)。周囲の反応を不審に思い、鏡を見たロクは「俺が消えた」と絶句。一方、家に戻ったトラ(外見はロク)はミチと妻ノリコからロクとして扱われ、錯乱する。
二人目の子どもを妊娠しているロクの妻サナエは、本番を明日に控えた芝居の稽古に現れないロクを探して居酒屋を訪れ、そこにやってきたトラ(外見はロク)を劇団の座長ハセガワと一緒に稽古場に連れて行く。
本番、小劇場の舞台に立たされたトラ(外見はロク)は、小道具のロープを引っ張る作業に翻弄されながら、ロク(外見はトラ)の声に合わせ口パクで凌ぐ。「自分の命と引換えに世界中の人が救われるとしたら」──あの言葉は芝居のセリフだった。手にしたロープは、芝居の中では、原発事故による壊滅から世界を救うためのシステムになっていた。
再びゴンドラで作業するロクとトラ。二人は入れ替わったことを秘密にしたまま、生活を続ける。が、やがてトラ(外見はロク)は本当の妻ノリコに入れ替わりを打ち明け、ロクの妻と離婚して、ノリコと再婚。ロク(外見はトラ)は家に寄り付かなくなり、本当の息子トオルを連れて姿を消す。
昭和から平成への時代の変わり目。二人の会社では、給与体系や働き方の見直しを求めていた一部の若手が、天皇が崩御した1989年、バブル景気にのって会社から独立する。
ミチは、昔、父からもらった“ゴンドララドンゴの乗り方ノート”を見ながら、ゴンドラに乗る練習をしていた。
ロクとトラのように中身が入れ替わったヒトミ(中身はヤマシタシズオ)が登場。1995年、愛人だった小説家のシズオと車に乗っていた時に事故が起こり、シズオが死亡。その魂がヒトミに宿る。その体験を小説にしたヒトミを、シズオの妻テツコは恨んでいた。
ロク(外見はトラ)が失踪して6年。バブル崩壊、オウム事件、阪神淡路大震災。時代が変わり、会社が不景気に見舞われているとき、ロク(外見はトラ)が「世界を救うために」トオルを連れて戻ってくる。
ヒトミ(中身はシズオ)が1985年から現在(2016年)までの世界の変化を語る。今、ヒトミはテツコと暮らしている。成長して女優になったミチが、悩みを相談するため入れ替わり体験をもつヒトミを訪ねてくる。
ヒトミはミチにゴンドラに乗ることを提案。ミチは思い出のノートに従い、ロク(外見はトラ)、トラ(外見はロク)に導かれ、みんなが見守る中、ゴンドラ乗りに挑む。子どもの頃、ミチが最初に覚えた言葉は“さかさま言葉”だった。だから、困った時にはとりあえずさかさまに考えてみる。上から読んでもゴンドララドンゴ。下から読んでもゴンドララドンゴ……。ミチの子どもの頃の思いと、トラ、ロクがクロスした時、ゴンドラが下降を始める。
「俺はロクであり、トラだ」「俺はトラであり、ロクだ」と二人。ヒトミの中にシズオを見つけるテツコ。ロクが言う「自分の命と引き換えに世界中の人が救われるとしたら」…トラが答える「わかった。救おう、この世界を。」──溶暗
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