飴屋法水

ブルーシート

2014.04.22
飴屋法水

飴屋法水Norimizu Ameya

1961年生まれ。78年、アングラ演劇の中心的存在だった唐十郎主宰の「状況劇場」に参加し、音響を担当。84年「東京グランギニョル」を結成し、カルト的な人気を博す。87年「M.M.M」を立ち上げ、メカニックな装置と肉体の融合による『スキン/SKIN』シリーズでサイバーパンク的な舞台表現を固める。
90年代は舞台から美術活動に移行しながらも、人間の身体に一貫してこだわり続け、輸血、人工授精、感染症、品質改良、化学食品、性差別などをテーマとして扱い、「TECHNOCRAT」という名のコラボレーション・ユニットの一員として作品を制作。95年、ヴェネツィア・ビエンナーレに「パブリック ザーメン」で参加するが、その後美術活動を停止。同年、東京・東中野に「動物堂」を開店し、様々な生物の飼育と販売を開始した。97年に出版された『キミは動物(ケダモノ)と暮らせるか?』(後の文庫化では『キミは珍獣(ケダモノ)と暮らせるか?』とタイトル変更)は、様々な珍獣の特徴や飼育に関する情報を提供しながらも、それだけにはとどまらず、飴屋が数々の動物と生活を共にする中で見えてきた人間や動物についての数々の考察を含んでいる。
2005年には、それまで休止していた美術活動を、「バ  ング  ント」展で再開。「消失」をテーマとしたこの展覧会のメインとなる作品は、飴屋自身が閉じ込められた1.8メートル四方の白い箱。最小限の通気のみが許された箱の中の闇にこもる飴屋と、外部の人間のコミュニケーション手段はノックのみ。24日にわたる会期を、飴屋は必要最低限の水や流動食を携え、箱の中で過ごし、他者には見えなくなった自らの存在を作品の本質的構成要素とした。2007年、静岡県舞台芸術センター主催「SPAC秋のシーズン2007」では、演出家として演劇活動を再開。オーディションで選ばれた静岡県内の現役女子高校生18人を起用した『転校生』(平田オリザ作)で好評を博した。
日本に移住した外国人を起用した『4.48サイコシス』、夢の島を舞台にしたロメオ・カステルッチとのオムニバス野外劇「じ め ん」など、4年連続でフェスティバル/トーキョーに参加。2012年に大分県国東半島をフィールドワークしたツアー・パフォーマンス『いりくちでくち』(テキスト・朝吹真理子)を発表。演劇活動に加え、現代美術のアーティストや音楽家などと組んだ実験的な活動を展開。2013年に東日本大震災で被災したいわき総合高校総合学科の生徒たちとつくった『ブルーシート』を発表し、第58回岸田戯曲賞受賞。

第58回岸田國士戯曲賞受賞作。演劇を授業に取り入れ、めざましい成果をあげていることで知られる福島県立いわき総合高等学校の生徒たちと飴屋法水がやりとりをしながら書き下ろした戯曲。同校総合学科第10期生アトリエ公演として、飴屋の演出により、2013年1月末に2ステージだけ上演された。登場するのは10人の高校生。会話の断片やモノローグを重ね、それぞれの中に刻みつけられた東日本大震災と原発事故の記憶、その街に暮らす現在が、鮮やかに掬い取られている。

撮影:奥秋 圭

撮影:飴屋法水

撮影:飴屋法水

撮影:飴屋法水

Data :
[初演年]2013年
[幕・場数]11場
[キャスト]10人[男3、女7] 

シーン1:生存確認

 生徒たちが登場。ナツキが人数確認を始める。1、2、3、…10、11。居ないはずの“11”の声をあげたのは、最後尾のヒッチーだ。皆に突っ込まれるヒッチー。確認のカウントが繰り返されるなか、ひとりずつ列を抜け後方の椅子に座っていく。レイナだけが地面に転がっている。皆がその、転がった体を見つめる。

シーン2:それ以前

 草むらで人の体のようなものを見つけたヒッチーのモノローグ(傍らでは、居眠りしているモモに、ナツキが話しかけている)。それは生き物?のようにも、見えた。生き物以前?のようにも、見えた。脅えながら、ヒッチーは転がったレイナの体に近づき、声をかける。「君は、人間か?」 動きだし、声をあげたレイナに、のけぞるヒッチー。

 シガタツが、バットを手にゆっくりとレイナに近づいていく。「人は、見たものを、覚えていることが、できると思う。忘れることが、できると思う」

シーン3:崖

 レイナのモノローグ。大地震のあと、街のいたるところでブルーシートを見かけるようになった。地震で崩れた学校裏の崖も、この夏までシートで覆われていた。ブルーシートの青は、空の青、海の青──。

シーン4:ブルーシート

 地面に広げたブルーシートの“家“で、ままごとのように日常を繰り広げるユウカ。遠くから見ている生徒たちが、ユウカの仕草を言葉にする。ギターを弾き始めるユウカ。「私が住んでいた、あの家には…たぶん、もう戻ることは、ない」。レイナがユウカの体を、ブルーシートで包む。

 フミヤが学校の校舎について語る。入試の時に、一度だけ入った北校舎。その2日後の地震。延期された入学式の時には、北校舎に入ることはできなくなっていた。仮設校舎への移転。北校舎は、今年中に取り壊されるという。地震で、たくさん、人が、死んだ。けれど、僕たちは…死んではいない。

シーン5:誕生日

 いつもの教室風景。アイリが、わざとらしく「誕生日おめでとう!」とシガタツに近づき、交際を迫る。「お前のこと知らねーし、だから好きじゃねーし」と拒絶するシガタツ。アイリは勝手にふたりの未来を占う。アイリにバットを向けるシガタツに、原っぱで見たものの記憶が蘇る。あのひどい匂いのする、肉の塊のようなもの…

シーン6:眠る練習

 鏡の中の自分を見つめるモモと、傍らのナツキ。モモは、毎日、寝てばっかりいる。それはいつか、夢も見ず、ずーっと眠り続けるための練習なのだと言う。

シーン7:灰色の猫

 教室の隅でユカが雑談を始める。白猫と黒猫から生まれた、黒い毛の子猫。混ざって灰色になると思ってた、とユカ。猫からヘビ、魚の話へと、やりとりは続く。魚は、自分の生んだ卵や子どもを食べたりしない。人間は、人間を殺しながら、生きている。白黒の猫から生まれた子猫のように、父親と母親、ふたつの成分から子どもはできあがっている。ぜんぜん違うものが、自分の中にあるということ。いつかその自分も大人になって…大人になった自分たちは、誰かを殺す立場になったりするのだろうか…

シーン8:眠る理由

 ナツキとモモの会話。モモの父親は原発事故を起こした会社、ナツキの父はその下請けで、放射線量を計測する会社に勤めている。眠くなるようになったのは、あの地震の後からだと、モモ。いろんなことを考えようとすると、どんどん頭が重くなって、眠ってしまうのだ。モモがナツキに尋ねる。人間は、本当は何のために眠るの?

シーン9:空

 イズミが、草むらで見たのは死体だったのかと、ヒッチーを問い詰めている。混乱するヒッチー。あれは、人間以前? でも、色だけははっきり言える。それは青かった、この空が写ったみたいに、とヒッチー。ふたりは空を見上げる(側にいたモモ、ナツキ、いつの間にか入ってきたレイナも空を見上げる)。ユカが携帯で誰かに謝っている。「ウチはまだ、混ざるってことが、怖くてしかたないんだよ。ごめん…ごめんね」

シーン10:天気予報

 イズミが問題を出し、皆がそれを英語にしていく──ブルーシートは、ブルーです。今日はとってもいい天気。明日の天気は、わかりません。

シーン11:あの日

 ナツキがジャンケンゲームを仕切り始める。彼女が繰り出す質問に、皆が答えていく──卒業したら、いわきから出たい人。いつか日本を出たい人。生まれ変わったら、もう一度、人間になりたい人。次のゲームは椅子取りゲームだ。最後まで残ったふたりが、椅子のまわりを回っているところで、突然、ゲームは中断。

 シガタツとフミヤだけが残っている。フミヤは、彼の家が壊れていくときの様子を、ブツブツつぶやきながら、踊りで表現している。シガタツは、椅子を奇妙な塔のように積み終わると、フミヤに言う。「人は、見たものを、覚えていることができると思う。人は、見たものを、忘れることができると思う」

 フミヤの声、大きくなる。「逃げて!ここから!逃げて!逃げて!逃げて!」

 生徒たちが戻ってくる。それぞれの言葉がリフレインされ、全員で再び、生存確認のカウント。10をすぎて、「11」。数え終わると、皆は校庭の後ろに去っていく。ひとり残ったレイナが、“あの時”を語る。自分が居なくなった世界のことを考えていたあの時──。

 校庭の向こうから皆の声。「おーーーい!おーーーい!お前は、鳥かー!」

 レイナが皆のところに走っていく。「おーーーい!おーーーい!お前は、人間かー!」

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