永山智行

水をめぐる 3

2013.04.30
永山智行

永山智行Tomoyuki Nagayama

1967年、宮崎県都城市生まれ。劇作家、演出家。1990年に結成した、宮崎県内の2つの町(門川町・三股町)の文化会館を拠点に活動する劇団「こふく劇場」の代表を務める。土着的な風俗・伝承などを日常にすべり込ませた、寓話的で広がりのある劇作と、狂言や落語など古典の身体性や発語を取り入れた表現が特色。2001年『so bad year』でAAF戯曲賞受賞。同作をはじめ、戯曲は劇団外での上演も多く、05年に東京国際芸術祭参加作品として書き下ろした『昏睡』は、09年には、青年団の中心的俳優・山内健司、兵藤公美の二人芝居として、神里雄大(岡崎藝術座)演出により上演された。また京都の劇団「地点」の演出家・ 三浦基 との共同作業として『お伽草紙/戯曲』(劇団うりんこ 10年)、『Kappa/或小説』(地点 11年)の戯曲も手がけている。また、07年からは障害者も一俳優として参加する「みやざき◎まあるい劇場」での創作も手がけている。演出家としては、06年10月に宮崎県立芸術劇場の演劇ディレクターに就任。九州全域の劇団から俳優を集めてのプロデュース公演「演劇・時空の旅シリーズ」を企画・演出するなど、宮崎や九州から世界へ発信する劇場を目指し活動している。

こふく劇場
http://www.cofuku.com/

宮崎県立芸術劇場
https://miyazaki-ac.jp/

永山智行が主宰する劇団こふく劇場の代表作で、「水」をテーマにした三部作の最終章。「泉」をめぐる人の欲望を映す『水をめぐる』(2008年初演)、夫の遺骨をまくため「海」を探す女の道程を描く『水をめぐる2』(2010年初演)に続き、『水をめぐる3』では「川」に宿る記憶を探す旅が寓話的に描かれる。初演では、三部作とも正方形の木製の舞台中央に水を入れた透明な立方体の箱を設置し、舞台下手のブースで俳優が鐘や太鼓などの効果音を担当した。

劇団こふく劇場『水をめぐる 3』
(2012年) 撮影:岩崎きえ
Data :
[初演年]2012年
[上演時間]1時間20分
[幕・場数]1幕
[キャスト]4人[男1、女3]

 登場人物のうち「渡(わたり)」は、教授やガグレ(河童)など複数の役柄を演じる。また、舞台中央、川を模した布の後ろに座った「婆(ばあ)」が、終幕までゆっくりと食事をする仕草を行う。

 男・深見が「ことばを飲み込む川」について語り出す。「渡」が深見の所属する大学の教授として登場。もっと世間の役に立つ研究をするよう促すが、深見は従わない。実は、教授は川の氾濫ですでに亡くなっている。

 別の時空。川から流れて来た女の赤児と、それを拾った88歳の「婆」の物語が語られる。周囲はガグレの子と忌むが、婆は「河(こう)」と名づけて育てる。「河」が成長して産んだ娘が、語り手である「歌(うた)」だ。「歌」は母から教わった歌を口ずさむ。

 川を遡り調査する深見の前に、教授の弟である助教授が現れる。助教授は「川の源流をめざすと死ぬ」とまで言うが、深見は歩みを止めない。

 次に出会ったのは土地の女房。問いかけても答えぬ女房に、深見がその土地に伝わる踊りを見せると、女房も踊りで応じる。女房は「よそ者の問いに答えるな」という噂が流れていると言う。

 突然ガグレが現れ、食事をご馳走すれば、深見の探すもののところへ案内すると言う。了承した深見は、「歌」に出会う。母や婆の思い出を話す「歌」。それを聞くうち、深見のなかでも亡くした人の記憶が甦り始める。歌は祈りであり、癒しとなると言う「歌」。二人は川の源流へと向かう。

 道々、「歌」は母の話を続ける。「河」は10歳を超えてもことばを喋らなかった。だが、婆が衰えて食事もできなくなったとき、初めて「んまー(ご飯)」と強く呼びかけた。その声は婆に食欲と命を取り戻させた。さらに成長した「河」は、よそから川の調査に来た男の子を宿し、「歌」が生まれる。その男は川の源流を訪ねたまま戻って来なかった。だから「歌」は、深見と共に源流を目指した、と言う。

 二人は山道で身体が透けた男を見つける。男は、呼ばれなかったため自分の名前が思い出せず、消えかけていると言う。男が消えた瞬間、川は流れを止め、山からすべての音がなくなる。源流へと急ぐ二人。

 道は遠く、二人は疲れ果てて座り込む。降り出す雨。「歌」は急に怯え、深見と強く手を結ぶ。不意に「歌」は大雨で川があふれ、人々が水にさらわれ、婆や「河」もさらわれた記憶を語り出す。

 「歌」のことばで深見は真実を語りだす。自分には記憶がなく、かつて川のほとりで出会った老人の名前を名乗っていること。旅の途中に出会った人々は、巫女である渡の口寄せが見せた幻だということ。

 男(深見)は再び渡に口寄せを頼むが、既に死んで川を渡ってしまったと断る。「死んだ人が、今、ここにいる、あなたがそう語りさえすれば、死んだ人はずっといなくならない」と言い残し、渡は去る。

 残された「歌」と男。「歌」は男に「滴(しずく)」という新たな名前をつけ、二人は再び命の源流をめざす。命を呼ぶ「んまー」の叫びを繰り返す二人。無言の婆が、それを祝福したようにも見える。

 そして二人は、むかしむかしあるところにいた、おじいさんとおばあさんのような、始まりの二人になる。

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