KAKUTA第22回公演『ひとよ』
(2011年10月21日〜30日/シアタートラム) 撮影:相川博昭
Data
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[初演年]2011年
[上演時間]1時間55分
[幕・場数]1幕6場
[キャスト]13人(男7・女6)
桑原裕子
ひとよ
桑原裕子Yuko Kuwabara
東京都出身。1996年、劇団「KAKUTA」を結成。2001年より劇作・演出を手がける他、俳優としても出演し、中心的な役割を担っている。緻密なプロットによるウェルメイドな作風にこだわり、日常を生きる人々の感情を濃やかに描き出す。また、屋外や遊園地、プラネタリウム、ギャラリーなど劇場外の空間を利用した公演やリーディングも行っている。外部プロデュース公演や映像作品への脚本提供、外部での演出、出演も多数。代表作 『甘い丘』 では07年に第52回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされたほか、09年再演時には作家・演出家として第64回文化庁芸術祭新人賞を受賞。外部に書下ろした11年の『往転』も同年の鶴屋南北戯曲賞と岸田國士戯曲賞の最終候補となった。
1996年3月のある夜。稲村タクシーの営業所。長男・大樹と長女・園子がテレビを見ている。二人とも顔や体にケガをしている。帰宅した運転手姿の母・こはるは、母屋から次男・雄二を呼び、「父ちゃんを殺した」と告げる。子どもたちを守るためにしたことであり、「今、自分を誇らしく思う」と宣言。自首して罪を償うが、ほとぼりがさめる15年後には必ず帰宅すると約束して家を出る。
15年後。稲丸タクシーと名前を変えた会社を、今はこはるの甥・進が経営している。従業員は、こはるの友人で15年前から配車予約の電話番をしている弓、運転手の歌川、女性ドライバー・牛久(通称モー)、新人の堂下。3人の子どもたちはそれぞれに訳ありの15年を送り、こはるの自首前の展望とは違う道を歩んでいた。大樹は結婚して妻・二三子と母屋に住みながら妻の実家の電器店に勤務。園子はスナック勤め、雄二は東京でライター見習いをしている。
3月のある日、午前5時。営業所では父の法要のため東京から戻った雄二が居眠り。そこに三々五々みなが戻ってくる。言葉には出さないが大樹・園子・雄二は母の帰還の予感に落ち着かない。ガレージを閉めに行った進が「人影がある」と戻ってくるが、それはニセコの酪農家でなぜかカタコトの日本語しか話せない吉永(実はこはるが出所した後の一時期世話をしてくれた恩人)だった。
堂下と眠り込んだ園子だけが残った営業所に、何事もなかったかのようにこはるが入ってくる。
翌日夕方。営業所では弓がこはるとの再会を喜んでいる。はしゃぐ母たちを尻目に大樹・園子・雄二は母の帰還を受け止め切れない。そこに今は別居中の二三子が戻ってくるが、大樹は両親共に亡くなったと妻に説明していたため、こはると二三子の会話はかみ合わない。
同日深夜。15年の間の従業員と子どもたちの身の上が次々と明らかになる。姑の世話をしながら年下の歌川と密かに付き合っている弓、再会した息子の学費のために弟分の友國に頼んで運び屋をやっている元ヤクザの堂下、吃音や父の虐待により曲がったまま治らぬ指をコンプレックスに抱えた大樹は被害妄想気味の二三子と夫婦げんかが絶えない……。しかも、こはるの「ひと夜」の決断の結果、大樹は就職の内定を取り消され、園子は美容学校を辞め、雄二はグレていた。それでも「母ちゃんは間違っていない」と言うこはる。
4月のある日。こはるのことが好意的な雑誌の記事になり、その反響からか配車依頼の電話が鳴り続ける。母屋には地方局のテレビクルーも訪れ、好転の兆しかと思われた。が、そこに無断欠勤していた弓が放心状態で現れ、「姑を殺してしまった」と告げる。
数日後。徘徊中に事故死した弓の姑の葬儀から人々が戻ってくる。こはるへの嫌がらせでタイヤをパンクさせられるなど、稲丸タクシーには暗雲がたれ込めている。さらに二三子が葬儀の弔問客にこはるのことを理解してもらおうと、雑誌の記事を配っていたことや、自身の吃音や指まで自分が治してみせると吹聴したことで大樹は激昂。離婚届を突きつけたうえ、ヤケになって家具などを蹴散らす。
止めに入ったこはるに、大樹はダメな父と同じように自分も殺すのかと詰め寄る。仮眠室に駆け込むこはる。カーテンを開くと、そこには雄二が中学生時代に隠したエロ本を読み耽るこはるの姿があった。自分は立派ではないというアピールなのだ。毒気を抜かれる人々。
同日深夜。美容師志望だった園子に散髪してもらった吉永のお披露目が行われている。長髪から角刈りになった自分の姿を見て「転換期だ」とつぶやく吉永。
そこへ泥酔した堂下を連れて友國と連れの女・日名子が現れる。学資のつもりで息子に送っていた金が、遊ぶ金欲しさにたかられたものだと知り、自棄酒で酔い潰れたのだ。別れた息子と再会した「ひと夜」の喜びは何だったのかと悔やむ堂下を、こはるは静かにたしなめる。
「自分にとって特別なひと夜なら、それでいいではないか」と。
騒ぎが収まり大樹と雄二が庭に出ると、夜空には飛行船が飛んでいる。後から来た園子に飛行船を指さす大樹。だが曲がった指はあらぬ方向を指し、そのことで三人は笑い転げる。こはるもつられて笑い出すが、次の瞬間大声で泣き出す。子供たちはそれぞれ過去を乗り越えつつある。けれどそこに「事件」の傷跡は残っており、自分の犯した罪も決して消えず、時間は取り戻せぬという事実がこはるを打ちのめしたのだ。驚き、ゆっくりと母のもとへ歩み寄る子どもたち。
外では吉永が旅立ちを決意していた。「夜が終わるところまで」という彼の言葉にモーがエンジンをかけ、タクシーが走り出す。
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