畑澤聖悟

3月27日のミニラ

2009.06.24
畑澤聖悟

畑澤聖悟Seigo Hatasawa

1964年、秋田県出身。91年、劇団弘前劇場に入団。俳優としての経験を土台に、2000年以降は劇作家・演出家としての活動を本格化させる。05年『俺の屍を越えていけ』が日本劇作家大会2005熊本大会・短編戯曲コンクール最優秀賞を受賞。同年、青森市を拠点に演劇プロデュース集団「渡辺源四郎商店」を設立し、08年より劇団として始動。地元演劇人の育成や、全国を視野に入れた新たなアートネットワークづくりに取り組んでいる。独自のユーモアを交えた深い人間洞察に基づく劇作は幅広い世代に支持され、劇団昴、青年劇場、民藝など他劇団への書き下ろしも多い。ラジオドラマでも文化庁芸術祭大賞を受賞。また、現役教諭として指導した高校演劇部を幾度も全国大会へ導き、05年には『修学旅行』が高校演劇日本一の栄冠に輝く。本作品は第44回東北地区高等学校演劇発表会にて最優秀賞を受賞し、全国高等学校演劇大会への出場権を獲得したほか、東日本大震災で被災した気仙沼や大船渡、釜石など東北各都市での無料慰問公演を実施。今後も慰問を継続する予定となっている。

https://www.nabegen.com/

メイド・イン・ジャパンの有名なモンスターに、ゴジラという怪獣がいる。そのゴジラの子どもがミニラである。本作は、学校の業務システムに理不尽なクレームをつけるいわゆるモンスター・ペアレンツをゴジラになぞらえ、その子どもミニラの終業式の一日をシニカルに描いたものだ。
畑澤聖悟『3月27日のミニラ』
畑澤聖悟『3月27日のミニラ』

渡辺源四郎商店 第9回公演『3月27日のミニラ』
[青森公演]2009年4月19日〜26日/アトリエ・グリーンパーク
[東京公演]2009年5月2日〜6日/ザ・スズナリ
©山下昇平
Data :
[初演年]2009年
[上演時間]1時間20分
[幕・場面数]1幕1場
[キャスト数]10人(男6・女4)

 場所は、青森市にある市立善知鳥中学校の校長室。

 終業式、および2年3組担任の小林よしこ先生と大橋養護教諭の離任式、および校長の退任式を30分後に控え、ミニラが校長と雑談している。

 ミニラは、校長のみならず、すべての先生に向かって、ひどくぞんざいな物言いでわがままを述べ立てている。ほとんど因縁である。彼は登校してきても教室には行かず、ほとんどの時間を保健室か校長室で過ごしてきた。保健室の大橋、担任の小林、校長の笹原と、関わりのあった先生すべてが、どうやら一度に学校を去る形になってしまったらしい。

 そもそもは小林先生がミニラの喫煙現場を目撃し、母親にその事実を報告したことがきっかけだった。母親は子どもをとがめるどころか、ゴジラのどう猛な本性を剥き出しにして、小林先生を集中攻撃。先生はおそらくそのために体と心をこわして学校に来られなくなったらしい。今日の離任式も本人は欠席、父良寛と甥守道が代理出席して挨拶を述べることになっている。

 やがて終業式も終わり、つかの間の春休みに浮かれて帰って行く先生たち。あれほど憎まれ口を叩いていたミニラがどこか落ち込んで見える。もしかすると本当は小林先生が好きだったのではないか……。そんな彼に、立ち去りがてらの校長が声を掛ける。

「君はお母さんの亡くなったあとも生きてかなくちゃならないんだよ」

一人残った校長室で、ミニラは煙草に火をつけ、煙を吐きだすのだった。

この記事に関連するタグ