「KOMACHI」
(2007年4月/世田谷パブリックシアター)
Data
:
[初演年]2003年
[上演時間]約2時間
[幕・場面数]それぞれ1幕
[キャスト数]「AOI」4人(男2・女2)/「KOMACHI」3人(男3人)
川村毅
現代能楽集「AOI/KOMACHI」
川村毅Takeshi Kawamura
1959年、東京都出身。明治大学演劇研究会を母体に80年に劇団「第三エロチカ」を結成。以後80年代の小劇場ブームを牽引する、めざましい活躍を見せる。85年『新宿八犬伝 第一巻─犬の誕生─』で岸田國士戯曲賞受賞。代表作に『ニッポン・ウォーズ』『ハムレットクローン』 『AOI/KOMACHI』 『ロスト・バビロン』『ワニの涙』』シリーズなど多数。ACC日米芸術交流プログラム グランティー(96年)、『マクベスという名の男 A Man Called Macbeth』Theatre der Welt Essenを皮切りにした世界ツアー(90〜97年)や、仏、英、独、伊語に翻訳された『AOI/KOMACHI』の現地でリーディング上演、2007年の北米ツアーなど海外でも幅広く活動を展開。02年、創造の幅を広げるためプロデュースカンパニー「T Factory」を設立。世田谷パブリックシアター主催による現代能楽集シリーズでは『AOI/KOMACHI』『春独丸』『俊寛さん』『愛の鼓動』を書き下ろした。2010年、30周年を機に「第三エロチカ」を解散。以後も劇作家として精力的に活動するほか、小説や評論、エッセイの執筆も手がける。現在はピエロ.パオロ.パゾリーニによる戯曲の日本初演連続公演を行っている。京都造形芸術大学教授。
「AOI」
時は現代。カリスマ美容師・光の美容室。
半年前から入院している光の妻・葵は病院を抜け出し、光に髪をカットして欲しいと美容室にやってくる。生身の女性よりも切り離された髪の毛を愛する光──。見習い師の透はそうした光の異常な愛し方が葵の病状を悪くしていると心配する。
「あなたの愛する髪の毛の中には、あの人のものも混じっているのね」と嫉妬する葵。あの人とはかつての光の愛人、六条のことだった。光よりはるかに年上の六条は、光が22歳の時にその才能と美貌に惚れ込み、現在の彼にまで導いた恩人だった。
葵と入れ替わりに、六条が光とよりを戻そうと美容室に現れるが、光は自分を育ててくれた恩人として感謝しているだけだと断る。光との関係に拘泥する六条は、かつて光とともに犯した夫殺しの場面を再現し、二人の共犯関係を思い出させようとする。
そんな六条に、光は、葵と自分との間には子どもの頃に父親から虐待を受けたもの同志という特別な関係があるのだと打ち明ける。それでも、もう一度戻ってきてと虚しく呟く六条。その髪をカットする光、と暗転。
舞台が明るくなると、意識を取り戻したかのような光がいる。さっきまでの光景は幻だったのか……。
そこへ、品のある物静かな女性の六条が登場し、光のいまの暮らしの幸せをやさしく言祝ぐ。
病院に戻っていたはずの葵が透とともに再び登場。彼女の髪は透によって剃髪されていた。若い透に興味を引かれて連れ去る六条をしり目に、「あなたの好きにカットして頂戴‥‥あたしのこと好き」と尋ねる葵に、光は見えない髪にハサミを動かしながら、「ああ、もちろん……君を離しはしないよ……美しい、この髪……」と答えるのだった。
「KOMACHI」
秋。遠くに戦争の音が響いている。
8年間映画を撮っていない映画監督の男が、場末の映画館で、伝説の女優・小町が出演している幻のフィルム「新しき国」と出会う。その映画館こそ、若くして引退し、いまは老女となり果てた小町の私設映画館だった。
小町を姫と呼び、そばにかしずく老人に拉致された男は、小町からボロボロの原稿用紙の束を手渡される。戦地におもむき帰らぬ人となった深草少将が、小町を主演に撮るはずだったシナリオである。小町に恋をして撮影所に99回通い詰めた少将を、小町もまた愛していたのだ、と語る老人。実は、その少将と男がうり二つだったのだ。
男は、小町を主演に、そのシナリオで映画を撮るよう強要される。あたかもカメラの前に立っているかのような老女。カチンコが鳴ると、見る影もなく老いさらばえたはずの彼女の肉体が妖しい魅力を放ちはじめる。
そして小町は、深草少将の亡霊に取り憑かれ、永遠の魂についてうわごとのように語り続ける男をフィルムで絞め殺してしまうのだった。
なお、小町の台詞はいっさいなく、初演は男性舞踏家・笠井叡が身体パフォーマンスのみによって演じた。
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