国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan

New Plays 日本の新作戯曲

2017.4.17
上田誠『来てけつかるべき新世界』

This New World that Had to Come

Makoto Ueda

来てけつかるべき新世界
上田誠

京都を拠点に活動し、テレビゲーム、SF、ファンタジーを織り交ぜた群像コメディを得意とする上田誠の第61回岸田國士戯曲賞受賞作。ドローンが飛び交い人工知能が当たり前の近未来、大阪の繁華街・新世界を舞台に下町のおっちゃんたちやロボットが入り乱れた電脳社会ならではの新しいドタバタ喜劇が展開する。

ヨーロッパ企画第35回公演『来てけつかるべき新世界』
撮影:清水俊洋
Data :
[初演年]2016年
[上演時間]
[幕・場数]
[キャスト]

 舞台は大阪・新世界のはずれ。ビールケースの上で歌う歌姫にやんやと拍手しながら、常連のおっちゃんたち(将棋指しのイシダ、コインランドリー屋のワカマツ、散髪屋のホンダなど)は、いつものように串カツ屋「きて屋」で呑んで騒いでいる。

 店の看板娘マナツは数年前に母親を亡くし、それがきっかけで父親は酒浸り。マナツはひとりで店を仕切っていた。観光客が店の様子を無断でカメラ付きドローンで撮影している。

 「ドローンハイウェイ」が整備されて以来、大阪の空には出前ドローン、宅配ドローンなどさまざまなドローンが飛び交っている。マナツに好意を持っているテクノは、東京汐留から「きて屋」にタブレット付ドローンを頻繁に飛ばし、串カツを注文しにやって来る。

 「きて屋」のソース二度漬けの動画がネットにアップされ、食べログの評価が一気に下がる。新技術研究企業CEOのテクノがその違法性を指摘し、動画は削除される。テクノにデートに誘われたマナツは、店をあけて東京に行くべく、彼から贈られたロボットアームに串カツの揚げ方を教えている。

 ワカマツは、店に侵入した野良の警備ロボットともめている。人間に捨てられたロボットやドローンが野生化し、自分の意志で街を動き回っているのだ。

 お笑い芸人を目指して家出していたワカマツの息子キンジが、ロボットとの大喜利に負けて東京から帰って来る。キンジとの再会にマナツの心は揺れ、テクノとのデートを断る。警備ロボットは献身が認められて「パトロー」と名付けられ、ワカマツ家の一員となる。

 人工知能を搭載したゴーグル型ガジェットが発明され、「チャリン」というアプリを使えば、目の前の相手の将来の稼ぎも予測できるという。おっちゃんたちがゴーグルで遊んでいると、生身のテクノが再度デートの申し込みにやって来る。成り行きで、テクノとイシダのおっちゃんが人工知能を搭載した炊飯器と将棋で勝負をする。イシダは惨敗。その夜、炊飯器には人格が宿る。

 マナツが、炊飯器を手に持つキンジを「チャリン」でのぞくと稼ぎが上がった。キンジと炊飯器の異色コンビで漫才をすれば売れるのではないか──。マナツとキンジはめでたく結婚する。

 ホンダのおっちゃんは遊郭のVRのりんねちゃんに惚れている。マナツのVRとデートしているテクノは、ドライヤーを改造してVRマシンを作り、リアルとバーチャルの垣根を越えて、ホンダとりんねちゃんが一緒に暮らせるよう助ける。

 現実にアクセスできるようになったりんねちゃんは暴走。緊急措置でテクノが彼女のデータを消去したが、すんでのところでビリケンに飛び移り、二人は再び一緒に暮らし始める。

 マナツの亡き母のライフログ記録が残ったリストバンドが見つかり、父は必死にログを調べている。

 世間では電脳社長が経営するファミレス「サイバーゼリヤ」が大盛況だった。歌姫が自分の脳もバックアップを取ってみたいと言い、おっちゃんたちはパソコンのディスプレイに「歌姫ダッシュ」をつくる。しかし、「二重存在は犯罪」だった。

 知能爆発が起こり、サイバーゼリヤの企業理念が暴走。店舗数がどんどん増え、大阪の街はサイバーゼリヤの緑の光線に乗っ取られる。その時、パトロー、炊飯器、りんねちゃんら人工知能たちが通天閣と交信し、暴走を止める。完全知性身体であるサイバーゼリヤ社長の意志を、通天閣に宿ったマナツの母のライフログ集合体が押さえ込んだのだ。

 新世界は救われた。マナツの母は社長からペルセウス座のエリアマネージャーを任され、宇宙的な思考となって消えて行く。

 「きて屋」では今日も常連のおっさんたちが呑んでいる。人口知能たちも近くに見える。

Profile

1979年京都府出身。1998年、大学入学とともに同志社小劇場に入団。同年、劇団内ユニットとしてヨーロッパ企画を旗揚げ。2000年、「ヨーロッパ企画」として正式に独立。代表として全ての本公演の脚本・演出を担当している。『冬のユリゲラー』『囲むフォーメーション』『平凡なウェーイ』『Windows5000』がそれぞれOMS戯曲賞最終候補となる。2009年、『冬のユリゲラー』を原作とした映画「曲がれ!スプーン」公開。2010年、構成と脚本で参加したテレビアニメ「四畳半神話大系」が、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞受賞。大喜利イベント「ダイナマイト関西2010 third」で優勝。「企画ナイト」ほか、イベントへの出演も数多い。 外部の舞台や、映画・ドラマの脚本、テレビやラジオの企画構成も手がけている。2017年「来てけつけるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。

ヨーロッパ企画
http://www.europe-kikaku.com/