Théâtre des Annales vol.4『従軍中のウィトゲンシュタインが(略)』
(2015年10月15日〜27日/こまばアゴラ劇場) 写真提供:テアトル・ド・アナール
Data
:
[初演年]2013年
[キャスト]5人(男5)
谷賢一
従軍中のウィトゲンシュタインが(略)
谷賢一Kenichi Tani
作家・演出家・翻訳家。1982年、福島県生まれ、千葉県柏市育ち。DULL-COLORED POP主宰。明治大学演劇学専攻、ならびにイギリスUniversity of Kent at Canterbury, Theatre and Drama Studyにて演劇学を学んだ後、劇団を旗揚げ。「斬新な手法と古典的な素養の幸せな合体」(永井愛)と評されるポップでロックで文学的な創作スタイルにより、小劇場から商業演劇まで幅広く評価されている。『最後の精神分析』(2013年)の翻訳・演出により第6回小田島雄志翻訳戯曲賞、ならびに文化庁芸術祭優秀賞を受賞。また多数の海外演出家作品に翻訳・上演台本・演出補として参加。シルヴィウ・プルカレーテ演出『リチャード三世』、フィリップ・ドゥクフレ『わたしは真悟』、シディ・ラルビ・シェルカウイ演出『PLUTO』、デヴィッド・ルヴォー演出『ETERNAL CHIKAMATSU』など。近年の代表作は、KAAT『三文オペラ』(翻訳・上演台本・演出)、東京芸術劇場『エブリ・ブリリアント・シング』(翻訳・演出)、DULL-COLORED POP『福島三部作』(作・演出)など多数。「福島三部作」(『1961年:夜に昇る太陽』『1986年:メビウスの輪』『2011年:語られたがる言葉たち』)で第64回岸田國士戯曲賞受賞。第二部の『1986年:メビウスの輪』で第23回鶴屋南北戯曲賞受賞。
DULL-COLORED POP
https://www.dcpop.org/
第一次世界大戦、東部戦線の前線。兵士達の宿舎が舞台。ルートヴィヒは友人ビンセントに手紙を書いている。彼にとっての「仕事」=哲学は一向に進まない。世界についての考察、東部戦線の戦況、どちらもはっきりしない。
そこに、イングランドにいる〜ここには存在しないはずの〜ビンセントが現れる。ルートヴィヒは、愛について、論理について、言葉について、ビンセントと会話する。
同じ小隊の兵士たちの騒がしい賭けトランプに遮られ、ビンセントは姿を消す。賭けに勝ったミヒャエルは、娼婦を買いに出てゆく。ミヒャエルはビンセントと相貌が似ている。
福音書を読みふけるルートヴィヒに、カミルは塹壕戦で負傷した自分の足を示し、「神はとっくに死んだ」と詰め寄る。
気のやさしいベルナルドは死んだ戦友たちを思い、祈る。そして、神がいないとしたら自分は誰に祈っているのだろうか、と問う。
スタイナー軍曹が宿舎にやってきて作戦会議を始める。今夜戦闘配備となることが決まった。作戦内容は「来たら、撃つ」‥‥拍子抜けする兵士たち。スタイナーはテーブルの上に食料のパン、ソーセージ、タバコの吸い殻を、それぞれ山脈、川、連隊の配置に見立てて並べ、地図をつくって説明する。想定される敵軍の数は味方の何倍もあり、あらゆる兵器をもっている。
スタイナーは言う。「心配するな。勝つときは勝つ。死ぬときは死ぬ」。ベルナルドが神の存在を問いかけると、スタイナーはスキットルを神に見立て自軍の領地に置き、カミルを連れて機関砲の手入れのために出て行く。
残されたルートヴィヒは、ボタンと毛糸で、哨戒塔、機関砲、塹壕の配置を加え、敵の戦略を推理する。やがて彼は疑問を抱く。「なぜ、このように、モノで現実を写しとることができるのか‥‥?」。そして閃く。我々は言葉で現実を写しとれるのだ。我々は言葉によって、目の前の配置から宇宙の周縁までの「世界」を写しとることができる。彼は大いに興奮する。
言葉は、現実を写しとるだけでなく、あり得るかもしれない世界をすべて語ることができるのだ。しかし、スタイナーが神に見立てたスキットル、これはその場所にはない。だが「神はいる」と言うことはできる・・。
ビンセントが再び彼の前に現れる。彼らはそれぞれの前にある別の風景を、言葉で描いていく。さらに、かつて共に過ごした大学、ファンタジーの世界、月面へと旅をする。
ルートヴィヒは言う。「思考の限界は、言語の限界と一致する」「思考の限界を示す境界線は、内側からのみ引くことができる」。「神は宇宙の外側にいる。外側は、内側から見えない」とビンセントがルートヴィヒに語りかける。
スタイナーが集合を呼びかける。いよいよ作戦実行の時が迫ってきた。危険な哨戒塔係をくじ引きで決めようとすると、死に場所を求めているかのようにカミルが志願する。スタイナーは取り合わず、哨戒塔係はミヒャエルに決定する。
スタイナーは再度「勝つときは勝つ」と言う。ルートヴィヒはこれを、論理学的に意味のない言明だと否定する。ベルナルドは、スキットルをテーブルの上に置き「神はここにいる」と言う。ルートヴィヒは、神は物質ではないと否定し、「神に似た何かはあるはずだが、この部屋にはいない」と言って、部屋の明かりを消す。不安が支配する。
暗闇の中、一同は、先の塹壕戦のことを思い出す。爆撃の音がする。叫び声がする。サーチライトで広大な暗闇の中、敵兵を探索する。
自分たちは生きているのだろうか、とベルナルドが問う。わからない。ルートヴィヒは再びランプをつけるが、男たちの世界は暗闇のままだ。
「明かりをつけたい‥‥」。ルートヴィヒは願い、哨戒塔係を志願する。兵士たちは戦闘に向かう。
先の作戦から2週間後。ルートヴィヒはビンセントに手紙を書いている。この2週間、ルートヴィヒの「仕事」は進んだ。「語り得るものについては明晰に語り得る。しかし語り得ぬものについては沈黙するしかない」と、彼は手紙に書きつける。
スタイナーが作戦会議を始める。「戦況はオーストリア軍に有利」「小隊は本日撤退」という指令書が読み上げられる。そしてルードヴィヒに一通の手紙を渡す。
ビンセントの母親が書いたその手紙には、ビンセントが事故で死んだこと、ルートヴィヒへの感謝の気持ちが記されていた。
ルートヴィヒは、彼を茶化すミヒャエルを抱きしめ、ビンセントの死を悼んで祈る。ルートヴィヒは、撤退に向けて準備を始める。
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