横山拓也

エダニク

2012.12.19
横山拓也

Ⓒ 阿部章仁

横山拓也Takuya Yokoyama

1977年生まれ、大阪府出身。劇作家・演出家・iaku代表。大阪芸術大学在学中の1996年、同級生と劇団「売込隊ビーム」を結成。実力を備えた若手注目株として人気を博し、2011年の退団まで作・演出を務める。2012年3月に演劇ユニット、iakuを立ち上げ、大阪と東京で創作活動を行う。緻密な会話が螺旋階段を上がるようにじっくりと層を重ね、いつの間にか登場人物たちの葛藤に立ち会っているような感覚に陥る対話中心の作品を発表。鋭い観察眼と綿密な取材を元に、人間や題材を多面的に捉える作劇を心がけている。身近にある社会的な問題を取り上げながら、エンターテインメント性とユーモアに富んだ会話劇に定評がある。「消耗しにくい演劇作品」を標榜し、精力的に再演を実施。iaku旗揚げ公演の三人芝居『人の気も知らないで』(2012年初演/第1回せんだい短編戯曲賞大賞)や『エダニク』(2009年初演/第15回日本劇作家協会新人戯曲賞)は、iaku以外でも多くの団体によって上演されている。2024年『モモンバのくくり罠』で第27回鶴屋南北戯曲賞、2025年『流れんな』の作・演出と『ワタシタチはモノガタリ』の作で第59回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。(2026.4更新)

iaku

2009年に第15回日本劇作家協会新人戯曲賞を受賞した作品。大阪を拠点に活動する劇作家・演出家の横山拓也の代表作。エダニク(枝肉)とは、食肉解体加工の過程で、内臓等を取り除いた牛・豚を背骨から2つに切り分けた状態にしたもののこと。実際に食肉解体加工市場を取材し、そこで働く職人達の姿を通して、生きることの矜持を描いた作品。

真夏の會『エダニク』
作:横山拓也 演出:上田一軒
(2012年8月11日〜14日/伊丹市立演劇ホール[アイホール]) 撮影:石川隆三
Data :
[初演年]2009年
[上演時間]85分
[幕・場面数]一幕
[キャスト数]3人(男3)

 舞台は、東京近郊の食肉解体加工市場の中にあるナイフを研ぐための研磨室。そこは職人たちの休憩室としても使われており、長机の上には内線用の電話がある。

 冬の午後、早朝からの仕事を終えた二人の職人が、コンビニで買ってきた遅い昼食をとりはじめる。二人は解体の全工程を手作業でさばける職人で、ベルトコンベア式のラインにのせられないブランド家畜や病畜を担当している。

 ひとりは大阪出身の五十代、ベテランの玄田。もうひとりは、三十代前半で小学生の子供のいる沢村。不景気でリストラが続き、二人の作業負担も増え、将来に不安を感じている。

 そこに電話が入る。牛の屠室でBSE検査に回すべき「延髄」を紛失したという。

 検査ができない牛は出荷できず、会社の損失になってしまうため、ラインをすべてストップさせ、社員総出で探しているという。休憩が終わり次第、二人とも捜索に加わるようにとの指示。

 不用意な人員削減で余計な仕事が増えがちなことを嘆いていると、見慣れない青年が休憩室をノックする。伊舞と名乗る、フランクなみなりの三十才前後の青年。ベルトコンベア式の屠室を一通り見学して来た新人らしい。玄田は、青年の相手を沢村にまかせ、延髄を捜索するため部屋を出る。

 二人になった沢村と伊舞。沢村は、BSE検査の必要性など、屠場について何も知らない伊舞に説明するうち、伊舞がずっと親のすねをかじってきたニートで、いい年をして甘やかされている独身青年だと思い込む。

 肉体を使う現場は大変なので、経営の側で仕事をしたい、という伊舞。沢村は、彼と同世代の自分が養う妻子の写真をみせながら、伊舞の生き方や態度について説教する。

 ところが伊舞は、ブランド豚・伊舞黒豚をつくる得意先の畜産農家の跡継ぎだった。今日は、農場の社長・父親の運転手をしながら屠場を訪れていたのだ。それに気づいた沢村は、卑屈に機嫌をとりはじめる。

 そこへ玄田が、なにやら袋を手に戻ってくる。まだ研磨室にいる伊舞に驚きつつ、袋をロッカーにしまう。

 玄田は、沢村も捜索に加わるようにうながし、伊舞にはそろそろ研磨室から退出するようにいう。しかし、伊舞は、社長である父親が商談を終えるまでここで待っているという。

 二人になった玄田と伊舞は、ブランド黒豚の解体について話をする内に、「屠畜」という仕事、また「生命」について意見が対立してしまう。

 そこへ、息せききって沢村が戻ってくる。今度は、延髄のある頭部を落とす作業をしていた高齢の職人・柳が、屠畜銃をもっていなくなったという。柳はみんなから延髄を隠したのではないかと、疑われていた。

 実は、玄田は、屠場に行く途中に挙動不審な柳とすれ違い、彼が持ち出していた延髄の入った袋を預かっていたのだ。誰かに気づかれる前にそれを元に戻して事態を収拾しようと思っていた玄田は、いったんは延髄を紛失し、今度はパニックのあまり屠畜銃とともに消えてしまった柳を思い困惑する。

 そんなどたばたをうすら笑いで傍観していた伊舞は、こんなところに自社のブランド黒豚は任せられない、と取引中止をほのめかす。

 得意先をなくしては倒産するかもしれないと泣きつく沢村に、どこまでもお気楽な態度の伊舞。あげくに、柳が姿を消したのは、所長を屠畜銃で脅して金をとるつもりではないかとまで言い出す始末。その態度にカッとした玄田は、伊舞を研磨機にねじ伏せ、延髄を口に押しつける。あくまでも中立を保とうとする沢村は、伊舞と玄田の間で精神的に追い詰められ、ついには屠畜用のナイフを二人に向けるという奇行に出る。伊舞は研磨室の外に助けを求めようとする。

 天窓の向こうの屋上には、屠畜銃を持って歩く柳の姿があった。

 騒ぎを聞きつけた職員が研磨室をノックする。その音に驚いて、延髄を隠そうと慌てる三人。ドアが開いた瞬間、屠畜銃の発射音が響く。

 暗転。

 1週間後の午後の研磨室。沢村がひとり遅い昼食をとっている。スーツ姿の玄田が、所長との面談を終えてあらわれる。解雇は免れたが、ライン作業に移されることになったという。柳は、発砲は空に向けたもので大事はなかった様子。

 玄田は今日社外研修を担当するように所長から指令が出た。

 二人のところに、白衣を着た伊舞があらわれる。現場を経験しにきたという。玄田は、誰がおまえなんぞに教えるか、と罵りつつ、屠場へ向かう。

 沢村と二人になった途端、一週間前の出来事をふいにするような発言をする伊舞。その純粋な表情をじっとみる沢村。

 食肉解体加工市場の作業は明日も続いていく。

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