詩森ろば

アンネの日

2018.01.18
詩森ろば

詩森ろばRoba Shimori

宮城県仙台市生まれ。劇作家、演出家。1993年、劇団風琴工房旗揚げ。以後すべての脚本と演出を担当。全国どこへでも飛び回る綿密な取材を経て自身の視点で捉え直し、緊密な対話劇として構築する手腕が高く評価されている。スピーディーかつ演劇知の塊のようなパワフルな演出も特徴。扱う題材は歴史劇から金融、福祉車両の開発から、アイスホッケーまで多岐に亘る。2008年、綿密な取材を基に正面から水俣病問題に取り組んだ『hg』は、新聞を中心に様々なメディアで取り上げられた。10年、日航機墜落事故を扱った 『葬送の教室』 で鶴屋南北戯曲賞最終候補。13年、日本統治時代の朝鮮を舞台にした 『国語の時間』 (作:小里清 演出:詩森ろば)により、読売演劇大賞優秀作品賞。16年、岩手県生まれで宝塚歌劇団で活躍した女優・園井恵子が参加していた、広島で被爆した移動演劇隊が題材の『残花』(製作:いわてアートサポートセンター)と、金融業界の内幕に肉薄した『insider』により紀伊國屋演劇賞個人賞受賞。17年 『アンネの日』 その他の成果で2017年芸術選奨文部科学大臣賞新人賞。18年に俳優・田島亮とのユニットserial numberとして再始動。20年、映画『新聞記者』により日本アカデミー賞優秀脚本賞受賞。

serial number(シリアルナンバー)
https://serialnumber.jp/

社会問題や歴史的事件など、私たちをとりまくさまざまな現実に、綿密なリサーチでアプローチする劇作家・詩森ろばの女性をテーマにした新作。生理用ナプキンの開発部を舞台に、新商品の開発を通じて8人の女たちがそれぞれの人生、働き方を見つめ直していく。

風琴工房『アンネの日』
(2017年9月8日〜18日/三鷹市芸術文化センター 星のホール) 撮影:横田敦史
Data :
[初演年]2017年
[上演時間]2時間10分
[幕・場数]一幕九場
[キャスト]女8名

プロローグ:
 8人の登場人物たちが12歳で初潮を向かえ50歳で閉経した場合、出産しなかった女性には約39年間もの生理期間があることに続き、それぞれの初潮体験を語る。小学6年で初潮を迎え、母に祝福された津和苑子。大人っぽいのに中学まで初潮がなかった河東響子。母になかなか打ち明けられなかった今野裕美。親友フミと下校中に初潮になった土井加奈子。成長ホルモン投与を受けていた杉本沙也加。祖母に育てられていた田保明美。男子にからかわれた志田英華。生理がないままの島村理央。

 2017年、アネモネコーポレーションの生理用ナプキン開発室。サブリーダー土井は、高機能なナプキンを使うほど体調が悪くなると言い、新製品開発リーダーの津和に自然素材ナプキンの開発を訴える。

 劇中で種々の解説を行う“アンネ・ガールズ”が登場し、ナプキンの素材や構造、吸収率の違いなどを説明する。

 企画部長・河東が開発室を訪れ、社内の補助金を利用したイベント「大人の自由研究」に土井のプランを提案するようアドバイスし、二人を食事に誘う。

 アンネ・ガールズが生理の基礎知識を披露。観客にも生理に関する理解を問いかけ、ガールズの見解をプラカードで示す。

 会社近くのバル。津和と土井、同期の田保、河東が呼んだ研究者の志田と今野、企画部の部下・杉本も加わった飲み会。津和は、女性の発想と研究による高機能ナプキンをヒットさせて男を見返したいと言う。今野は「同業他社と同様の高機能の追求ではなく、自然派ナプキンにこそ勝機はある」と言う。

 津和の回想。仕事への思い、恋人との別れなど。イライラした自分の態度が月経前症候群(PMS)によるものと思い至り、自然派ナプキンに賛同するメールをメンバーに送信する。

 「大人の自由研究」に自然派ナプキン企画が採用される。3か月後のプレゼンで勝てば、商品化が可能となる。初のミーティングの場に、研究に参加したいと総務部の島村が訪ねて来る。島村は性同一性障害で、入社後に女性になるため性転換手術を受けていた。戸惑うメンバー。杉本が島村の資質を見るため、自然派ナプキンに関するレポートを提出してもらおうと提案する。

 今野の回想。折り合いの悪かった母親からのトラウマにより、女性性を受け入れられない自分が生理用品を開発することについて改めて見つめ直す。

 アンネ・ガールズが、世界の女性地位ランキングや日本における男性の性差別について解説する。

 優れたレポートを提出した島村が研究に参加することに。自然派の原材料を調査する内にさまざまな社会問題が浮かび上がる。

 土井の回想。生理痛のため症状に気づかず、子宮ガンが手遅れになった親友フミの死について語る。

 志田、杉本、島村のミーティング。ノンケミカル商品の難しさなどを語り合う内に、3人は自分の人生や性について話しはじめる。島村は今の身体への愛着について、杉本は身長が伸びずホルモン治療を受けてきたコンプレックスについて、志田は同じ科学者の夫との出会いについて話す。

 田保、河東、今野のミーティング。吸収材について語り合う内に、河東が更年期と閉経にまつわる自分の心身の変化について話す。

 田保の回想。認知症気味の祖母と定年した父との生活。自身の結婚・出産について思いを馳せる。

 全体会議。吸収材だけはケミカル製品を使わねば商品化が難しいという結果に、妥協しては意味がないと断固反対する土井。フミの娘により安心なナプキンを手渡したいという土井の思いを汲んだ津和は、ノンケミカルを徹底したプランの提出を提案する。

 島村の回想。女性としての人生スタート直後に始まったナプキン開発。その完成品を杉本に勧められ身につけた時の感慨について語る。

 自然派ナプキンは高評価だったが、社内保育所のプランに完敗。しかし、津和は正式な新商品開発として取り組むと仲間に宣言する。

 会議室の島村と杉本。「男性の島村に会っていたら好きになっていたかも」と杉本。「女の子同士ではダメか」と言う島村に、杉本は「お友達から」と微笑む。

 河東が後輩の女性たちにエールを送る。プロローグの語りが重なる。

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