庭劇団ペニノ『苛々する大人の絵本』
(2009年10月/ドイツ・ベルリン HAU劇場公演) 撮影:Tim Deussen, www.fotoscout.de
Data
:
[初演年]2008年
[上演時間]1時間
[幕・場面数]2幕8場
[キャスト数]4人(男2・女2)
タニノクロウ
苛々する大人の絵本
タニノクロウKuro Tanino
1976年生まれ。富山県出身。庭劇団ペニノの主宰、座付き劇作・演出家。2000年、医学部在学中に庭劇団ペニノを旗揚げ。以降全作品の脚本・演出を手掛ける。2009年、 『苛々する大人の絵本』 がベルリンの HAU で行われた「Tokyo-Shibuya」に招聘されたのを皮切りに、国内外の演劇祭に参加。2015年3月、ドイツ・クレーフェルトの公立劇場Theater Krefeldで滞在制作した新作『水の檻(Käfig aus Wasser)』を発表。近年の作品に『チェーホフ?!』(2011)、『誰も知らない貴方の部屋』(2012)、『大きなトランクの中の箱』(2013)、『タニノとドワーフ達によるカントールに捧げるオマージュ』(2015)、『ダークマスター』(2003、06、16)など。2015年に初演した『地獄谷温泉無明ノ宿』で第60回岸田國士戯曲賞受賞。
庭劇団ペニノ
https://niwagekidan.org
天井の低い部屋。上手では丸太が天井を貫き、下手では丸太が床を貫いている。舞台奥の壁に窓がふたつ、左右の側面にドアがひとつずつ。天井の近くの壁に帯状の電光掲示板が設置され、幕と場のタイトルが表示される。
上手のドアが開き羊が登場。天井を貫く丸太に「出ろ、出ろ」と語りかける。下手のドアからは豚が登場し、椅子やテーブルを運び食事の用意を始める。丸太から白い液体が滲み出していて、それが調味料になっている。下手の丸太は樹液を順調に出しているが、上手の丸太は枯れかけているらしく出ない。丸太の手入れや「ボート屋を開きたい」というお喋りをしながら、羊と豚は樹液を分け合って食事をする。
食後、自室に引き上げる2頭。ほどなく豚が泣きながら戻って来る。飼っていた小鳥が死んだのだ。羊は悲しむ様子もなく、鳥の死骸を部屋の壁にあった巣穴に押し込む。外では雨が降り出した。天井の丸太を雨がつたい、雨水は床の割れ目から流れていく。羊と豚は丸太の世話とボート屋についての会話を繰り返し、やがて暗転。
暗転が明けると、床下にも明かりが入る。ミニチュアの鉄道が走る箱庭のようなセット。中央には全身を縛られ、胸に少女の人形を置いた学生服姿の男が眠っている。目覚めた男は、受験生である自分の身の上話を始めるが、全身の拘束に気づいてもがき出す。やがて身動きが取れないのは、自分の股間に木の根が絡みついているせいだとわかる。
階上に羊と豚が現れる。2頭が上手の丸太に触れると、連動するように男の股間に快感が走り、男は射精する。と同時に木からは白い液体が噴き出す。
男の声で地下の異変に気づいた2頭は、床の穴越しに会話を始める。豚は男に見覚えがあり、「ゲイボルグ様」と呼びかけるが、男には豚の記憶はない。だが次第に名前は村島であること、受験勉強と性的抑圧に疲れて眠り込んだことなどを思い出す。男は拘束を解くよう頼むが、2頭は自分たちでは無理だと言い食事を始める。
やがて自力で拘束を脱した村島が、階上に上がって来る。身の上話をしてから勉強を始めた村島は、豚を母、羊を妹の美津子と呼び、自分のための食事の用意を命じる。
料理と樹液の説明をする豚を引き寄せ、キスする村島。さらに羊が作ったカクテルを飲むと村島は上機嫌になり、豚に数学の問題を出す。それは豚と羊のどちらが嘘をついているかの思考実験で、いくら考えても豚に答えは出せない。
村島は新たな料理に樹液をかけるよう命じるが、樹液をかけ続けるうち股間に激痛を覚える。苦しむ村島のために運び込まれるベッド。シーツをはがした村島は、そこに大きくなった少女の人形を見つける。
人形に向かって「美津子じゃないか」と呟く村島。と、ドアが開き、小さな学生服姿の男が現れる。小さな男はベッドに近づくと服を脱ぎ、人形と性交する。小さな男は、自分の性器をぬぐったティッシュを村島に渡して眠りにつく。村島の股間の痛みもいつの間にか消えていた。
静かな室内に雨音が響く。開いたドアから豚の声だけが聞こえ、先の思考実験について会話が交わされる。
「洗い物に行く」と去る豚。残された村島は眠っている小さな男に近づき、その性器にペンを刺す。洗い物の水音が微かに聞こえる。村島はなぜか水音に欲情。その欲情に反応するかのように小さな男の性器が膨らみ、舞台は暗転する。
明かりが点くと室内は朝の風景。羊が丸太に向かい「出ろ、出ろ」と呟く光景が再現され暗転。電光掲示板に「おしまい」の表示が浮かぶ。
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