©宮内 勝
Data
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[初演年]2007年
[上演時間]1時間45分
[幕・場面数]23(映像含む)
[キャスト数]4人(男3・女1)
長島確/阿部初美
アトミック・サバイバー
長島確Kaku Nagashima
1969年生まれ。日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、コンセプトの立案から上演テキストの編集・構成まで幅広く扱う。ベケット、フォッセ、ケインら海外戯曲の翻訳のほか、阿部初美、中野成樹らの演出作品に参加。
阿部初美Hatsumi Abe
観客はPR館の見学者のような形で、コンパニオンに導かれて原子力発電の関連施設を見て回ることになる(それらはすべて段ボール製のミニチュア模型で実演される)。コンパニオンが原子力を夢のエネルギーとして説明する声に、トラブルの発生と復旧を告げる作業員の声が重なる。また、再処理方法の危険性を否定するコンパニオンが、見学客の質問にプルトニウムの放射能半減期を2万4千年だと悪びれずに答えるなど、怖いと同時に滑稽感すら漂う。
本作には、観客の思いをあるひとつの点に着地させるような、書き手の意思が働いているわけではない。ただ事実をあるスタイルで構成することにより、原発に象徴されている社会のナンセンスぶりが自ずとあぶり出されてくる仕掛けとなっている。
初演は1年半前になるが、その後も原子力発電所にまつわる情報は作者によって取材され続け、この改訂版は2008年の最新情報が盛り込まれたものとなっている。
まず俳優たちひとりひとりが、節電に関する自分のコメントを述べる。
ブレヒトの「演劇のための小オルガノン」とチェーホフの『ワーニャ伯父さん』のフレーズを使い、不可逆な産業の発達と、原発誘致の論理がほのめかされる。この部分は映像。
フランスからの船荷でウランが運び込まれ、濃縮工場にて濃縮され、再転換・成形加工ののち原子力発電所に到着する。原料の輸入から発電までの工程が、主にコンパニオンの明るい語りによって描かれる。危険な物質がどのように扱われ、輸送されているかがわかる。
再び映像。光に溢れる都市のイメージと、年々増え続ける原子力発電所を示す地図。続いて『ワーニャ伯父さん』のせりふから、発電所誘致後の日常にただよう倦怠。
堀江邦夫の「原発ジプシー」という本から、原発の安全性に疑問を持った著者がみずから下受け労働者となり、美浜・福島第一・敦賀の原発で実際に働いた体験を、コミカルに劇化。
映像。『ワーニャ伯父さん』から、ほんの50年ばかりの間に森や林がどんどん消滅していったことを、地図の緑の部分を指しながら語る。
2007年7月の中越沖地震による発電所の被災状況の報告。その反省と教訓をふまえ、安全・安心な原発作りを目指していきます、と力強く宣言するコンパニオン。
核燃料の再処理パートの説明が始まる。使用済み燃料は原発から運び出され、再処理工場へ。再利用のためウランとプルトニウムが取り出される手順が粛々と提示される。
コンパニオンと見学客との質疑応答がはさまれる。
六ヶ所村からのビデオレポート。ここまで舞台上で模型で示されてきた施設や輸送船などの実物の映像。
廃棄物の処理方法の説明。作業着の洗濯水、使い古した作業着などは低レベル放射性廃棄物として、300年間土中で管理されている。高レベル放射性廃棄物も地中に埋めて管理をするが、1万年くらい経ったら、自然のウラン鉱石と同程度の放射能になると語るコンパニオン。
俳優たち4人は、『ワーニャ伯父さん』の中の別々のせりふを喋り、原発をつくる人、誘致する人、働く人など、違う立場のロジックを穿ってみせる。
「原発事故が起こったら トロロ昆布を食べよう」という明るく楽しい「トロロソング」が映像で流れる。
再び『ワーニャ伯父さん』と「演劇のための小オルガノン」のせりふを借りて、未来への希望と科学の発展がもたらす悲惨という、2つのイメージが提示されて終わる。
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