鄭義信

焼肉ドラゴン

2008.06.20
鄭義信

鄭義信Chong Wishing

1957年、兵庫県姫路市生まれ。作家、演出家。同志社大学文学部を中退し、横浜放送映画専門学校(現・日本映画学校)美術科に学ぶ。松竹の美術助手から劇団黒テントに入団。
同世代の仲間と作った劇団新宿梁山泊を経て、現在はフリーとして活躍。文学座、オペラシアターこんにゃく座、新国立劇場ほかに戯曲を提供する傍ら、92年に立ち上げて自ら作・演出を務めるプロデュース集団「海のサーカス」で、人生の機微を描いた哀しくもコミカルな作品を発表。93年に『ザ・寺山』で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。並行して映画にも活動の場を広げ、同年『月はどっちに出ている』の脚本で毎日映画コンクール脚本賞、キネマ旬報脚本賞などを受賞。98年には『愛を乞う人』でキネマ旬報脚本賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第1回菊島隆三賞、アジア太平洋映画祭最優秀脚本賞など多くの賞を受賞した。平成13年度芸術祭賞大賞他を受賞した『僕はあした十八になる』(2001年 NHK)などテレビ、ラジオのシナリオでも活躍中。08年、新国立劇場制作の日韓合同作品『焼肉ドラゴン』(11年、16年再演)は韓国ソウルでも上演。同作品で第16回読売演劇大賞優秀演出家賞、第12回鶴屋南北戯曲賞、第43回紀伊國屋演劇賞、第59回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2014年春、紫綬褒章受章。
https://www.lespros.co.jp/artists/wishing-chong/

本作品は、新国立劇場プロデュースの日韓合同公演として、日本と韓国からスタッフ・キャストを混合で編成し、2008年4月に東京、5月にソウルで上演されたもの(初演演出:梁 正雄/鄭 義信)。1969年(昭和44年)から1971年(昭和46年)にかけて、焼肉店「焼肉ドラゴン」で起こった人間模様が日韓両国語まじりでつづられている。
鄭義信『焼肉ドラゴン』
鄭義信『焼肉ドラゴン』

『焼肉ドラゴン』
日韓合同公演/新国立劇場プロデュース

作:鄭 義信
演出:梁 正雄/鄭 義信
東京:2008年4月17日〜4月27日/新国立劇場
ソウル:2008年5月20日〜25日/芸術の殿堂
撮影:谷古宇正彦
Data :
[初演年]2008年
[上演時間]2時間45分
[幕・場面数]一幕六場
[キャスト数]14人(男9・女5)

 焼肉店「焼肉ドラゴン」は、空港そばの下水すらない朝鮮人集落にある。

 1969年・春。「焼肉ドラゴン」では、次女・梨花と哲男の結婚パーティーの準備が行われている。そこに二人が言い争いながら帰ってくる。哲男が市役所の職員と喧嘩し、婚姻届が出せなかったことを梨花はなじる。そのかたわらで、歌手志望の三女・美花とクラブ支配人の長谷川とはわけありの雰囲気だ。屋根に登った長男・時生と店主の父・龍吉(片腕である)は散る桜を眺め、それなりに未来は明るく見えた。

 同年夏。母・英順は機嫌が悪い。店の立ち退き話や、有名私立に入れた時生がイジメにあい不登校になっているのだ。一方、結婚はしたものの哲男はなにやかやと理由をつけて働かず、焼肉屋で親と同居しながら梨花が働いて家計を支えている。仕事から帰ってきた梨花は哲男と激しく揉め、まだ長女・静花のことが好きなのね、と責める。哲男と静花はかつてわけありだったが、静香は妹の気持ちを察し、店にやってきた韓国人の大樹とともに出かける。追いかける哲男。泣き崩れる梨花は、ふらっとやってきた常連の日白と関係してしまう。

 同年秋、夜。時生へのイジメは加熱し、とうとうしゃべれなくなる。そこへ長谷川の妻・美根子が現れ、美花との浮気をなじり、慌てる長谷川に絶対に離婚しないと言い捨てて去る。日白の自転車で帰ってきた梨花は、哲男を無視して寝てしまう。自分の結婚は破綻していること、君とやり直したいと静花に話す哲男。そこに大樹が現れ、恋敵同士はマッコリの呑み合戦を始める。

 同年、冬。静花と大樹の婚約パーティーでにぎやかな一同。招かれていない哲男が現れ、「これから北朝鮮に行く、ついてきてほしい」と懇願された静花は彼について行くことを決断する。そこへ、学校に呼び出されていた龍吉と時生が戻り、時生の留年を告げる。それでも学校に行けという龍吉に、時生は屋根の上から飛び降りて自殺する。

 1970年、夏。正式に離婚した長谷川は、美花の妊娠を伝えて龍吉に結婚の許可を求めるためにやってくる。万国博開催に誰もが浮き足立つ中、哲男は、一時停止している北への帰国事業の再開を複雑な思いで待っている。立ち退き要請に現れた市役所の職員に龍吉は、土地を奪うなら戦争でなくした腕を帰せ、息子を帰せと叫び、嗚咽するのだった。

 1971年、春。立ち退きのため瓦礫と化した店の前で、別れを惜しむ人々。静花と哲男は北朝鮮へ、梨花と日白は韓国へ、美花は長谷川と開業したスナックへ出かけて行くのだ。バラバラになっても家族はつながっていると英順。屋根の上に時生が現れ、去っていく家族を懐かしめば、桜が散りはじめ、龍吉は英順を乗せたリヤカーをゆっくりと引いて坂道を上ってゆく。

 これは、死者が想起した物語だったのか。

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