*1 三味線
日本の撥弦楽器。木で作られた四角い枠の両面に皮を張った胴と、胴を貫通する長い棹から成る。棹に張った3本の弦をバチや指で奏する。原型は中国の三弦といわれ、通説では16世紀に琉球(現在の沖縄)を経て伝来した。新来の楽器は民衆の心をとらえ、短時日で普及し、民謡から歌舞伎のような劇場音楽、地歌など芸術性を追求した室内楽まで、その後の日本音楽の中心的楽器となった。楽器は改良され、さまざまな奏法が生まれ、多彩なジャンルが誕生。文楽のように物語の語りを伴う「語りもの」や、長唄のように歌を伴う「歌もの」など日本独特の音楽分野が発達した。
*2 端唄
19世紀半ばに生まれた流行歌。政治の中心都市・江戸(現在の東京)で大いに流行した。短く洒脱な歌詞を三味線の伴奏で歌う。本條秀太郎は1993年から古典端唄と新作端唄を聞かせる演奏会「端唄 江戸を聞く」を開催している。
*3 俚奏楽
本條秀太郎が命名し、取り組んでいる民謡を再創造する試み。既存の民謡に本條が現代的解釈を加え、現代に息づく作品としてブラッシュアップしている。
*4 ATAVUS(先祖帰り)
日本の民謡を、世界の視点から日本の民族音楽としてとらえて、「民謡歌謡」を創造する試み。三味線音楽の原点を求めて、中国からさらに西アジアに延びる伝来の道を辿るなど、世界の民族音楽に触発された曲を本條が作曲している。ヤンチンやウードの演奏者も交えた10人前後の編成で演奏する。1989、91年には細野晴臣のプロデュースにより演奏会を開いている。
*5 谷崎潤一郎(1886〜1965)
日本を代表する小説家。その作風は官能美と女性崇拝を基調とした作品で「悪魔主義」と呼ばれる。彼の作品は、耽美主義、エロティシズム、幻想趣味、ロマン趣味、マゾヒズムなどと形容される。東京出身だが、関西に移住後、日本の伝統、古典的日本の美に傾倒し多くの作品を残した。美しい四姉妹の日常を描いた『細雪』をはじめ、『痴人の愛』『蓼喰ふ虫』など。『源氏物語』の口語訳にも取り組んだ。
*6 『春琴抄』
大坂の大店の次女で美貌の春琴の生涯を、彼女に献身的に使えた佐助の目を通して描く。谷崎の耽美主義が表れた代表作。
長唄三味線と地歌三味線
本條さんが主に使う三味線は、さまざまな大きさのある三味線の中では中型の三味線。長唄は歌舞伎の伴奏音楽として江戸(今の東京)で発達したジャンル。そのため、長唄三味線は美しい高音を出すことができ、華やかな音色に特徴がある。
一方の地歌三味線は上方といわれた大坂、京都で発達した音楽「地歌」で使われる三味線。長唄三味線よりは大ぶりで、棹もやや太い。最も特徴的なのは胴側で糸(弦)を支える駒に鉛など金属のおもりが入っていること。おもりの重さによって微妙に音が変化する。箏や尺八と合奏されることが多く、日本家屋の座敷で聞く、いわば室内楽の楽器。
楽器の大きさが異なれば、糸の太さも変わり、バチの大きさ、形も変わる。奏法も異なり、当然、音色も違う。
地歌はかつて盲目の演奏家によって継承された。封建制の時代、視覚障害者が自立して生きる手段が音楽だった。『春琴』の主人公春琴は9歳で病のため盲目になり、地歌の稽古に打ち込み、やがて名手となる。
Photo: Daisuke Ishizaka
世田谷パブリックシアター+コンプリシテ共同制作『春琴』
(2008年2月〜3月/世田谷パブリックシアター)
[演出]サイモン・マクバーニー
[出演]深津絵里、チョウソンハ、本條秀太郎(三味線)ほか
撮影:青木司
世田谷パブリックシアター+コンプリシテ共同制作『春琴』
撮影:青木司