蓬莱竜太

ビューティフルワールド

2019.08.15
蓬莱竜太

蓬莱竜太Ryuta Horai

1976年、兵庫県出身。舞台芸術学院演劇科本科卒。99年に同期生の西條義将(主宰)と劇団モダンスイマーズを旗揚げし、全公演の作・演出を手がける。また、『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』など、ベストセラー小説の舞台化戯曲も担当。人が生きていく中で避けることのできない機微、宿命、時代性を濃密な群像劇として描き、高く評価されている。2008年にはモダンスイマーズで上演した『五十嵐伝〜五十嵐ハ燃エテイルカ〜』を映画化した『ガチ☆ボーイ』が公開された。09年『まほろば』で第53回岸田國士戯曲賞、17年『母と惑星について、および自転する女たちの記録』で第20回鶴屋南北戯曲賞、19年『消えていくなら朝』で第6回ハヤカワ悲劇喜劇賞を受賞。また、高い劇団力が評価され、団体として12年に第67回文化庁芸術祭優秀賞を受賞。

モダンスイマーズ
http://www.modernswimmers.com/

蓬莱竜太が座付き作家を務める劇団モダンスイマーズの20周年記念作品。40代半ばで実家に引きこもる夏彦と、父の弟、叔父・淳二のパワハラでギリギリの精神状態まで追い詰められている叔母・衣子。実家が火事になり、夏彦が叔父の家の居候になったことから追い詰められていた二人が出会い‥‥。

撮影:金子裕美

撮影:Yoshizo Okamoto

撮影:Yoshizo Okamoto

撮影:金子裕美

撮影:金子裕美

モダンスイマーズ結成20周年記念公演『ビューティフルワールド』
(2019年6月7日〜23日/東京芸術劇場 シアターイースト)
Data :
[初演年]2019年[上演時間]2時間15分[幕・場数][キャスト]8人(男5、女3)

 40代半ばで実家に引きこもる夏彦は、実家が火事になったことから両親や独立した弟・善と離れ、千葉県銚子市の越乃家の離れに居候する。

 越乃家は父の弟、淳二の婿養子先。淳二は元・老舗和菓子屋の一人娘・衣子と結婚し、二人の間には不動産屋で働く一人娘・左子がいる。あることがきっかけで和菓子屋を廃業し、元従業員の寡黙な高倉、挫折した俳優志望の沢田、沢田と付き合っているらしい女店員のりくと和菓子屋を改装したカフェを営む。
 
与えられた離れでゲームばかりしている夏彦に衣子は好意的だが、淳二も左子も嫌悪感を隠さない。淳二に命じられて店の掃除をしていた夏彦は、露骨に見下す沢田や好奇心丸出しのりくに追い詰められ、再び引きこもる。様子を見に来た左子は夏彦を責め、りくはこっそりイヤリングを預かっておいてと頼む。

 高倉に命じられて自転車で買い出しに出かけた夏彦を、引きこもりへと追い込んだ職場の上司や同僚の回想が襲う。買い出し用の金が入った封筒を落とし、パニックになる夏彦。

 そこに衣子が通りかかる。夫のパワハラで追い詰められている衣子は、我慢できなくなると大好きな宇多田ヒカルの曲を頭の中で流し、現実逃避していた。仕事に実が入らない淳二の代わりに働き、過労による不注意が原因で和菓子屋を廃業することになったのに、庇ってくれない夫。役立ちたいとはじめたカフェのレシピづくりも頭ごなしに否定される毎日‥‥。

 衣子の金で買い出しを済ませた二人は自転車に相乗りし、帰る道すがら互いの身の上を語り合う。落とした封筒も二人で見つける。

 その日から、衣子は試作した料理を離れに運び、夏彦とゲームに興じるなど離れに入り浸るようになる。

 一方、りくに別れ話を持ち出された沢田は、夏彦に八つ当たりして暴力を振るう。会社に行けなくなった日のことを思い出す夏彦。

 淳二は夏彦のもとに入り浸る衣子に我慢ならない。ダメな夏彦をかばい、内心は自分を軽蔑している衣子のせいだと離れに乗り込む淳二。宇多田ヒカルの歌を歌って抗う衣子に淳二は暴力を振るう。その一部始終を携帯電話のカメラで撮影した夏彦は、「DVの証拠としてSNSに流す」と脅し、逆に淳二を追い詰める。

 関係をもった夏彦と衣子は、カフェの新メニューにも挑戦し、「空パフェ」をヒットさせて有頂天になる。

 衣子の顔色を伺う淳二。左子が付き合っている人を紹介したいと言っているという淳二の言葉に、衣子は夫婦が互いに思い合っていた昔のことを思い出す。

 沢田と別れたりくが夏彦のもとを頻繁に訪れる。二人の関係を邪推した衣子は夏彦を責める。夏彦は、従業員たちから悩みを告白されるなど頼られるが、新しい人間関係がプレッシャーになり始める。

 カフェの新メニューを決めるミーティング。アイデアが出ない衣子は空パフェの焼き直しを提案。左子は空パフェが盗作だったとバラし、オリジナル店からのクレームに淳二が謝罪に行ったと衣子を責める。

 左子は自分が高倉とカフェを仕切ると宣言。実は、左子が付き合っていたのは、妻子持ちで親子ほど歳の違う高倉だった。驚く一同。離婚する気がなかった高倉は不倫を暴露され動揺する。

 離婚が成立したら高倉と結婚し、二人で離れに住むから出ていけと夏彦に迫る左子。実は高倉と不倫していたと泣き出すりく。夏彦に預けたイヤリングは高倉の服からみつけたもので、他の女の存在を疑って離れに持ち込み様子を見ていたのに、左子が相手だったのかとりくは半狂乱になる。怒りにかられ高倉に殴り掛かる淳二。

 乱闘状態の人々の中で、みんな無駄に生きていることを知り、引きこもりの後ろめたさから解放されて不思議な高揚感を感じる夏彦。混乱の中でレシピノートを引き裂ながら泣き叫ぶ衣子に気圧され、騒ぎが収まる。衣子の背中を撫でる淳二。

 夏彦の誕生日。離れにケーキを持って来た衣子に、夏彦はこの家を出ると告げる。納得できない衣子は、ケーキ用の包丁を持ったまま夏彦に翻意を迫る。自転車で逃げ出す夏彦を我を忘れて追う衣子。
衣子の気持ちを察した夏彦は、自転車を降りて土下座。衣子とのひと時だけは、無駄に生きている後ろめたさから解放されていたと感謝する。我に返った衣子は、別れ際に「大丈夫、きっと、気に入る」と声を掛ける。

 電車で隣り合って座る夏彦と弟の善。先行きは何も決まっていないが、夏彦の顔はどこか晴れやかだ。妻が妊娠したと不安まじりに言う善に、夏彦は「きっと、(世界を)気に入るってさ」とつぶやく。

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