松本祐子/五戸真理枝/西本由香/稲葉賀恵/生田みゆき

松本祐子/五戸真理枝/西本由香/稲葉賀恵/生田みゆき

文学座Women<前編>ー5人の演出家の個性を活かし育てた劇団の土壌とは

© 宮川舞子 写真左から稲葉賀恵、西本由香、松本祐子、生田みゆき、五戸真理枝

2024.07.01

近年、めざましい活躍をみせる演出家を次々に輩出している、新劇(*1)の老舗劇団文学座(*2)。しかも、その多くが女性なのは偶然なのか、それとも劇団の伝統や育成システムの成果なのか。謎を解明すべく、松本祐子、五戸真理枝、西本由香、稲葉賀恵、生田みゆきという世代の異なる5人の演出家が大集合。<前編>では、同劇団にはぐくまれながら、それぞれ全く異なる個性を発揮する5人の演出家の軌跡と互いの関係性について。<後編>では、文学座が属する「新劇」という、ちょうど1世紀前に誕生した日本のユニークな演劇ジャンルについて。日本の近代化の過程で西洋の思想文化を取り入れる芸術運動として芽生えた当時の「新しい演劇」に、21世紀の今何らかの付加価値はあるのだろうか。活動の場に文学座を選んだ5人が、現代演劇界で「新劇」の看板を背負って仕事をすること、自身にとって「新劇」とは何かを語り合う。

<前編>は、まず5人それぞれの個性と演出の特長を可視化する試みとして、「4人と私」という同一テーマで5人の集合写真の演出をしてもらうことから始めた。

取材・文/鈴木理映子

松本祐子

文学座に半世紀ぶりに誕生した女性演出家。血の通ったきめ細かで前向きな演出と守備範囲の広さで劇団内外で活躍、劇団内の女性演出家輩出のきっかけをつくったパイオニア的存在

松本祐子さんは1997年に文学座の座員になられました。俳優からの転身や兼業でなく、演出一筋で演劇に情熱を注いできた姿は、続く女性演出家たちのロールモデルになったのではないかと思います。松本さんの「4人と私」は、文学座アトリエの客席で撮りました。
松本 一つの劇団の中で、5人も女の演出家がずらっと並ぶことってなかなかないじゃないですか。だから「ここにあり」という感じで並んでみたかったんですよね。私が演出デビューした頃には、もう、永井愛さんや渡辺えりさん、宮田慶子さんや鈴木裕美さんがいらっしゃったけど、それでもまだ、女性の演出家は珍しい種族みたいな扱いで。文学座の中でも女性の演出家は、長岡輝子(*3)さん以来で半世紀ぶりだったんです。だから主要な新聞社が全部取材にきて、私、みんなに「女性で大変じゃないですか」と聞かれたんですよ。
五戸・西本・稲葉・生田 ええーっ。
松本 「そんなことないですよ」とは言ったんだけど。その質問がすごい差別でしょう? だから今、こうして5人が並べるのってすごく素敵なことだなって。
五戸 こうして客席から真面目な顔で舞台を見ていると、みんな演出家っぽいですね。舞台を見つめるエネルギーの強さが、じかに現れている気がします。中でもそのエネルギーの放出感、存在感が「祐子さんだな」と。
西本 客席から舞台を見るっていうのは、演出家としてものを見ている、仕事している瞬間なんだなってことは、私も座ってみてわかりました。ただ実際には5人はそれぞれ自分の作品を見ているわけで、そろって舞台や稽古を見ることはありえない。だからこの写真には、一人ひとりの時間を重ねてできたパラレルワールドみたいな面白さがあるなと思います。
稲葉 祐子さんの作品って、純粋に何かを届けてくれるし、だからこそ、正直に受け取りたいと思うんですよね。この写真もすごく祐子さんらしいし、私はこの写真、欲しいです。
生田 この真ん中にドンっと座れること自体がかっこいい。祐子さんはいつもベクトルがはっきりしてますよね。

五戸真理枝

戯曲の芯をストレートに捉え立体化する力量と、時にはユーモアを交えて劇世界を俯瞰する大胆な眼を併せ持ち、劇団外でも次々と話題作を手がける

五戸真理枝さん演出の写真は、アトリエの上の演出部室で撮影しました。五戸さんは演出助手や衣装係、小道具係としてもたくさんの作品に参加され、特にていねいな小道具づくりの手腕には定評があるそうです。この場所はそうしたお仕事の場でもあるんですね。
五戸 芝居を観にきたときや年末の行事があるとき、よくここに待機していたんです。この雑然とした感じが演出家の脳内のようでもあるし。
西本 優しい感じがしますよね。五戸さんって優しいというか、悪意がないんです。あんまり人の暗部をつつこうとしたりしない。
五戸 作為ゼロな感じですよね。
松本 こんなところを撮影してもらっていいものだろうかってくらい雑然としてますよね。演出家になる前は、みんな、助手として小道具を用意したりするところからキャリアをスタートするんです。どうやって作ったらいいかもわかっていないのに、段ボールや木工用ボンドと格闘しながら、この部屋で作業して。ある意味原点とも言える場所なので、そこを五戸さんがチョイスしたのがいいですよね。
稲葉 雑然としたものをそのまま見せる覚悟と無防備さの融合も五戸さんぽいです。
生田 自然体を提供したいっていうのが伝わってきます。私とか西本さんだと、「何かやらなきゃ」って、もっと作為的になっちゃいますから。

西本由香

テキストの構造や台詞の解釈を深めつつ俳優の個性を引き出す場としての舞台を志向し、古典戯曲から文学座の歴史にも関わる日本の現代戯曲、若手作家の書き下ろしまで、貪欲に演出活動を展開する
西本由香さんがディレクションしたのは、まるで舞台上の一コマのような写真です。昨夜3時間くらいかけて考えてくださったそうで、西本さん演出で上演中の文学座アトリエの会公演『アンドーラ』(作/マックス・フリッシュ)の舞台を使っています。作品同様、シンプルな装置(美術/杉浦充)にみなさんのキャラクターが映えますね。
西本 作為もりもりですよね。この5人は劇団員として共に戦う同志、心強い仲間でありつつ、同じ時代を走っているよきライバルだということで。やっぱり目が届くところに同じ職種の人がいるっていうのは、思考はそれぞれに違っても、すごく刺激になる。そのうえで、現実には存在しない場面を作ってみました。人の組み合わせは、いちばん実際にはなさそうなところを選んで。「この二人だったら、もしかして……」と思われたら困りますから(笑)。いちばん、架空の出来事というのが伝わる組み合わせです。
松本 私が掴みかかってたらリアルなパワハラになっちゃうからね。
西本 ですから「やばいよ」と止める方になっていただいて。
松本 西本さんは、サービス精神が旺盛なんですよ。
西本 みなさんも、こんなに意図を汲んでいただいてありがたいです。
五戸 私は、襟首を掴むのが楽しかった(笑)。
稲葉 ちょっとハラハラするのが、西本さんらしさですよね。小学生の意地悪みたいな、みんなを「え?」ってザワつかせたり、困ってるのを見て楽しむ。それがすごく面白いなと思います。
生田 単にユーモラスなだけじゃなくて、ちょっと戸惑いを与えるんですよね。私なんかは、やっぱり、そういうことするのにびくついちゃうんだけど、西本さんは平気なんです。その図太さが面白い。

稲葉賀恵

学生時代に映像、インスタレーション作品を手がけ、文学座附属演劇研究所への入所とほぼ同時に演劇を学び始めた。戯曲のテーマや構造をクリアかつ美的に空間化しつつ、人間存在のありようを浮かび上がらせる演出で評価を高めている
同じ装置を背景に、全員でジャンプした、その一瞬を捉えたのが、稲葉賀恵さん演出の集合写真です。シンプルな設定ですが、これも5人それぞれの姿が面白いですね。
西本・生田 これは楽しかった!
松本 私は必死だったよ(笑)。跳躍力ないし。
稲葉 久しぶりに5人で集まるとなると、たぶんちょっと緊張するじゃないですか。そこをもう無防備にしてしまう瞬間を作ろうっていうだけです。
松本 稲葉さんは綺麗なものが好きで、演出も綺麗なんです。躍動感というよりは、緻密な、ピースがピタッとハマったときのような美しさ。だから、跳ぶっていうのは意外でした。
五戸 私だけ空中浮遊みたいな、ちょっと宗教じみてますよね。みんなが空中にいるのって確かに綺麗だし、一瞬を切り取る写真という媒体の特質が生かされていて、面白い。「そっか。写真ってそういうものか」という発見もありました。
西本 意外だし、発想がうまい。私も稲葉さんは綺麗なものを好むイメージを持っていたけども、意外と不確定要素というか、人間のふとした瞬間に対しての興味があるんだぞ、という内なる声を聞いた気もします。
生田 私もジャンプは意外だったんですけど、稲葉さんって大学は映像学科ですよね。だから映像ならではの発想かもしれないなと思いながら、頑張って跳びました。
稲葉 よく言われるんです。「映像学科出身だから映像的ですね」って。そんなこと考えてないんですけどね。出来栄えは……みんな同じようになっちゃうかなと心配だったんですけど、それぞれに個性的なジャンプで面白いですね。祐子さんのスカートも素敵だし、いい出来だなと思います。

生田みゆき

俳優との協働を通して、戯曲の持つ社会的なテーマを視覚化、身体化する取り組みが評価され、劇団内外で活躍。パレスチナ演劇上演シリーズの演出や、『ガザ・モノローグ2023』(アシュタール劇場)の朗読台本を手がけるなど、演劇を通して現代社会に応答する活動を続ける
生田みゆきさんは、アトリエのバルコニーを使った撮影をされました。あの場所を選んだのはどうしてでしょう。絵柄を考えてきたというよりは、その場でできること、面白そうなことを探したという印象でしたね。
生田 最初は客席で撮ろうかと考えていたんですけど、撮影順が最後だったので、そこまでにいろんな構図や表情がすでに出てきていて。予定を変更して選んだのがバルコニーです。結構好きな場所ですし、この区切られた空間から人が出てくる面白さがありそうだなと。あとはみなさんがどんどん乗っていってくださる流れに身を任せました。
松本 面白い写真になったね。でも、全員物語が違う。
西本 設定が統一されていないですね(笑)。同じものを見てるけど違う、という場面なのかもしれません。
松本 このアトリエの手すりって、昔懐かしい感じで素敵ですよね。そこから顔を出してるってだけで幸せな気持ちになる。
五戸 みんながギュッと寄ってる構図が面白いです。楽しげに遊んでいる感じ、いくちゃん(生田のこと)の明るさ、遊び心が滲み出ている。姉妹みたいな近さも感じます。
西本 彩りの豊かさが生田さんらしさかなと思います。みんながいろんなものを見ている表情が賑やかで、おもちゃ箱をひっくり返したみたいな感じ。
稲葉 撮影場所を決めるときもそうですし、撮っているときも、周りをきちっと見たうえで、どうするかを即座に決めていく。そのクレバーさ、淀みのなさがいくちゃんですよね。それでいて、結果はどこか突発的な感じで「出てきた」「できた」みたいな潔さを持っているのがいいんです。「出てくるものがどうなるのか、わからないけどやってみよう!」という感じも含めて、いくちゃんの作り方だなと思います。
生田 最初にイメージしていた客席での写真とはだいぶ違うところに行き着いた気はします。でも、5人それぞれの違いを楽しんでいただける企画になっているんじゃないかなと思います。
ここまで個性豊かな女性演出家がそろうということは、時代の変化はもちろんですが、劇団の土壌にも関係するところがあるのではないかと思います。みなさん今あらためて、ご自身の、特に演出家デビュー前後の環境を振り返ってみて思い当たるようなことはありますか。
松本 私は鵜山仁(*4)に憧れて、「演出をしたい」と思って文学座に入ったんですが、最初のうちはもちろん裏方で小道具や大道具をつくったりするわけです。ただ、私はこれが下手で。なるべく早く「自分はこういうことがやりたい」ってアピールしていかないと、納得できないままに下手な小道具や大道具をつくり続けることになってしまう。それじゃあ互いに幸せじゃないだろうと、「勉強会」と称して作品を作り始めました。幸いなことに文学座にはアトリエもあって、その隣には稽古場もある。何よりたくさんの俳優さんがいるので、その時期活動がない方に「芝居に出ていただけませんか」とお願いして、ノーギャラで協力していただいて。結局劇団で演出家デビューする前に3回くらいは作品を作ることができました。また、当時の劇団代表の戌井市郎(*5)は若い人が何かやろうとすることに寛容で、自分でも好奇心を持って観にきてくれたりする先輩だったんですよね。だから「ものは試しで作ってみる」ということがしやすい環境でした。そういう土壌は今も続いていて、後輩たちが何か新しいことを始めるときにはだいたい「何、何、何やるの?」って興味を持って付き合ってくれる先輩がいる。それはやはり、アトリエの存在とも関わっていると思います。創設者の岩田豊雄が書いた「アトリエ憲章」(*6)でも実験精神に触れているように、たとえ劇場サイズの作品はまだ任せられないと思われたとしても、若手の演出家や劇作家にアトリエの会を任せてみようという気持ちは、先輩方もずっと持たれていたと思います。
それでも松本さんの前には何十年も女性の演出家はいらっしゃらなかったわけですよね。
松本 そうですね。私が入ったときはまだ、演出家は男の職業というイメージが、ギリギリ残っている時代でしたから。ただ、渡辺浩子さんが新国立劇場の初代芸術監督になられたり、如月小春さんが活躍されていたりと、女性の演出家の名前をたくさん聞くようになり、同時に、かつての徒弟制度のような、今ならパワハラと言われるような指導をする先輩もかなり減ってきた時期でもあったんです。そういう環境が整ってきて、だんだんと女性の後輩たちがやりやすくなっていったということはあると思います。そのうえで今、こうして5人で集まれているのは、それぞれが個性的で、やる気があって、いい意味で自分勝手で、人に優しい人たちだからかなと。 
五戸 私は座内よりむしろ外部で仕事をするときの方が「女の演出家だ」というふうに見られているような気がします。女性が指揮権をとるということについて、座内だと、男女、演出部、俳優問わず誰もギャップを感じていない。それはやっぱり、杉村春子(*7)さんが長くトップにいらした影響が大きいんじゃないかなと私は思っていて。男女というより個性を理解したうえで、受け入れていく度量のようなものが育っていったんじゃないかと思います。
生田 (劇団代表とは別の株式会社文学座の取締役)社長も女性ですしね。
西本 私が入った頃だとまだ、演出部も今より男性が多かったんですが、当時から風通しはよかったです。意見を言うことに対して誰も否定しない。男女はもちろん、先輩だから後輩だからというのもあんまりない集団だなと。やりたいということを否定することもないです。やりたければやる、やったらいいじゃん、と。むしろ、やりたいことを持ってないと、いられなくなっちゃいますしね。やりたいことがあるから、居続けられる。
稲葉 業界全体でいえば、今が相当な過渡期だと思うんです。ようやく男性対女性でものを語ることを馬鹿馬鹿しいと言えるようになってきたというか。ただ、劇団の場合は、男女比も世代も業界を凝縮したようなところがあるから、業界全体で問題になることが、もう少し早めに課題になってきたんじゃないかと思います。つまり、ずっと軋轢がなかったわけではなく、これまでに、もう話し合って解決しようとしてきた。というのも文学座では演出部会とか演技部会とか、集団の中で課題をあぶり出して話し合っていく機会が結構盛んにもたれるんです。そういう、集団ならではの小回りの良さが、「ちょっと面倒だけど、話してみよう」という土壌をつくってくれていて、だからこそ「ちょっと言ってみよう」「やってみよう」と希望を持てる気がしています。仮に批判されたとしても、言われないと気がつかないところもあるし。本当に多いんですよ。部会だけじゃなくて、忘年会、新年会、いろいろな委員会……。そういう機会に、半ば強制的に話さざるをえない環境がすごくいい。「演出部のロッカーが汚いから掃除しなきゃいけない」ってところまでみんなで話すし、そういうコミュニケーションの土壌があるから、忙しくてつい劇団のことに無関心になりがちなときにも、ちゃんと罪悪感を持てる。
生田 私も男女っていう分け方では考えたことがないですね。私の場合、五戸さんの下で小道具をやるとか、旅公演の引き継ぎを受けるとか、そういう縦のつながりに助けられてきたと思います。「企画をどうプレゼンテーションすればいいのか」っていうようなことも、先輩に相談しやすかったし、アドバイスももらえた。だからもし、自分がフリーの演出家だったら、どうやって活動してたんだろうと思ったりします。劇団だとなんとなくモデルケースが見えていますし、ちょうどひと世代上の上村聡史(*8)さんや高橋正徳(*9)さんが活躍し始めて、五戸さんや(稲葉)賀恵さんがデビューしていく時期だったこともあって、直接「どうやって作品を選ぶんですか」って聞いたり、実際に自分もアトリエ委員会でプレゼンしてみて、フィードバックをもらうことができました。そうやって演出家にとって必要な知を蓄積していける、それを教えてもらえていることは、劇団の強みとして大きいと思います。
今日集まってくださったみなさんの雰囲気も、よい意味でフラットですよね。それこそ先輩後輩でもあり、時にはライバルでもありつつ、健全。
松本 企画会議で負けると一日荒れますけどね。チキショー!って。
西本 そういえば私、稲葉さんが『十字軍』(作/ミシェル・アザマ)でデビューしたときのプレゼンで負けてるんですよ。その帰り道に、自分の持ってたカバンを道路に投げつけたら、iPodとiPadが散らばって。「あーっ!」ってなったのを思い出しました。
松本 勝った相手じゃなくて自分に腹が立つんだよね。自分の至らなさに。
西本 そうそう。
松本 私、生田さんに2回負けてるの。でも本当に生田さん、プレゼンテーションがうまいんです。お互いの企画の説明はその場で聞くわけだから、「こういうふうに言えばいいのか」とかすごく勉強にもなった。だから、演出家同士、ライバルでもあり、同志でもあり……だから観にいって面白くないと腹が立つし、面白くても腹が立つんですよ。
生田 それ、すごいわかります!
 
<後編>につづく(2024年8月1日公開予定)
  1. 新劇

    20世紀初頭に、歌舞伎などの既成演劇=旧劇に対し、近代という新しい時代を反映した演劇を目指して生まれた現代劇の一形態。基本はリアリズム演劇で、当初はヨーロッパを中心とした海外戯曲の翻訳上演を主に行い、興行資本の意向に左右されない非商業演劇主義を主張。芸術性の重視とともに、ブルジョワジーに対する市民のための演劇という側面から左翼運動と一体化していた。第二次大戦後はレッドパージを経て政治色は薄まり、文学座・俳優座・民藝をはじめとする各劇団が個性を競い隆盛を極めたが、1960年代後半にアンチ・新劇を標榜する新たな現代演劇のムーブメントが起こると、メインストリームの座を取って代わられた。近年、こうした新たな才能が台頭し始めたことで、イメージに変化の兆しも見える。

  2. 文学座

    1937年、3人の文学者(岸田國士、久保田万太郎、岩田豊雄)によって設立された劇団。西洋近代演劇の影響下にあってテキスト解釈を旨とする日本の「新劇」の劇団の中でも、特に文学性、芸術性を重視し、同時代の作家との協働につとめてきた。テネシー・ウィリアムズ、ソーントン・ワイルダーを早くから日本に紹介したことでも知られる。附属演劇研究所を通した俳優・スタッフ育成、アトリエでの実験的な演劇上演にも定評がある。https://www.bungakuza.com/index.html

  3. 長岡輝子

    1908年生まれの演出家・俳優。日本の女性演出家の先駆け的存在。1928年から2年間渡仏して演劇を学び、帰国後劇団テアトル・コメディを主宰し翻訳・演出・出演(1931~37)。1939年、自作『マントンにて』の演出をきっかけに文学座に入団(~68)。1951年からは演出と並行して俳優としても活躍し、高く評価された。2010年没。

  4. 鵜山仁

    演出家。1982年から文学座座員。新国立劇場演劇部門芸術監督(2007~10)。シェイクスピアの歴史劇三部作や多くの井上ひさし作品、さらにオペラやミュージカルまで幅広く手がけて信頼の厚いベテラン。2024年から劇団文学座代表。

  5. 戌井市郎

    1916年生まれの演出家。1937年の文学座創立に参加。『女の一生』『怪談牡丹燈籠』『華岡青洲の妻』など、杉村春子主演による文学座の財産レパートリーなどのほか、歌舞伎や新派でも活躍。劇団代表を務めていた2010年に94歳で死去するまで、文学座の生き字引的存在であり続けた。

  6. 文学座アトリエとアトリエ憲章

    文学座アトリエは、劇団員の技芸修練と実験的公演上演の目的で1950年に劇団敷地内に創設された劇場兼稽古場。アトリエ憲章は、文学座の創立者のひとりで演出家・小説家(ペンネーム・獅子文六)の岩田豊雄が、1958年にその理念や使用目的を再確認すべくしたため、劇団員に配布したもの。「即ちアトリエでは、教則本的台本を採用すると同時に、本公演では見られぬような、難解或いは急進的な芸術性を持つ台本をも、手がける場合を生ずるだろう」といった一説がある。

  7. 杉村春子

    1906年生まれの俳優。1937年の文学座創立に参加。『女の一生』(上演回数通算947回)、『欲望という名の電車』(593回)、『華岡青洲の妻』(634回)、『ふるあめりかに袖はぬらさじ』(365回)、『怪談牡丹燈籠』(劇団外公演を含めて329回)などに主演し、名実ともに文学座を背負って立った偉大な看板女優であり、日本演劇史に残る名優。劇団外の舞台や映像での活躍も多く、小津安二郎作品の常連だったほか、成瀬巳喜男、溝口健二、木下惠介、黒澤明といった映画監督にも重用された。1997年没。

  8. 上村聡史

    1979年生まれの演出家。2006年から文学座座員となり、2018年に退団。特に海外の現代戯曲を積極的に手がけて評価が高い。2026年に新国立劇場演劇部門の芸術監督に就任。

  9. 高橋正徳

    1978年生まれの演出家。2005年から文学座座員。特に、川村毅、鐘下辰男、佃典彦東憲司青木豪など多くの現代作家の新作を手がけている。

松本祐子

© 宮川舞子

松本祐子Yuko Matsumoto

演出家。1967年大阪府枚方市生まれ。明治大学文学部文学科演劇学専攻卒業。1992年文学座附属演劇研究所に入所し、1997年座員に昇格。1999年文化庁新進芸術家海外研修制度によりロンドンで1年間研修。帰国後1作目の『ペンテコスト』が優れた翻訳戯曲上演に贈られる湯浅芳子賞を受賞(2002)。2006年『ぬけがら』(文学座アトリエの会)、『ピーターパン』(ホリプロ)の演出で毎日芸術賞の千田是也賞、2019年『ヒトハミナ、ヒトナミノ』(企画集団マッチポイント)、『スリーウインターズ』(文学座アトリエの会)で紀伊國屋演劇賞個人賞と読売演劇大賞最優秀演出家賞、2020年『五十四の瞳』(文学座)で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。(2024.7更新)

五戸真理枝

© 宮川舞子

五戸真理枝Marie Gonohe

演出家、劇作家。兵庫県三田市出身。早稲田大学第一文学部演劇映像専修卒業。自ら劇団を旗揚げしての小劇場活動を経て、2005年文学座附属演劇研究所に入所、2010年座員に昇格。2016年『かどで/舵』(文学座アトリエの会)の『舵』で文学座初演出。演出のほか、戯曲や童話の執筆も手がける。文学座での演出作品は、2014年『新ハムレット』(リーディング公演)、2021年『命を弄ぶ男ふたり』(自主企画)、2022年『コーヒーと恋愛』(脚色・演出)、2024年『アラビアンナイト』(文学座アトリエ本公演)、『石を洗う』(文学座アトリエの会)。2019年、新国立劇場でゴーリキー作『どん底』を演出するなど、劇団外でも多数の演出を手がけている。 2023年『コーヒーと恋愛』(文学座アトリエの会)、『貴婦人の来訪』(新国立劇場)、『毛皮のヴィーナス』(世田谷パブリックシアター)で 読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞。(2024.7更新)

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西本由香

© 宮川舞子

西本由香Yuka Nishimoto

演出家。日本大学芸術学部演劇学科演出コース卒業。 2006年文学座附属演劇研究所に入所し、2012年座員に昇格。2018年12月『ジョー・エッグ』(文学座アトリエの会)で文学座初演出。 2019年、文化庁新進芸術家海外研修制度により渡独し、1年間ベルリンのマキシムゴーリキー劇場及びシャウビューネで研修。 近年の演出作品は、『歳月』(文学座アトリエの会)、『病気』(名取事務所)、『錆色の木馬』(劇壇ガルバ)、『黒い湖のほとりで』(日本劇団協議会)、『アンドーラ』(文学座アトリエの会)など。(2024.7更新)

ホームページ https://www.yukanishimoto.com/

稲葉賀恵

© 宮川舞子

稲葉賀恵Kae Inaba

演出家。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。在学時より映像作品などの創作をスタート。2008年文学座へ入所、2013年座員に昇格後、4月に文学座アトリエの会『十字軍』にて初演出。主な演出作品に『野鴨』『熱海殺人事件』(文学座アトリエの会)、『誤解』『私の一ヶ月』(新国立劇場)、『ブルーストッキングの女たち』(兵庫県立ピッコロ劇団)、『墓場なき死者』『母 MATKA』『加担者』(オフィスコットーネ)など。近年の作品に『幽霊はここにいる』(PARCOプロデュース)、『ブレイキング・ザ・コード』(ゴーチ・ブラザーズ)、『クレバス2020』『季節はずれの雪』『音楽劇不思議な国のエロス』(ミックスゾーン)など。2023年『加担者』『幽霊はここにいる』で読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。(2024.7更新)

ホームページ  http://kaeinaba.com/

生田みゆき

© 宮川舞子

生田みゆきMiyuki Ikuta

演出家。大阪府出身。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。2011年文学座附属演劇研究所に入所し、2016年座員に昇格。同年、ドイツ文化センターの文化プログラムの語学奨学金(芸術分野対象)を得てドイツに滞在。2017年『鳩に水をやる』(文学座アトリエの会)で文学座初演出。その後、文学座では2018年『最後の炎』、2020年『ガールズ・イン・クライシス』を演出。2018年より演劇ユニット「理性的な変人たち」メンバーとして活動を開始。2023年、パレスチナ演劇上演シリーズ『占領の囚人たち』(名取事務所)、『海戦2023』(理性的な変人たち)、『屠殺人ブッチャー』(名取事務所)で読売演劇大賞優秀演出家賞、『占領の囚人たち』『アナトミー・オブ・ア・スーサイド』(文学座アトリエの会)等で芸術選奨新人賞を受賞。(2024.7更新)

Ikuta Miyuki WEB ikutamiyuki.wordpress.com