細川洋平

コンとロール

2021.03.29
細川洋平

細川洋平Yohei Hosokawa

1978年、青森県生まれ。劇作家・演出家・俳優。早稲田大学在学中に早大演劇倶楽部を経て、劇団「水性音楽」を結成し、2006年の解散まで全作品を作・演出。また、2000年から2004年まで俳優として劇団「猫ニャー」に参加。2009年にソロ・カンパニー「ほろびて」を結成し、翌年、『息をのんで』で旗揚げ。作品に「ゴドーを待ちながら」をモチーフに公園の手前で何かを待っている人々を描いた『公園まであとすこし』(2019年)、家の中に“線”が出現した望田家を舞台にした『ぼうだあ』(2020年)、人を思うままに操れるようになったゲームのコントローラーで支配し、支配される人々を描いた『コンとロール』(2021年)。

ほろびて
https://horobite.com/

俳優としても活動する細川洋平(1978年生まれ)が劇作家・演出家として主宰するソロ・カンパニー「ほろびて」で2021年に初演。人を思うままに操れるようになったゲームのコントローラーを手にした男が、身近な人々を恐怖と暴力で支配していく…。
コンとロール
コンとロール
コンとロール

ほろびて『コンとロール』(2021年1月19日〜25日/下北沢OFF・OFFシアター)
撮影:渡邊綾人

Data :
[初演年]2021年

 とあるマンションの一室。永端(ながつま)とうるいがゲームをしている。突然、うるいが手を振り回しはじめる。なぜか永端がコントローラーで操作しているゲームのキャラクターと連動したらしい。面白がって遊ぶ永端にうるいは怒る。うるいがコントローラーを持つと、今度は永端が操作される。

 喫茶店。店長のイマミチとアルバイトのしすく。しすくの契約が月末までになったとイマミチは告げる。しすくはにこやかに対応しているが、やがて「生きていけない」と泣き出してしまう。イマミチは「うちに来るのがいいと思う」と彼女を抱き寄せる。

 マンションのイマミチの家。イマミチが同居している弟のカワハギに、しすくとその妹のカコを紹介する。イマミチは二人をカワハギに託すと店に戻る。二人から事情を聞くカワハギ。しすくたちは、ネットカフェなどを転々として寝ぐらにしていたらしい。カワハギとカコはいまいち馬が合わないが、しすくたちはマンションで暮らせることを喜ぶ。

(以下、マンションにあるイマミチと永端の家を往復しながら展開)

 うるいのコントロールで動く永端。その額にはガーゼが当てられている。どうやらコントローラーで人を動かす練習をしているらしく、ふたりとも悪戦苦闘している。

 永端の独白。中学生の頃に脅されてお金とファミコンを巻き上げられたときの記憶。差し出したのは果たして自分の意思だったと言えるのかと自問。

 コントローラーを使う練習を終えた永端とうるい。永端は操作されることに快感を感じている。

 自宅マンション、イマミチは昇進を知らせる通知を手にうれしそうな様子。やってきたしすくにエリアマネージャーになったと告げ、「するべきこと」を教えてあげる、とささやく。

 永端がうるいを操作する腕は上がっている。操作される快感を知ってほしいと言いながら、うるいに自分で自分を殴らせる。うるいがやめてほしいと懇願してもやめない。永端はコントローラーを手放せなくなっており、自分も誰かに動かされているのだと言う。

 しすくに「女としての心構え」を説くイマミチ。しすくはいまいちピンと来ず、反論したりもするが、最終的には「これからたくさんがんばろう」というイマミチに「うん」と応じる。

 コントローラーを手にした永端がイマミチの家に来る。突然入ってきた見知らぬ男にイマミチは状況が掴めない。永端はコントローラーを使ってイマミチに自分の首を締めさせる。しすくとカワハギがやめさせようと格闘するが、コントローラーを持った永端に制圧され、イマミチとカワハギは結束バンドで拘束される。キッチンに隠れていたカコが見つかり、コントローラーで制御されて自分の足の爪を剥ぐ。

 カコの独白。それからの出来事を語る。カワハギはアキレス腱と腕を自ら切り、しすくは別の部屋に連れ込まれて乱暴され、イマミチは踊らされた。数ヶ月が経ち、抵抗する気力を喪失。永端は電気ショックも使うようになった。

 永端はコントローラーを使ってゲーム感覚で4人を虐待している。カコが逃げようとするが失敗し、別室に連れていかれる。イマミチは言動がおかしくなっている。

 永端が身体中アザだらけとなったカコと戻ってくる。永端はカワハギに自らの指を折るよう命令するが、カコが身代わりを申し出て指を折る。歯止めのきかない永端は他の面々にカコの指を1本ずつ折れと命じるが、誰も従わない。永端はコントローラーを使って実行する。

 マンションのベランダに出たカコが、同じくベランダにいた隣室のうるいと出会う。カコはどんな状況でも頭の中は自由だと言う。イマミチが息をしていないと、カワハギが報告に来る。楽になりたいと言うカワハギに、カコは「息してろ」と言う。

 カコとカワハギが部屋に戻ると、イマミチが笑顔で椅子に座っている。自らの欲望と男尊女卑的な考えを語るイマミチ──それはカワハギとカコの思い出が見せる姿だった。

 イマミチが死ぬ。コントローラーが効かなくなる。

 永端の独白。「コントローラーに操られていただけなんだから、なにひとつ俺に責任はない」。彼の独白は裁判での証言のようになり、語りの主語は「俺」から「男」へと変わり、まるで他人事を語るかのようになる。劇とは無関係にも思える歴史上の出来事(アイヒマン)の描写にスライドし、再び「俺」の語りへと戻る

 永端のマンション。永端にうるいは出て行くと告げる。自分はコントローラーを持っているんだと言う永端に、うるいはそれを作ったのは誰かと問う。永端は「俺がお前の支配者だ」と言うが、何もできず立ち尽くす。

 うるいは、出ていく。それは外の世界か、それとも‥‥。

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