さいたまゴールド・シアター第7回公演『薄い桃色のかたまり』
(2017年9月21日〜10月1日/彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター) 撮影:宮川舞子
Data
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[初演年]2017年
岩松了
薄い桃色のかたまり
岩松了Ryo Iwamatsu
長崎県生まれ、東京外国語大学外国語学部ロシヤ語学科中退。自由劇場、東京乾電池を経て、劇作家、演出家、俳優として活躍。テレビドラマ・映画の脚本・監督も多数手がける。戯曲の代表作に『蒲団と達磨』(1989年、第33回岸田國士戯曲賞受賞)、『鳩を飼う姉妹』『こわれゆく男』(1993年、第28回紀伊國屋演劇賞個人賞受賞)、『テレビ・デイズ』(1998年、第49回読売文学賞戯曲・シナリオ賞受賞)、『薄い桃色のかたまり』(2017年、第21回鶴屋南北戯曲賞受賞)など。2009年より兵庫県立ピッコロ劇団代表。
ここは大震災で人が住めなくなり、数年後、やっと避難指示が解除された地域。いずれ戻って来たいと考えている添田一家は、一時帰宅して家の修復をしているが、イノシシが度々家を荒らすため、作業は一向にはかどらない。添田家の働き頭の長男・学がイノシシに襲われるが、通りがかった復興本社に勤めるハタヤマに助けられる。
添田家では、添田家に出入りする仲間たちがハタヤマを囲んでいる。添田は、妻・真佐子の手作りのパエリアをご馳走したいと張り切っている。しかし、ハタヤマは時間がないからと帰ってしまう。
「お前が遅いからだ」と妻をののしる添田を周囲がなだめる。彼らは復興のシンボルになるよう自分たちで海沿いの線路の復旧工事をしているが、行政は内陸を迂回する新ルートを提案し、意見が対立している。
線路を見渡せる丘の上に立ち、「若い男」が恋人の乗っているはずの列車を待ち続けている。
東京から恋人を探しに来たミドリが列車に乗っている。震災後6年間恋人と会えていないこと、社会人になるまでお互いの名前を明かさないと決め、「ギイ」「ジェニー」と呼び合っていたことなど、ロマンチックなエピソードを乗り合わせた女たちに話す。彼女たちは海沿いの線路の復旧を国に訴えに行った帰りだった。
ミドリがかつて恋人と会った駅舎の跡地にたたずんでいると、真佐子が現れる。真佐子の首には赤紫色のアザがあった。
復旧工事の仕事を終えた住民たちが休憩しているところに、ハタヤマがやって来る。工事事業者に東京本社から圧力がかかっていることや、東京本社では線路復旧よりイノシシ退治が先決問題だと考えていることなど厳しい現状を伝える。
雨の中「若い男」が傘屋を探していると、傘をさした人々から「おまえは雨に濡れるべきだ、雨に有害な物質を混ぜ込んだのはおまえらだから」とののしる声。傘の群れが去ると、そこに真佐子が立っていた。「若い男」も真佐子も、震災後、色を判別できなくなっていた。カミナリがとどろき、抱き合う二人。真佐子の首にはアザが……。
添田家。ハタヤマが添田に東京本社に戻ることになったと告げる。ケガから回復した学はハタヤマに、母が色彩を失っていたことを話し、ハタヤマも同じではないかと尋ねるが、返答はない。
陳情への回答もなく、思うように進まない復興に苛立ち、途方にくれる住人たち。ハタヤマの行方も知れない。
ガレキの上、イノシシと対峙するハタヤマの前に「若い男」が現れ、「ボクはキミだよ」と告げる。ハタヤマは自分の分身である「若い男」に、恋人と再会したら就職したことを打ち明けるつもりだったこと、「あの人」に色彩が戻るまで恋人のことは忘れると決めていたことを語る。
恋人を探し続けているミドリは、女たちが集まる復旧工事の休憩所を訪ね、一緒に働かせてほしいと申し出る。そこでミドリは、真佐子が添田家の納屋で首をつって死んだことを知る。
月の光に照らされた納屋にやって来たミドリは、人の気配で身を隠す。納屋で恋人のように親しげに言葉を交わす「若い男」と真佐子……「若い男」はハタヤマに、真佐子は首つり死体に変化する。ハタヤマこそミドリが探していた「ギイ」で、再会を果たした二人は並んで眠る。
納屋で目覚めたハタヤマとミドリはすっかり歳を取っている。復旧した線路が現れ、その脇には満開の桜並木。その下を歩く大勢の人々の中に若いハタヤマとミドリもいた。老若二組の恋人たちがすれ違い、視線を交わして、幕。
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