土橋淳志

或いは魂の止まり木

2014.04.07
土橋淳志

土橋淳志Atsushi Tsuchihashi

1977年10月20日生まれ。京都府出身。劇作家・演出家。2000年、近畿大学在学中にキャンパスカップ2000に参加し優秀賞受賞。同年、A級MissingLink旗揚げ。現在まで全ての作品の劇作と演出を担当。近年は外部団体の演出や脚本の書き下ろしも行っている。『小屋ヲ建テル』で若手演出家コンクール2002最優秀賞受賞。『裏山の犬にでも喰われろ!』で第16回OMS戯曲賞佳作受賞。『限定解除、今は何も語れない』で第19回OMS戯曲賞佳作受賞。

http://www.aqml.jp

第58回岸田戯曲賞ノミネート作品。土橋は大阪を拠点に活動するA級MissingLinkを主宰する劇作家・演出家。『或いは魂の止まり木』の舞台は京都の山奥の集落にある倉田家。現実の今と、あり得たかも知れない今という二つの時間を往来しながら、機能不全を起こしている現代の家族というシステムを描いていく。

A級MissingLink第20回公演『或いは魂の止まり木』
(2013年3月1日〜3日/伊丹アイホール) 撮影:竹崎博人
Data :
[初演年]2013年
[幕・場数]一幕12場
[キャスト]9人[男5、女4]

 京都の山奥の集落にある、倉田家。食卓で、末娘・佳織がアルバムを見ている。17年前、倉田家は、佳織たち3人の子供と、両親・祖父母のいる7人家族だった。家族全員が揃った最後の食卓の風景が蘇る。

 佳織のナレーションで、簡単に家族の肖像が語られる。

 写真の日に祖父が心筋梗塞で亡くなる。続いて、高校生だった長男・行彦が自殺し、半年後、そのショックで父・正男が蒸発。数年後には次男・学、佳織が大学進学で家を離れ、やがて祖母も亡くなり、いまは母・美紀恵ひとりがこの家で暮らしている。

 佳織は学とお盆で里帰りし、アルバムを見ていたのだ。

 実家には、若い二枚目の男・宇野澤もいた。実は母の再婚相手で、二人はハワイに移住して新居をかまえるつもりでいる。

 行彦が自殺しなければありえたある夏の日。同じように兄弟がお盆で里帰りし、行彦は幼馴染の麻紀と結婚を決めている。母は、実父とハワイに移住していて、その絵葉書を兄弟で読んでいる。麻紀は、行彦と学に、花火大会の場所取りの作戦について話しはじめる。

 場面が変わり、海辺の一軒家「魂の止まり木」。窓からは自殺の名所の断崖と海が見渡せる。この家に住むのは、自殺のそぶりを見せる人に声がけをするボランティアの女性・純子と「鳥人間」だ。「鳥人間」は鳥のように「ぴゅーい」としか喋らない。純子が、ライターを名乗る中年男・霧島の取材を受け、「鳥人間」とともに写真に撮られる。

 再び、倉田家の居間。現実のお盆の場面。佳織と学は、近所の幼馴染・麻紀を交え、母の再婚について噂話をしている。佳織も学も、再婚を祝う気持ちはあるものの、とにかく驚くので精一杯。亡兄の恋人だった麻紀に気のある学は、一緒に大阪に出ようと誘う。

 宇野澤が、学を呼び出し、蒸発していた父・正男が見つかったと告げ、写真(「鳥人間」と純子の写真)を見せる。

 国道沿いのファミリーレストラン。純子が美紀恵を呼び出し、正男は自殺した長男が自分の反対を押しきって書いていた物語のノートを大切にしていて、今も苦しんでいると告げる。美紀恵は、自分は再婚して人生を先に進めたい。彼も同じ気持ちではないかと言う。

 「魂の止まり木」で霧島と「鳥人間」の正男が対峙している。霧島は、自分の正体は身元調査員で、純子の暴力的な夫に「魂の止まり木」の在所を告げたので、純子はもう戻ってこないと言う。そして、狂った真似はやめて、倉田正男に戻れと諭す。

 素に戻った正男は、「鳥人間」とは、自殺した長男のつくった物語だという。長男が自殺し、どう受け止めたものか混乱して、はじめて人間には「物語」が必要なのだと分かった。息子が書き残してくれた言葉で満たされ、やつと生きることができたが、そうやって甘えてばかりいられないから放浪の旅に出ると言いつつ、霧島に襲いかかり、気絶させる。

 そこへ、暴力夫から逃れて傷だらけの純子が戻ってくる。純子は、もうこれ以上逃げられないと絶望し、正男を誘って樹海へと旅立つ。

 翌朝の「魂の止まり木」。霧島がひとり物語のノートを読んでいる。そこへ、霧島の撮った写真を手に、学が訪ねてくる。霧島は、正男が再び行方不明になったと告げ、学に亡兄のノートを渡す。

 再び倉田家。学が、物語のノートを読んでいる。

 <戦争を好む王様が、平和を好む王子を戦争に行かせ、王子は戦死の間際、王様に呪いをかける。すると王様は、死の臭いにさといカナリアに変身し、戦争を悔いながら地の果てへ飛んでいった>

 学は花火大会帰りの麻紀を送ってゆく。ひとり残った佳織が、物語ノートを開くと、死んだはずの兄が甦り、父との思い出を語る。佳織は、母が再婚したと告げ、自分もこの家にもどることはないだろうと、ノートを返す。

 9月になった、倉田家の居間。学と佳織が、花火大会や、母たちのハワイの写真を、アルバムに貼っている。派手なリゾートファッションの母と宇野澤、麻紀、父と純子、そして亡兄もやって来る。

 いつかの、ありえたかもしれない幻の倉田家が現れ、みんなで食事をすると、三々五々、どこかへ去っていく。

 ひとり残された佳織が、家族のアルバムをゆっくりと閉じ、終演。

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