福原充則

南の島に雪が降る

2014.12.04
福原充則

(c)西村淳

福原充則Mitsunori Fukuhara

1975年神奈川県生まれ。劇作家・演出家。劇団「ピチチ5(クインテット)」(2002年〜)、俳優自ら音響や照明を操作するユニット「ニッポンの河川」(2006年〜)、俳優・富岡晃一郎とのユニットで野外や倉庫などユニークな空間などで公演を行う「ベッド&メイキングス」(2011年〜)を立ち上げ、同時並行で幅広い活動を展開。生活感溢れる日常的な光景が飛躍を重ねて宇宙規模のラストへと結実するような物語づくりと少人数で多くの役を演じ分ける演出が持ち味。女優・高田聖子のユニット「月影番外地」や人気俳優をキャスティングしたプロデュース公演など外部への書き下ろしも多数。宮﨑あおい主演で上演した『その夜明け、嘘。』(2009年)と月影番外地に書き下ろした『つんざき航路、されるがまま』(2014年)が岸田戯曲賞最終候補。2016年には人気漫画『俺節』を人気アイドルグループ・関ジャニ∞(エイト)の安田章大主演で舞台化して大成功を収めるなど、原作の脚色にも定評がある。映像分野でも、松坂桃李主演の連続テレビドラマ『視覚探偵 日暮旅人』など書き下ろし多数。2015年には映画『愛を語れば変態ですか』で監督デビューを果たした。

ピチチ5
https://www.ne.jp/asahi/de/do/pichi.html

俳優・加東大介が従軍経験をもとに書いた小説を、脚本家・演出家の福原充則の脚色により戯曲化。過酷な状況下、芝居に情熱を傾けることで生き抜いた個性溢れる男たちの物語。俳優・富岡晃一郎とのユニット「ベッド&メイキングス」により、土の匂いのするテント芝居として初演された。

『南の島に雪が降る』特設テント設営&解体作業の様子

ベッド&メイキングス第3回公演『南の島に雪が降る』
(2014年6月12日〜22日/お台場潮風公園内「太陽の広場」特設会場) 撮影:引地信彦
Data :
[初演年]2014年
[上演時間]2時間50分
[幕・場数]2幕26場
[キャスト]12名(男10名、女2名)

 プロローグ。芝居小屋。役者の加藤徳之助が、妻・京町みち代、姉・沢村貞子と共に『関の弥太っぺ』を上演する中、召集令状が届く。

 ニューギニアのマノクワリ。兵士たちは祖国に想いをはせている。杉山中尉は伍長になった加藤に、内地での役者経験を生かし、飢えた兵士に生きる望みを与えるための“演芸分隊” を作ることを提案する。

 オーディション会場。宴会芸ばかりの中から、レコードを出したことがある今川一等兵、田舎の役者だった鳶浜助夫一等兵、如月寛多の芸名で活躍していた青戸光兵長、また裏方として実家がカツラ屋だった小沼茂四郎上等兵らを採用。もとは浅草の芸人だった叶原利明伍長と加藤も加わり、どうにか一座が出来上がる。

 兵舎。もめごとが多くなかなか稽古が進まない。加藤と叶原と青戸が外で話している。加藤は内地で如月寛多に会ったことがあり、青戸とは見た目が違いすぎると指摘する。実は青戸は如月ではなく、ただのドサ回りの役者だった。

 叶原は「ウソでも、死んでいく兵士が“俺はあの如月寛多を観た”と思うことが救いになる」と、青戸を残すよう説得する。「お前くらいがこの分隊にふさわしい」と言う加藤に、青戸は、内地で加藤がしてきたいわゆる本物の芝居が、「今、誰かの生きる糧になる自分の偽物の演技より上だと言い切れるか」と詰め寄る。

 港。慰問に向かう貞子とみち代は爆撃にあい、ボートで海を漂流する。

 将校集会所、本番前の楽屋で準備をする分隊。開幕、観客席の兵士たちは、演技ではなく、現地にはあるはずもない着物や女形、作り物の柿に騒ぐ。終演後の楽屋で落ち込む一同に、杉山中尉が常打ち小屋の建設を提案。「今日が最後の観劇だった者もいるだろう。生きている者は芝居をしよう! 死んでる者も観に来るはずだ」という杉山の言葉に分隊は励まされる。

 完成した「マノクワリ歌舞伎座」のこけら落とし公演中、爆撃音が響き芝居は中断。ガッカリしつつも、爆撃で死んだ馬の肉が配給されると聞いて兵士たちは盛り上がる。

 だが馬肉を取りに行った前川が持ち帰ったのは馬のシッポ。「かつらに使う」という名案に一同は喜ぶが、「俺は肉を食いたかった」と今川は怒る。そこで加藤が「われこそは役者だと思う者は、たらふく馬肉を食え!」と言うと、一同、料理を食い、酒を飲み、女を抱く“演技”を始める。

 静かに一人外に出た鳶浜を追う加藤。自分は女を知らないと言う鳶浜に、経験のないことでも演じるのが役者だと教える。

 数日後、中断した芝居が無事最後まで上演された。兵士たちが、劇中の少女「お小夜」が、母や妹、妻や初恋の女性に似ていると押し寄せる。彼らは「お小夜」の化粧を落とした前川に気づかず、彼女に渡してくれと差し入れを置き、去っていく。

 前川が女形を武器に食べ物を独り占めしていることが発覚し、面白くないともめる分隊。「お小夜」を持ち回りで演じる案も出るが、前川は「死んでいく仲間が最後に惚れる女がお小夜だ、自分を好く人が次々戦場で死んでいく経験は、自分だけで充分」と苦しい思いを吐露する。

 そこに、加藤を内地に戻す転属命令が入る。加藤は気持ちが揺れるが、大詰めの演出を思いつき、留まることを決意する。

 大詰め。紙吹雪に大迫力の殺陣と、舞台は大成功をおさめた。終演後、鳶浜が「3日前、日本が無条件降伏をしていた……」と客席に報告する。

 エピローグ。劇場解体を進める兵隊たち。実際に劇場は解体され、観客の目の前には現在の東京の街が浮かび上がる。と、遠くから貞子がボートに乗って現れ、加藤と再会する。芝居小屋に敬礼した兵士たちは、それぞれの道へと歩み去る。

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