『4 four』
演出:白井 晃 撮影:石川 純
(2012年11月5日〜25日/シアタートラム)
Data
:
[初演年]2012年
[上演時間]2時間
[幕・場数]1幕8場
[キャスト]5名(男5)
川村毅
4 four
川村毅Takeshi Kawamura
1959年、東京都出身。明治大学演劇研究会を母体に80年に劇団「第三エロチカ」を結成。以後80年代の小劇場ブームを牽引する、めざましい活躍を見せる。85年『新宿八犬伝 第一巻─犬の誕生─』で岸田國士戯曲賞受賞。代表作に『ニッポン・ウォーズ』『ハムレットクローン』 『AOI/KOMACHI』 『ロスト・バビロン』『ワニの涙』』シリーズなど多数。ACC日米芸術交流プログラム グランティー(96年)、『マクベスという名の男 A Man Called Macbeth』Theatre der Welt Essenを皮切りにした世界ツアー(90〜97年)や、仏、英、独、伊語に翻訳された『AOI/KOMACHI』の現地でリーディング上演、2007年の北米ツアーなど海外でも幅広く活動を展開。02年、創造の幅を広げるためプロデュースカンパニー「T Factory」を設立。世田谷パブリックシアター主催による現代能楽集シリーズでは『AOI/KOMACHI』『春独丸』『俊寛さん』『愛の鼓動』を書き下ろした。2010年、30周年を機に「第三エロチカ」を解散。以後も劇作家として精力的に活動するほか、小説や評論、エッセイの執筆も手がける。現在はピエロ.パオロ.パゾリーニによる戯曲の日本初演連続公演を行っている。京都造形芸術大学教授。
登場人物は5人の男。彼らは黒い箱から引く紙片の指示により、裁判員に選ばれた大学職員、法務大臣、拘置所の刑務官、死刑確定囚、何者でもない「男」という役柄を、幾度か入れ替えながら演じ、戯曲を進行させていく。5人それぞれが置かれている状況、抱えている問題、死生観、犯罪と死刑制度、罪と罰の定義などについての思いをモノローグで語られる。
劇空間のありかたや俳優の位置関係、動作・動線などの指定は戯曲中には最小限のものしか記されていない。白井晃による初演の演出では、平戸間全体をアクティングエリアとし、その中に箱馬を点在させて、セットや観客用の椅子として用いた。
舞台上に黒い箱があり、どこからともなく現れた5人の男がそこから紙片を引く。紙片には彼らの配役が書いてあるようだ。
話し出したのは裁判員役の「F」。彼は裁判員裁判で、無差別殺人を犯した青年に死刑判決を下したと言う。Fは、青年の無感情に、かつて失業し、残りの人生を無為に過ごして死んだ自身の父を重ねる。
続く「O」は死刑執行に消極的な法務大臣役。彼は自殺した同じ政治家の父を思い酒を飲んでいる。
刑務官役の「U」は死刑囚と日常的に接し、時に刑を執行する苦悩を公園の木に語ることで慰謝を得ていた。
死刑確定囚役の「R」は、自身が起こした無差別殺人を「夢の中の出来事」と振り返る。Rは、時折訪れる罪の実感と「夢の中」を往還する。
役を離れ、互いの設定や言葉について議論する4人。議論は言い争いになり、Uはその場を去る。一人を欠いたまま配役を変えて先へ進もうとする3人。「男」が箱を持ってくるとUが戻り、再びくじ引きをして、新たな配役でモノローグが始まる。
刑務官役に変わったFは死刑執行の際、絞首刑の縄をかけ損なった自分のミスにより、先輩刑務官が精神を病むほどに追い込んでしまったことを話す。
裁判員役のUは、同僚に不倫による家庭崩壊を告白された後、目の前で飛び込み自殺をされる。
法務大臣役のRは、総理大臣の座に就くことを宣言し、そのための第一歩に無差別殺人犯の青年の死刑を執行するという。
死刑確定囚役のOは、犯した罪に対して自分の死が償いに見合うかを自問する。
Oがモノローグを止め、前の演者がつくった人格に違和感があり、先に進めないと言い出す。4人は元の配役に戻すことにするが、会話は止まったまま。やがて、死刑確定囚役RにF、O、U、の3人が語りかける。
殺人の動機や原因、幼少期のトラウマ、罪の意識の有無などを問いかけるF、O、U。彼らが納得できるような答えを一切返さないR。Fは激昂し、OはRに殴りかかり、男たちは次第に平静を失っていく。どうやら彼らは無差別殺人の関係者のようだ。
議論が白熱するさなか、処刑台と絞首刑のロープが現れる。処刑される役はRだ。淡々と準備を進めるU、動揺を見せるFとOはそれでも刑を執行し、その死を確認する。死体となったRを「男」が運び出していく。
Rが不在のまま、死刑執行を知った設定での各人のモノローグが続く。
Uは精神を病んだ先輩刑務官との再会を、Fは自殺した同僚の記憶を振り払いつつあることを、Oは泥酔中の死刑に関する失言がリークされ、失脚したことを語る。
不意に「男」が話し出す。死刑の執行を墓前に報告したが、彼に「終わり」の実感はなく、ただ「無」だけが存在した、と。
感想を言い合うF、O、U。だが結局、彼らの中で殺人に報いるための償いが何なのかという結論は出ない。
そこにRが箱を持って現れ、やり直しを促す。
新たな口火を切ったのは「男」だ。定年退職後を迎え、妻と平穏な隠居生活を送るはずだった男の元に、息子が無差別殺人を起こしたという報せが届く。驚愕の次に訪れた感情停止。刑の執行を聞いても哀しみは起こらず、「感情の停止が完了した」と言う男。
他の4人から「ルール違反だ」と非難が起こる。別の台詞を継ごうとして、パニックに襲われ走り去るF。やり直しを申し出る「男」。
「男」が新たに語り出したのは五月の風景。木々の緑が燃え盛る様子に、絶望の淵から再生する何ものかの姿を重ねながら語り続ける。
「窓を開けよう」と「男」が言う。
いつしか差し込んできた強い光が4人を包み込む。
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