ミナモザ『彼らの敵』
(2013年7月24日〜8月4日/こまばアゴラ劇場) 撮影:服部貴康
Data
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[初演年]2013年
[上演時間]2時間
[キャスト]6人[男5、女1]
瀬戸山美咲
彼らの敵
撮影:服部たかやす
瀬戸山美咲Misaki Setoyama
劇作家・演出家。1977年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。2001年、ミナモザを旗揚げ。現実の事象を通して、社会と人間の関係を描く。代表作に『エモーショナルレイバー』、『みえない雲』(グードルン・パウゼヴァング原作)、『指』、『ファミリアー』など。2016年、『彼らの敵』が第23回読売演劇大賞優秀作品賞受賞。2019年、オフィスコットーネ『夜、ナク、鳥』と流山児★事務所『わたし、と戦争』で第26回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。そのほかの主な作品にオフィスコットーネ『埒もなく汚れなく』(作・演出)、神奈川芸術劇場『オレステスとピュラデス』(作)、さいたまネクストシアター『ジハード―Djihad―』、新国立劇場『あの出来事』(ともに演出)など。「アズミ・ハルコは行方不明」、「リバーズ・エッジ」など映画脚本も手がける。『THE NETHER』にて第27回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。2020年、第70回芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞。現代能楽集X『幸福論』〜能「道成寺」「隅田川より」で第28回読売演劇大賞優秀演出家賞受賞。
ミナモザ公式サイト
http://minamoza.com/
2000年、日本。週刊誌のカメラマンとなった坂本が、宗教団体や政治家らのゴシップを撮るため奔走している。
1991年、パキスタン。川下り冒険に出かけた坂本、後藤、相澤の3人は強盗団に拉致され、森の中のアジトに監禁される。相澤は使者として大使館に送られ、人質となった坂本と後藤は不安を紛らわそうと将来の夢など語り合う。
2000年、スクープ写真を狙って張り込む坂本。週刊誌のデスク飯倉に「監禁より帰国後のバッシングがつらかった」と話し、それならなぜ週刊誌のカメラマンになったのかと理由を問われる。
1991年、森の中。坂本は同じく誘拐された現地の、親切に世話してくれる男と「神」や「信じるもの」について話している。男は自分を兵士だと告げる。彼は落ち込む坂本に「メイクユアセルフハッピー」と言い、娘にプレゼントしようと持っていたハーモニカを渡す。
新たなアジトに移された数日後、坂本と後藤は解放される。44日間の監禁が終わったのだ。だが日本に戻る飛行機の中で、朝日新聞の記者から彼らの行動が「無謀な冒険」だと週刊誌の記事で叩かれていると告げられる。日本で待っていたのは殺到するカメラマン、抗議の電話と手紙。
2000年、出版社。坂本は、女医に扮した女性ライター川瀬を撮影している。風俗記事もてらいなく書く川瀬は、「小説家になるための修行だ」と言う。
1991年、帰国後の喫茶店。坂本、後藤は大使館の状況把握不足にも責任があったと思っている在日パキスタン大使館員・杉村を同行し、バッシング記事を掲載した週刊誌の編集者・狭川とルポライター矢田と対決する。
しかし、矢田は「狭川の取材を受けただけで書いていない」と言い、狭川は「矢田の話を書いただけ」と、責任を押しつけ合う。「記事の受け止められ方は読者に委ねている」と言う狭川に失望する坂本。
2000年、出版社。バスガイドに扮した川瀬を撮る坂本。川瀬から「パキスタン早大生誘拐事件」の記事について尋ねられた坂本は、「報道に傷つけられた痛みを知る自分だから撮れるものがあると思いカメラマンになった」と言う。しかし、そんな坂本のバックの中には、自分が撮影した女子マラソン選手の下着が見える写真が入っていた。それを見つけた川瀬は「痛みを知る者が同じことをするのか」と坂本を問い詰める。
1991年、森の中。親切な兵士は坂本に「自分は解放される」と告げ、励ましの言葉と力強い握手を残して去る。
2000年、出版社。飯倉がマラソン選手の写真を次号に掲載すると告げる。土下座し、仕事も辞めるからと掲載を止める坂本。
駅のホーム。飯倉のデスクに写真を置いたのは自分だと、坂本に告げる川瀬。坂本に自分を重ねて苛立ち紛れにやってしまったのだ。
坂本は、実際は殺されてしまったであろう親切な兵士の話をし、「森から出る出口は間違えたが、旅に後悔はない……もう(カメラという武器では)誰も殺さない」と言い、過去に縛られた自分から一歩踏み出す。
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