鄭義信

パーマ屋スミレ

2012.07.09
鄭義信

鄭義信Chong Wishing

1957年、兵庫県姫路市生まれ。作家、演出家。同志社大学文学部を中退し、横浜放送映画専門学校(現・日本映画学校)美術科に学ぶ。松竹の美術助手から劇団黒テントに入団。
同世代の仲間と作った劇団新宿梁山泊を経て、現在はフリーとして活躍。文学座、オペラシアターこんにゃく座、新国立劇場ほかに戯曲を提供する傍ら、92年に立ち上げて自ら作・演出を務めるプロデュース集団「海のサーカス」で、人生の機微を描いた哀しくもコミカルな作品を発表。93年に『ザ・寺山』で第38回岸田國士戯曲賞を受賞。並行して映画にも活動の場を広げ、同年『月はどっちに出ている』の脚本で毎日映画コンクール脚本賞、キネマ旬報脚本賞などを受賞。98年には『愛を乞う人』でキネマ旬報脚本賞、日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第1回菊島隆三賞、アジア太平洋映画祭最優秀脚本賞など多くの賞を受賞した。平成13年度芸術祭賞大賞他を受賞した『僕はあした十八になる』(2001年 NHK)などテレビ、ラジオのシナリオでも活躍中。08年、新国立劇場制作の日韓合同作品『焼肉ドラゴン』(11年、16年再演)は韓国ソウルでも上演。同作品で第16回読売演劇大賞優秀演出家賞、第12回鶴屋南北戯曲賞、第43回紀伊國屋演劇賞、第59回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2014年春、紫綬褒章受章。
https://www.lespros.co.jp/artists/wishing-chong/

鄭義信が日本の戦後を描く三部作の第三弾。1960年代半ばの九州の炭鉱町にある小さな理容所を舞台に、日本の産業を支えた炭鉱町の栄枯盛衰とともに精一杯生き、笑い、泣いた女、男、家族、在日コリアン、炭鉱労働者などのエネルギッシュな人間模様を描く。

『パーマ屋スミレ』
作・演出:鄭 義信
(2012年3月5日〜25日/新国立劇場 小劇場) 撮影:谷古宇正彦
Data :
[初演年]2012年
[上演時間]2時間30分
[幕・場数]1幕7場
[キャスト]12人(男9、女3)

 九州、有明海を見下ろす「アリラン峠」。炭鉱労働者のバラックが並ぶ一角に、須美(スミ)が営む「高山厚生理容所」がある。家族は在日コリアンの父・洪吉(ホンギル)と夫・成勲(ソンフン)。近所に炭鉱会社の組合長・大村と内縁の妻である姉・初美(ハツミ)、前夫との息子で中学生の大吉(ダイキチ)、新婚の妹・春美(ハルミ)と夫・昌平(ショウヘイ)、成勲の弟・英勲(ヨンフン)らも住んでいる。大人になった大吉=大大吉(ダイダイキチ)が、語り部として物語を進める。

 1965年、夏祭りの日。祭りの支度をする人らで理容所はごった返している。が、大村が組合長を務める成勲ら第一組合員は会社から冷遇され、労働環境は劣悪。やる気をなくした成勲は、須美とも口論が絶えない。そんな須美の夢は、いつか別の土地に移り、自分の名に因んだパーマ屋「すみれ」を構えることだった。

 鳴り響くサイレンが炭鉱の事故を告げる。勤務中の昌平らを気遣い、救助に向かう成勲たち。

 数日後。集落は犠牲者の葬儀でざわついている。そこに青痣を作った春美と、申し訳なさそうな昌平が現れる。事故による一酸化炭素中毒の後遺症が出て正気を失った昌平が暴れ、春美に怪我をさせたのだ。以前の落盤事故で足が不自由になった英勲は、ここでの暮らしに見切りをつけ、北朝鮮の帰国事業に参加すると言う。兄嫁・須美に思いを寄せる英勲は一緒に行こうと誘う。そこに同じく後遺症が出た成勲が担ぎ込まれ、発作を起こして大暴れする。

 秋。成勲も昌平も後遺症のため日常生活もままならない。帰国の準備を進める英勲は、重ねて須美に同行を勧めるが、須美はきっぱり断る。

 2年後の夏。須美は、会社に補償を求める闘争に参加。春美ら被害者の家族は見通しのつかぬ状況に追い詰められていた。

 そんな折、英勲の帰国日が決まる。弟を気遣えという須美の身体を、いらだち紛れに激しく求める成勲。だが事故により不能になった成勲に須美は抱けず、「自分とは別れるべきだ」と言い放つ。そこへ一酸化炭素中毒患者を保護する法律が成立したと大村が駆け込んで来るが、それは極めて不平等な法律だった。

 初秋、英勲の出発の日。見送りの人々が集まるなか酔った成勲が現れ、「須美をやるから北へは行くな」と絡む。二人は激しい殴り合いに。止める須美を振り払って駆け出しす英勲。残された成勲は自殺を図るが、洪吉に止められ号泣する。

 1年後の晦日、餅搗きをする初美たち。須美は会社相手に裁判を起こすと宣言。後から来た大村は、会社が閉山提案を出したと言う。

 そこへ春美が入ってくる。激痛に苦しむ昌平の願いを聞き、殺してしまったのだ。警察へ行け、どんな時も生きねばならぬと諭す洪吉。深々と頭を下げて春美は去る。

 春の始め。引越準備を進める大村を成勲が手伝っている。一家は洪吉も連れ、大阪に移住するのだ。成勲と須美を残し、他の炭鉱夫らも集落から姿を消した。

 大大吉により、皆のその後が語られる。パーマ屋の夢を語りながら、穏やかに成勲の髭を剃る須美。哀しみも憎しみも越え、この土地で生きることを決めた二人の上に、大大吉が降らす桜の花が盛大に散りかかる。

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