青森中央高等学校演劇部『もしイタ〜もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』
平成23年度青森県高等学校総合文化祭演劇部門発表会/青森県高等学校演劇合同発表会兼東北大会予選会
(2011年10月29日、30日/八戸市公民館) 撮影:西澤勝
Data
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[初演年]2011年
[上演時間]1時間
[幕・場数]1幕17場
[キャスト]26人(男7・女19)
畑澤聖悟
もしイタ〜もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら
畑澤聖悟Seigo Hatasawa
1964年、秋田県出身。91年、劇団弘前劇場に入団。俳優としての経験を土台に、2000年以降は劇作家・演出家としての活動を本格化させる。05年『俺の屍を越えていけ』が日本劇作家大会2005熊本大会・短編戯曲コンクール最優秀賞を受賞。同年、青森市を拠点に演劇プロデュース集団「渡辺源四郎商店」を設立し、08年より劇団として始動。地元演劇人の育成や、全国を視野に入れた新たなアートネットワークづくりに取り組んでいる。独自のユーモアを交えた深い人間洞察に基づく劇作は幅広い世代に支持され、劇団昴、青年劇場、民藝など他劇団への書き下ろしも多い。ラジオドラマでも文化庁芸術祭大賞を受賞。また、現役教諭として指導した高校演劇部を幾度も全国大会へ導き、05年には『修学旅行』が高校演劇日本一の栄冠に輝く。本作品は第44回東北地区高等学校演劇発表会にて最優秀賞を受賞し、全国高等学校演劇大会への出場権を獲得したほか、東日本大震災で被災した気仙沼や大船渡、釜石など東北各都市での無料慰問公演を実施。今後も慰問を継続する予定となっている。
青森賽河高校野球部は部員8人の弱小チーム。新米マネージャー・エリカは、被災地からの転校生で元野球部員のカズサを強引に勧誘。コーチとして招いたイタコ(神仙や死者の魂などを身体に乗り移らせ、その言葉を語るシャーマン)・アイノから伝授された「技」で、野球部は快進撃を始める。野球部員らの挫折と成長を描きつつ、被災地へのエールを込めた青春活劇。
開演までの間、出演者は客前でウォーミングアップなどを行っている。開演と共に整列し『栄冠は君に輝く』を全員で歌う。
放課後、やる気なさげに練習する野球部。マネージャー志望のエリカは早く練習を切り上げる部員たちに食ってかかるが、先輩マネージャーのシオリも含め誰も相手にしない。
昼休み、渡り廊下で部員を勧誘するエリカ。皆が避けて通るエリカを見つめる生徒が一人。東日本大震災の被災地から転校してきたカズサだ。カズサが元野球部員と知ったエリカは待ち伏せして勧誘するが、彼は逃げるように去る。
再び練習中の野球部。「カズサが来るかも知れない」と引き止めるエリカを無視し、主将のショウヨウら部員たちは今日も早じまい。一人マウンドを整備するエリカに声をかけるカズサ。彼は野球部の仲間たちが震災で死んだ今、自分だけが野球をやるわけにはいかないと言う。
エリカは、やり投げの選手だった父の話を始める。父の姿に憧れて競技を始め、一緒にオリンピックをめざそうと言っていた矢先、父が病死したこと。その後肩を壊し、競技ができなくなったこと。「投げられる人は投げられなくなった人の分まで投げなきゃ」。エリカの言葉に入部を決意するカズサ。
次はコーチが必要だと奔走するエリカ。するとシオリが「心当たりがある」と言い出す。シオリが連れてきたのは、自分の祖母でイタコのアイノだった。呆然とする部員たちの前でアイノは「イタコの技で甲子園に行ける」と宣言。そのためには1カ月の山ごもりが必要だと言う。過酷な修行内容に皆がおじけづくなか、修行をすると言うカズサ。
1カ月後、アイノとカズサが戻ってくる。カズサはその場でホトケオロシ(死者の魂を自分の身体に憑依させる)を行う。憑依中のカズサが投げる球は凄まじい剛速球。戦前の名投手で、従軍中に負傷し、思うように投げられなくなり、最後は失意のうちに戦死した沢村栄治の魂がカズサの身体に宿ったのだ。興奮のうちに結束を固める部員たち。
予選に出場した野球部は快進撃を続ける。
決勝前夜。ショウヨウとカズサの部屋をエリカが訪ねてくる。気を利かせて部屋を出るショウヨウ。カズサは「イタコの修行をしたのは、死んだ人ともう一度話したり好きなことを一緒にできたらと思ったからだ」と打ち明ける。
決勝戦。相手校はバントを連続して疲れたカズサを潰しにかかる。延長15回。カズサの身体は限界に達し、沢村の魂を留めることができなくなってしまう。成仏する沢村の魂。正気に返ったカズサに部員たちは「自分の球を投げろ」と励ます。だがカズサの球は相手に通用せず、15点の大差で負けてしまう。
夏休み明け。グラウンドにはアイノと野球部員が揃っている。カズサが現れると、部員たちは全員でホトケオロシを始める。この1カ月、彼らはイタコの修行をしていたのだ。部員たちが憑依させたのは、震災で生命を落としたカズサのチームメイトや顧問だった。アイノが下ろしたのはカズサの母親だ。
懐かしい人たちを前に「野球に熱中している間は皆のことを忘れていた」と泣きながら詫びるカズサ。死者たちはカズサの奮闘をたたえ、カズサの望みを叶える。彼の望みは死んでいった彼らと、もう一度野球をすることだったのだ。ともに野球を始める。
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