五反田団 第36回公演『すてるたび』
(2008年11月/アトリエヘリコプター) ©五反田団
Data
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[初演年]2009年
[上演時間]約80分
[幕・場面数]一幕
[キャスト数]4人(男2・女2)
前田司郎
すてるたび
前田司郎Shiro Maeda
東京・五反田生まれ。和光大学卒業。1997年、19歳で「五反田団」旗揚げ。諧謔というより、脱力系の自然体なおかしみのある劇空間に魅力がある。五反田団は、2003年に平田オリザ率いる青年団と合併し、「青年団リンク」の若手劇団のひとつとして活動。こまばアゴラ劇場を中心に作品を発表。劇団の活動が軌道に乗り、05年に合併を解消。『いやむしろわすれて草』、『キャベツの類』、 『さようなら僕の小さな名声』 と3度の最終候補ノミネートを経て、2007年度『生きているものはいないのか』で岸田國士戯曲賞を受賞。オーディションによって選ばれた俳優17人とのワークショップを経て生まれた同作品は、理由が解らないまま登場人物全員が死んでいくという、リリカルかつユーモラスに「死」を描いた作品。すがすがしい気持ちになる正当な不条理演劇と評される。小説家としても数々の作品を文芸誌などに発表している。小説『愛でもない青春でもない旅立たない』で第27回野間文芸新人賞、『恋愛の解体と北区の滅亡』が第28回野間文芸新人賞・第19回三島由紀夫賞に、『グレート生活アドベンチャー』が第137回芥川龍之介賞にそれぞれノミネートされる。
この作品は、受け入れがたい身近なものの死に対する哀悼の気持ちを暗喩的に描いたもので、飼い犬の亡骸を入れた箱を海に流しに行くという「すてるたび」を軸に、4人の義兄弟がそれぞれに父の死や死にまつわる妄想を膨らませていくというもの。
舞台上には4脚のイスが並んでいるだけ。このイスをさまざまな小道具に見立てながら、舞台は自在に展開していく。
登場人物は長男、長女、次男、次男の妻らしい女の4人。
次男は、父から「開けてはいけない」と命じられていた箱を覗いてしまい、怒られるのではないかと怯えている。
長男は、ポケットから次男が拾ってきた犬・タロらしきものを取り出す。それは手のひらに乗せられるほど小さい妄想のタロだった。次男が開けたのは、捨て犬だったタロを隠していた箱であり、父が死んでしまったタロの亡骸を入れていた箱だという。
そこに父の死を知らせる次男の妻が闖入してくる。妻は父をずっと介護していたのだ。するともう葬式の日となる。父の葬儀のはずが、いつのまにかタロの葬儀の話へとスライドし、死んだのが父か犬か、もうすでにはっきりとしない。
葬儀に集まった家族4人は、小指の先ほどのタロを拾ってきた思い出を語りあうが、その描写は犬よりも何か不気味な動物を連想させる。葬儀場の椅子はいつのまにか電車の椅子になり、海に向かう車両の中に4人はいる。タロは海から来たのだから海に帰すのだという長女。凍らせたタロの亡骸を入れた箱は網棚の上にあるが、やがてそこからベトベトした汁が垂れてくる。
妻は、タロは私たちのまだ生まれていない子どもだよ、と次男に言ったりもする。
海に向かう道すがら、4人は子造神社にたちよる。次男はジメジメした胎内くぐりに潜っていき、熱い湯のある穴の中で腐乱した醜怪な姿のタロに懐かれるが、恐ろしくて逃げ出してしまう。その穴は海に面した露天風呂に繋がっていて、4人で温泉につかる。するとそこはもう宿だ。出掛けなくても夜には海がこちらへやって来るという。
やがて海がやってきて、次男を飲み込んでしまう。次男は妻に助けられるが、タロは死んだ、溶けてしまったと告げられる。
浜辺でタロの箱を開けてのぞき込む4人。すると、それは父の亡骸を納めた棺桶になり、父に最後のお別れをする場面へとスライドする。これ本当に父さん?と聞く次男に頷く3人。名残惜しげにのぞき込む4人。
海に箱を流そうとして、それぞれ思い思いに「さようなら」と洩らす。が、潮の流れで浜に戻ってきてしまう箱。懸命に押すが、いくらやっても同じ。腕を組んで困惑する4人……。
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