蓬莱竜太

回転する夜

2008.01.22
蓬莱竜太

蓬莱竜太Ryuta Horai

1976年、兵庫県出身。舞台芸術学院演劇科本科卒。99年に同期生の西條義将(主宰)と劇団モダンスイマーズを旗揚げし、全公演の作・演出を手がける。また、『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』など、ベストセラー小説の舞台化戯曲も担当。人が生きていく中で避けることのできない機微、宿命、時代性を濃密な群像劇として描き、高く評価されている。2008年にはモダンスイマーズで上演した『五十嵐伝〜五十嵐ハ燃エテイルカ〜』を映画化した『ガチ☆ボーイ』が公開された。09年『まほろば』で第53回岸田國士戯曲賞、17年『母と惑星について、および自転する女たちの記録』で第20回鶴屋南北戯曲賞、19年『消えていくなら朝』で第6回ハヤカワ悲劇喜劇賞を受賞。また、高い劇団力が評価され、団体として12年に第67回文化庁芸術祭優秀賞を受賞。

モダンスイマーズ
http://www.modernswimmers.com/

「回転する夜」蓬莱竜太
風邪で寝込んでいる青年が、過去のある一日を何度も夢に見、「あの時こうしていたら、もっとああしていれば」と繰り返し、「もしも」の幻想を体験することで、少しずつ真実の自分に気づき始める懊悩の一夜の物語。現在の一夜と過去の一夜が、交互に進行する構成になっている。

モダンスイマーズ『回転する夜』
(2007年4月/THEATER/TOPS)
作・演出:蓬莱竜太

Data :
[初演年]2007年
[上演時間]1時間30分
[幕・場面数]1幕8場
[キャスト数]6人(男5・女1)

 田舎町にそぐわない豪壮な洋風一軒家。そこに暮らすのは、貿易業を営むサダオ。かつてサダオの弟・ノボルの家庭教師をしていた妻・千穂。千穂にひそかに思いを寄せているノボル。舞台は終始、その一軒家の2階、贅沢に家財が買いそろえられたノボルの部屋で展開する。全編石川弁で話される。

 夜。風邪で寝込んだノボルの部屋に現れた千穂が、様態を気にかけつつ、アルバイト募集のチラシを彼に見せる。ノボルはほとんどニートのごときこの家の居候で、プライドは高いくせに、挫折をおそれて具体的な一歩を踏み出せない、いかにもあやふやな青年なのだ。彼はアルバイトのことはうやむやにしたまま、熱にのぼせたようにベッドに横になる。暗転。

 明るくなると、7年前のある夜。友人のアッくん、ヤースケ、ニッキがノボルを囲んで飲み会中。20代半ばの3人は、現実にまだ少し猶予をもって暮らせているノボルたち兄弟に、内心いささかの屈託を抱えている様子だ。兄のサダオが最近千穂とつきあっていること、千穂は金銭のため誰とでも寝る女らしいという噂をノボルは知らされる。そこへサダオが千穂をともなって帰ってきて、彼女と結婚すること、それを機に父の貿易商を継ぐとを宣言する。自分こそ継ごうと思いひそかに勉強もしていたノボルを、何か言うことがないのかと煽るヤースケ。しかし、逃げ出すようにその場を去るノボルだった。暗転。

 現在の夜。千穂がノボルを心配する光景はほとんど一場のデジャヴュ。しかし、ヤースケがあの時あんなに茶化さなかったら自分はちゃんと兄と喋れたのにとノボルは洩らす。そこへ兄が帰ってきて、なんでもいいから働けとだめ押しをする。曖昧なままベッドに横になるノボル。暗転。

 再び7年前の夜。サダオが帰ってくるあたりからのやりとりが、二場そっくりに繰り返されるものの、今回は、ヤースケが誰の目にも見えない設定になっている。それゆえサダオの結婚告白に、ヤースケの横槍は入らないが、やはりウジウジしてノボルは兄に正面からぶつかることはできないのだった。一同、煮え切らない空気のまま、暗転。

 現在の夜。同様の場面展開のなかに、ここではないどこかに逃げ出したいと望んでいた千穂の過去の心情と、現在夫・サダオに若い愛人がいることと、ふたつの新しい情報が付けくわえられる。暗転。

 過去の夜。ニッキは農家を継ぐだけの人生を嫌い、駅前の再開発の構想を抱いていると告げるが、現実のさまざまなハードルを数え上げ、そんなの夢のまた夢だとノボルに一蹴される。頭でっかちのノボルは、兄にも子供の因縁のような不満をぶつける。お前は親父の仕事に憧れていたわけでない、ただなんとなく、外とかかわるのが面倒で、継ぐのが一番楽と感じていただけだ、とサダオに指摘されるノボル。暗転。

 現在の夜。仕事と千穂と、両方の憧れを兄に取られてしまったと感じるノボルは、千穂に自分とやり直してくれないかと懇願する。あきらめるように受け入れる千穂に、けれどノボルは何もすることができない。そこへ帰ってきたサダオに、やりたくて継いだ仕事じゃない、会社は潰れかかっていたんだ、得意先を作り友人に頭を下げて借金する、それがお前にできたか! と詰め寄られ、ノボルは自分の浮つきと卑屈と逃避に気づくのだった。世間は恐いが、それがみんなのいる所なのだと。暗転。

 過去の夜。兄に仕事を取られたと知ったノボルは、アックン、ヤースケ、ニッキらと飲めない酒をあおり、恐くてこぼせなかったグチをこぼしては少し笑っている。何かがちょっとだけ開けたような光景。暗転。

 一夜明けた現在。つかいものにならないと怒られるだろうなというノボルに、それでもかまわないから働け、それが繋がっていくと励ますサダオ。求人広告を握って出かけていくノボル。2階の窓から、坂を下っていく彼を見送るサダオと千穂がいる。

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