『乱暴と待機』
(2005年4月/東京・新宿シアターモリエール)
Data
:
[初演年]2005年
[上演時間]100分
[幕・場面数]1幕
[キャスト数]4人(男2・女2)
本谷有希子
乱暴と待機
本谷有希子Yukiko Motoya
1979年、石川県生まれ。劇作家・演出家。「劇団、本谷有希子」主宰。高校卒業後、大人計画『ふくすけ』、宮沢章夫監修『altT.4』、ヴィレッジプロデュース『1989』に出演。00年9月劇団を旗揚げした。戯曲『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』を小説化し第18回三島由紀夫賞、小説最新作『生きてるだけで、愛。』が第135回芥川賞にそれぞれノミネートされ、小説家としての活動にも注目が集まっている。
六年間笑ったことのない英則を、なんとか笑わせるため一生懸命ギャグを身につけようとする奈々瀬だったが、そんな奈々瀬に英則は妙に高圧的である。
英則はときどき、マラソンといっては出かけるふりをし、天井裏に忍び入って奈々瀬をのぞき見しているが、奈々瀬はそれに気づきながらも容認している。そこへ英則の後輩番上が訪れるが、奈々瀬の気の使いようは異様なまでである。
実は彼女は、相手を怒らせてしまわないか、誤解を与えてしまわないかと、つねに他人の顔色をうかがってしまう性格なのだ。その態度がかえって相手をいらつかせ、そのたび彼女は卑屈な笑みを浮かべるのだった。
奈々瀬の美貌に一目惚れした番上は、なんとか近づこうと、恋人の梓をコントの相手方として奈々瀬に紹介する。梓を口実に奈々瀬に会っては関係を持とうとする番上は、やがて、恋人でも家族でもないのに奇妙な同居生活を続ける英則と奈々瀬の秘密を、つかむことになる。
12年前、仲のよい山根家と緒川家が旅行に出かけた帰り、山根家の車が踏切で立ち往生した。後部座席に載っていた英則と奈々瀬だけが助かったが、奈々瀬の発した一言で列車の衝突に見舞われた、と主張する英則は、しかしその肝心の一言は覚えていないという。覚えていないが、英則はとにかく人類が考え出した中でいちばんひどい復讐を思いつくために、奈々瀬はその復讐を待つために、まるで擬似兄妹のように六年間も同居しているというのだ。
だが、いつまでたっても復讐がはたされる気配はなく、ただ「NO」といえないだけの理由で、ついに奈々瀬は番上に体を許してしまう。うすうす関係を怪しんでいた梓が包丁を持ち出し、「刺してやる」と奈々瀬に迫ったとき、天井の穴を破って英則が止めに入る。覗きがばれ、奈々瀬は部屋を出ていくことになる。「私、本当にめんどくさい」女だから、という奈々瀬に、「めんどくさいの嫌でごめんな。めんどくさくても大丈夫って言ってやれなくてごめんな」と答える英則。
翌日、番上と梓に食事に誘われた英則は、店への途上で、あのときの一言を「思い出した」と大笑いしながら部屋に駆け戻る。
線路で立ち往生したの車の中で、お前が「後ろ」って言ったからバックしてみんな死んでしまったんだ。完全にお前の責任だから、出ていかなくてもいい、復讐してやるから、と英則。そのとき、英則が言ったとおり「前に」進んでたら後部座席のふたりも死んでた、と梓が指摘する。
そうじゃない絶対に私が悪いと抗弁する奈々瀬に、俺の責任なのかと固まる英則だったが、突如、「お前が一生自分を責める復讐を」思いついた、と外へ飛び出していく。追いかけていった梓がすぐ戻ってきて、車に飛びこんだ英則がはねられた死んじゃった、と告げる。
一度暗転して明るくなると、両腕の指切断で助かった英則に、「本当は、ずっと油絵が描きたかったんだ、俺」「お前のせいだよ」といわれる奈々瀬。ふたり小さく笑って幕。
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