Presenter Interview プレゼンターインタビュー

2022.5.2
サンソン・シルヴァン

Promoting French Culture and Cultural Exchanges
Institut français du Japon – Tokyo

フランス

フランス文化の発信と交流に尽力する
アンスティチュ・フランセ日本

世界中にあるフランス大使館文化部とフランス政府が関与する文化施設を統合した組織として2011年に発足したアンスティチュ・フランセ。文化的交流の深い日本では、2018年から日本文化のスペシャリストであるサンソン・シルヴァンがアンスティチュ・フランセ日本の芸術部門統括マネージャーと大使館文化担当官(文化アタシェ)に就任。
聞き手:藤井慎太郎[早稲田大学]

シルヴァンさんの経歴についてまずお聞かせいただけますか。
 パリ第10大学[現パリ・ナンテール大学]で哲学を学びました。ジル・ドゥルーズが亡くなり、ジャック・デリダが亡くなり……と、「フレンチ・セオリー」の黄金時代が終わろうとしていた時期のことです。パリ第7大学(現在はパリ第5大学と統合され、2022年3月からパリ・シテ大学に改称)でも並行して日本語を学び、日本哲学について論文を執筆し、修士号を取得しました。神戸大学に1年間留学した後、フランスに戻って大学院専門職課程で編集実務を学び、出版社のバヤールで6カ月のインターンを終え、専門職修士号も取得しました。当初は編集の仕事を探し、漫画や小説の翻訳を始めたのですが、翻訳自体は好きだったものの、1年で翻訳作業の孤独に耐えられなくなって……(笑)。

 それで国際ボランティアに応募したんです。これは、兵役が廃止されたときにつくられた制度で(以前も兵役の代替役務として文化関係の仕事を選択することもできたが、廃止以降、性別を問わない幅広い若年層を対象としてあらためて制度化)、28才以下の若者を対象としています。1年目はフランス留学を支援するCampus Franceの日本支局に勤務しました。同時に、東京日仏学院(Institut franco-japonais de Tokyo。現在のアンスティチュ・フランセ東京Institut français du Japon – Tokyo)のディレクターだったロベール・ラコンブ(在任2008〜12)が2011年にフランス・ダンス・イヤーを準備していたので、彼に話を持ちかけたところ、ダンス・イヤーだけでなく学院全体の芸術事業を担当することになりました。

 それは、彼がデジタル・アートのフェスティバルを立ち上げようとしていた時期でもあり、私が担当して「恵比寿映像祭」やパリのゲテ・リリックと協働した催し「デジタル・ショック」(Digital Choc)を2012年に、翌2013年には「哲学の夕べ」(Nuit de la Philo)という催しも立ち上げました。「ル・ラボ」(Le Labo)と題した日仏の芸術家や専門家の対話のシリーズも2015年から私が始めたものです。

 「フレンチ・セオリー」が、英語圏のジェンダー・スタディーズ、カルチュラル・スタディーズに大きな影響を与えていることに、フランスで哲学を学んでいるときには実は気づいていませんでした。そして、國分功一郎や千葉雅也といった日本の若い哲学者がフランスの若い哲学者と交流し、ほとんどリアルタイムに、たとえばカンタン・メイヤスーの著作が翻訳されていることにはじめて気づきました。「哲学の夕べ」や「ル・ラボ」は、アンスティチュ・フランセ東京が東京日仏学院として創設されて以来、ロラン・バルトやミシェル・フーコー、ジャック・デリダらを迎えてきた、その伝統を引き継ぎながら、哲学が芸術・文学をはじめ、哲学以外の領域と切り結ぶ相互関係、日仏の哲学者の交流を後押ししたいと思って始めました。アンスティチュ・フランセ日本にもグローバル討論部門が設けられたところだったのですが、担当者が外部パートナー機関との連携に力を入れていたこともあって、ぜひともアンスティチュ・フランセ東京でも何かやりたいと思って実現させた企画です。

 その後もアンスティチュ・フランセ東京での仕事を続け、2016年からはフランス大使館文化副担当官も兼務するようになり、2018年からアンスティチュ・フランセ日本の芸術部門の統括マネージャーと大使館の文化担当官(文化アタシェ)を同時に務めています。
というと、シルヴァンさんがアンスティチュで勤務を始められたのは、10年前、アンスティチュ・フランセ日本がまさに発足しようとしていた頃ですね。
 アンスティチュ・フランセは、世界中にあるフランス大使館文化部とフランス政府が関与する文化施設を統合した組織で、パリにある本部がまず2011年1月1日に発足しました。日本に関していえば、東京・横浜の日仏学院、関西日仏学館(京都・大阪)と九州日仏学館(福岡)、ヴィラ九条山などの文化施設がフランス大使館文化部と統合されて、2012年9月にアンスティチュ・フランセ日本が誕生しました(*1)。現在のアンスティチュ・フランセ日本のディレクターは、フランス大使館文化参事官でもあるステファンヌ・マルタンが務めています。彼は外交官ではなく、もともとは会計院出身の高級官僚ですが、ケ・ブランリ美術館の理事長を1998年から2019年まで長期にわたって務めた文化のスペシャリストでもあります。

 現在では、東京、横浜、関西(京都・大阪)、九州(福岡)、沖縄(那覇)に6館のアンスティチュ・フランセがあります。那覇市にあるアンスティチュ・フランセ沖縄は2019年にオープンしたばかりです。アンスティチュ・フランセ東京はアジアでも最大規模を誇り、心地よい中庭もあれば、映像作品の上映が可能なエスパス・イマージュもある。一方で、横浜や九州には文化事業のための空間がないので、必然的に外部のパートナー施設をその都度探さなければなりません。京都には、今年創設30周年を迎えるヴィラ九条山というアーティストやクリエーターのためのレジデンス施設もあります。フランス国籍/在住のアーティストをレジデントに迎えるだけでなく、日本在住のアーティストとペアを組んだ九条山デュオというプログラムも2014年から始まっています。かつてはそれぞれの施設の独立性が高かったのですが、今日では目的や予算も共通化されており、各施設の担当者間の意思疎通も密になって、全体としての活動はより効率的、整合的になったと思います。

 これだけの数のアンスティチュ・フランセがすでに存在しているだけでなく、そのほかにも札幌、仙台、名古屋、徳島にはフランス語教育機関であるアリアンス・フランセーズ、東京の恵比寿にあり、フランス国立日本研究所も兼ねながら学術交流に貢献している日仏会館(劇作家・詩人でもあったポール・クローデルが駐日本大使を務めていた時期に設立され、2024年に創設100周年を迎える)、東京と京都にはフランス語で初等・中等教育を行う国際フランス学園(リセ・フランセ)があります。アンスティチュ・フランセ日本には加わっていないものの、これらも日本におけるフランス文化ネットワークの一部です。このように日本にはフランスに関係した多くの文化・教育・研究機関が存在し、日本がフランスにとってきわめて重要なパートナーであることを物語っています。
アンスティチュ・フランセ日本のミッションについても教えてください。
 アンスティチュ・フランセ日本のミッションのひとつは、フランス文化を日本において広く知ってもらうことにとどまらず、さらに現代という時代に合わせてそのイメージをアップデートしていくことにあります。日本にはもともとフランス語やフランス文化に親しみ、フランスに好感を持つ厚い層が伝統的に存在し、同時に多数のフランス文化施設が日本全国に存在してきたという、ほかになかなか例がない強みがあるのですが、フランスのイメージは必ずしもアップ・トゥ・デートなものだとは限りません。フランス美術は印象派で終わってなどいないし、フランス映画はヌーヴェル・ヴァーグ以降も名作を生み出し続けています!

 一般の人々にも、今のフランス文化をぜひ発見、経験してもらいたいと思っていますし、それは文化関係の仕事に就くプロフェッショナルの方々についても同様です。アンスティチュ・フランセのパリ本部では、フランスの文化や芸術の現在を知ってもらうために、「Focus」という催しを領域ごとに定期的に開催し、世界各地からプロフェッショナルを招いて、アーティストも交えたネットワーキングの機会にしています。アヴィニョン演劇祭に合わせた演劇のFocus、FIAC(現代アートフェア)に合わせた視覚芸術のFocus、といった具合です。一足早くフランスではコロナ禍による行動制限がほぼなくなり、状況が正常化しているので、間もなく日本のプロフェッショナルを派遣できるように準備を進めているところです。

 分かりやすくまとめると、アンスティチュ・フランセ日本/大使館文化部の活動の基本は、日本のパートナーとの協働です。私たちが事業の主催者になることがまったくないわけではありませんが、日本側がイニシアティヴをとっているプロジェクトをサポートし、成功に導くための支援を行うのが私たちの仕事の基本です。アンスティチュ・フランセ東京での私の仕事は逆に、文化施設としてのアンスティチュの自主事業のプログラミングです。この2つの仕事はベクトルがややちがうので、同時に兼務するのはとても楽しい反面、自分が立案したプロジェクトに自分で助成するかのごとき状況が生じるなど、ときに混乱することもあります(笑)。
プログラムを組まれるときにはどのようなことを意識されていますか?
 繰り返しになりますが、アンスティチュ・フランセ日本/大使館文化部の活動としては、日本側のプロジェクトのサポートが中心になるので、プログラムと呼べるほど方針に従った計画があるわけではありません。もちろん、日本側のみなさんと、フランス側の主要文化施設やフェスティバルとの間をつなぎ、相互対話のお手伝いをして、日本側で最適の作品やアーティストをセレクトして、最善のプログラムを組むことができるように常に気を配っています。

 同時に、社会はもちろん現代の創造活動にも影響している本質的な問題にも注意を払っています。そのひとつが環境問題です。ジェローム・ベル(彩の国さいたま芸術劇場で上演された『ザ・ショー・マスト・ゴー・オン』や『Gala – ガラ』の構成・演出を手がけた振付家)によって舞台芸術の経済構造の問題、環境に配慮した作品制作のあり方の問題が提起されたのがすぐ頭に浮かびます。また、フィリップ・ケーヌ(『セルジュの特殊効果』(TPAM in Yokohama)、『もぐらたち』(KYOTO EXPERIMENT)、日仏交流プロジェクト『アナモルフォーシス』(アトリエ春風舎)などを手がけた演出家)も彼なりの独特の手つきで、気候変動という待ったなしの問題について異なるレベルで問いかける作品をつくっています。人新世(*2)の思想家ともいえるブルーノ・ラトゥール(Bruno Latour)やエマヌエーレ・コッチャ(Emanuele Coccia、2020年の「哲学の夕べ」にも参加)といった哲学者は、こうしたアーティストに大きな影響を与えているばかりか、逆にアーティストからの招きに応じて、ときに作品制作のプロセスに加わってもいます。

 ジェンダーやセクシュアリティもまた、フランス社会に根幹から変容を迫り、今もなお社会を揺るがせている問題ですが、これも現代における芸術創造に大きく影響しています。環境問題に比べると、もう少し多様なかたちで広がっていると思いますが。たとえば、フランソワ・シェニョー(世田谷パブリックシアターでも上演された『ゴールドシャワー』において麿赤兒と共同で構想・出演した振付家・ダンサー)のようなアーティストが体現している問題です。

 今日、ますます進展しているジャンルの混淆、複数領域性にも注目しています。それによって生み出される芸術表現の新しい形式ばかりでなく、作品が発表される場を変えることによって異なる観客の混淆が生み出す可能性にも、関心を寄せています。たとえば、美術作家であるとともに演出家でもあるテオ・メルシエ(Théo Mercier)が、2021年のアヴィニョン演劇祭(会場は現代美術館コレクション・ランベール)で発表したインスタレーションでもありパフォーマンスでもある作品『Outremonde』(アンダーワールドの意)のことが頭に浮かびます。
立場的に答えにくい質問かもしれませんが、フランスから日本へ、あるいは日本からフランスへ紹介したいと思うアーティストはいますか。
 まさに今、名前を挙げたテオ・メルシエは、フランスから日本に紹介する価値があると思っていて、もっと日本でも知られるようになってほしいです。日本からフランスに紹介するというと、小泉明郎、荒木悠、山城知佳子といったアーティストが浮かびます。歴史に関わる重要な視点や思考を作品に取り入れているとともに、映像と美術(インスタレーション)という複数の表現手法をうまく交差させているところに惹かれています。
シルヴァンさんのような現地の言語と文化に詳しい方を文化担当官に起用するケースは、世界的にも増えているのですか? シルヴァンさんより以前は、必ずしも日本語や日本文化に明るくない方が3年から5年のサイクルで入れ替わっていたので、とても重要な変化のように思えます。
 世界的に見ても私がたぶん最初のケースで、今でも私のほかにはごくわずかしかないと思います。組織統合が進んで、ポストが削減されたことも私のケースの背景にはあったと思いますし、必ずしも世界的にそのような方針で動いているということではありません。確かに、これまでの文化担当官は、日本に赴任して3年が過ぎる頃、ようやく知識や人脈も増えて仕事が俄然面白くなってくる頃には任期が終わって帰国しなければならない、ということがよくありました。私の場合はそうならずに済みます。

日本語が話せて日本文化をよく知っていることは大きな利点です。けれど、私が長年一緒に仕事をしている佐野未帆さん(アンスティチュ・フランセ日本本部芸術部門芸術文化企画主任)のように、優秀なバイリンガル・スタッフがいれば、必ずしも日本語ができなくても務まる仕事だとも思いますね。私の場合、任期の定めがないので、自分からやめない限り、定年までずっとこのポストにいられます。それが悪いことではなく、いいことだと思ってもらえるように、がんばらないといけませんね(笑)。
コロナ禍においては、アンスティチュ・フランセ日本も大きな影響を受けたと聞いています。
 コロナ禍でフランス語講座の受講生が大きく減少したために授業料収入が落ち込んでおり、正直、運営は楽ではありません。アンスティチュ・フランセの一部の幹部職員の人件費はフランス外務省が負担しているほか、パリ本部のプロジェクト助成を申請することもできますが、基本的に各施設は財政自立組織(établissement à autonomie financière)と呼ばれ、独立採算制を採っています。つまり、私たちの活動はフランス語講座の授業料収入に支えられているのです。あまりに財政状況が悪化した2021年には、フランス外務省から一度限りの支援を受けることができましたが、フランス本国で文化施設が受けられたような手厚い支援を受けられたわけではありません。

 とはいえ、飯田橋にあるアンスティチュ・フランセ東京に、藤本壮介設計の新館が2021年に完成したのは明るい話題です。2011年の震災後、坂倉準三設計の旧館(1951年竣工)の耐震強度が問題となったのですが、私たちにはこの名建築を取り壊して建て替えるという選択肢はありませんでした。旧館には耐震強化工事を施しつつ、中庭に面したレストランのラ・ブラスリーがあった仮設建築部分のみを改築することにして、コンペティションを開催したところ、プリツカー賞クラスの建築家をはじめ、多くの建築家が応募してくれました。その中から藤本さんの設計案が決まりました。

 彼は、モンペリエのL'Arbre blanc(白い木の意。白い枝葉を広げた木のような外観の集合住宅)などの設計を手がけており、フランスでもよく知られた建築家です。改築により教室や会議室が10室ほど増えました。うち2室は幼児・小中高生専用として、子ども、若年層向けの事業を強化します。2022年4月2日に開催する「花見フランセ」が活動の新たな第一歩となるとともに、新館のよいお披露目の機会になるといいのですが。

 広尾のフランス大使館の建て替えがPPP方式(Public Private Partnershipの略。官民連携)で、フランス政府の負担が生じないかたちでなされたのとは違って、この新館の建築費はフランス外務省が負担しています。外務省は原則として国外での設備投資を行わない方針なので、きわめて例外的なことです。これもフランス政府が日本を重視していることの表れのひとつだといえるでしょう。旧館の改装工事の工程が若干遅れているのですが、2022年秋にはすべての工事が終わる見込みです。施設改築・改修が完了するのを記念して、2023年には文化に関してもスペシャル・プログラムを組む予定です。ぜひ楽しみにしていてください。

 アンスティチュ・フランセ日本/大使館文化部のオフィスは広尾(大使館)と飯田橋(アンスティチュ)に分かれていたのですが、これを機にその全体を飯田橋に集約する予定です。文化参事官だけが広尾と飯田橋を往復することになりそうです。ラ・ブラスリーもじきに新館1階にて再開予定です。かつては直営だったのですが、改築を機に業務委託に切り替えることになっていて、委託先を募集・選定しているところです。
コロナ禍は人の移動も困難にしました。日本の水際対策は「鎖国」にも喩えられるほど厳しいもので、国際文化交流はとりわけ大きな困難を強いられてきたと思います。
 確かに、外国人が日本に入国することがきわめて困難になり、アンスティチュ・フランセ日本の活動も困難を強いられてきました。「ラ・セゾン」というフランス文化を日本に紹介する大規模事業が2021年に開催予定だったのですが、それも二度にわたって延期され、実施時期は未定のままです。そのため、2021年秋に予定されていた、日本をテーマとした太陽劇団の新作『金夢島』公演をはじめ、ほとんどのプロジェクトが中止や延期を余儀なくされました。太陽劇団については来年以降の来日公演を目指して調整を進めています。2024年にはパリ・オリンピック、2025年には大阪万博が開催予定──もちろんフランスもパビリオンを出す予定です──なので、ラ・セゾンの開催がいつになるのか、私たちも気をもんでいます。本国からの指示を待っていますが、正式な決定は4月の大統領選挙が終わってからにならざるを得ないでしょうね。

 東京都現代美術館で2022年10月に開催される予定の「Tokyo Art Book Fair」は、フランスを今年の招待国としています。1年前から準備に取りかかっていますが、アーティストや出版社が多く参加する予定で、これをきっかけに美術の領域の協働作業が進展することにつながりそうで、とても楽しみにしています。

 1992年11月に竣工したヴィラ九条山も2022年に30周年を迎えるので多くのイベントが日本とフランスで予定されています。現職のディレクターの任期が4月で終わり、後任のディレクターの着任は早くても秋になるので、その間は私がディレクター代理を務めることになっています。シリア系のアーティスト、バディ・ダルルが奇跡的なタイミングで入国できてシアター・コモンズ2021にも参加できたのを唯一の例外として、レジデントの日本入国はこれまで不可能になっていました。それもようやく変わりつつあり、2022年4月からのレジデントは無事に迎えることができそうです。ヴィラ九条山に限りませんが、ようやくトンネルの出口が見えてきた感じですね。
舞台芸術に関しては、2022年はどのようなプロジェクトが予定されているのでしょうか。
 アンスティチュ・フランセ東京で行われる主催事業では、4月2日の花見フランセにおいて、フランスのジャック・ルコック国際演劇学校、フィリップ・ゴーリエ演劇学校出身の2人の俳優、野口卓磨さん、石川朝日さんを招いたトーク・セッションを開催しますし、振付家・ダンサーで2020年の横浜ダンスコレクションで審査員賞を受賞した横山彰乃さんが34423(ミヨシフミ)さんの音楽に合わせて中庭の空間を使って自ら踊ります。また、5月から延期されて11月に開催予定の「哲学の夕べ」ではハラサオリさんと小林勇輝さんのパフォーマンス公演を予定しています。8月にはKAATでジャック・ルコック演劇学校の校長・教員を講師に招いたワークショップを開催する予定です。

 私たちが支援するプロジェクトとしては、まず4・5月に富山市のオーバード・ホールを皮切りに、東京芸術劇場、山口情報芸術センターYCAM、那覇文化芸術劇場なはーとで、現代美術作家の束芋とサーカス・アーティストのヨルグ・ミュラーの日仏共同制作作品『もつれる水滴』 (*3)の公演が行われます。これは長い準備期間を経て実現したもので、プロジェクトの始まりからサポートしてきた私たちにとって、とても感慨深いものです。

 9月にはイヴォ・ヴァン・ホーヴェ演出、イザベル・ユペール主演の『ガラスの動物園』が、2度にわたる中止・延期を経て、新国立劇場で公演予定です。10・11月には現代サーカスのカンパニーXYが再び来日して、世田谷パブリックシアター、愛知県芸術劇場、ロームシアター京都で公演を行うことになっています。12月に、YPAMと同時に開催される横浜ダンスコレクションでは、これまでもフランス国立ダンスセンター(CND)での3カ月のレジデンスを副賞とするフランス大使館賞を設けてきましたが、今年からヴァンクリーフ&アーペルのメセナ事業であるダンス・リフレクションズとも連携し、受賞アーティストのフォローアップをさらに充実し、より魅力的な賞を提供できるようにする予定です。

 パリ近郊のジュヌヴィリエ劇場は、宮城聰さんが率いるSPACとも非常に縁が深い演出家、ダニエル・ジャンヌトーが劇場監督を務めていますが、岩井秀人さんとタニノクロウさんをアソシエート・アーティストに迎えています。私たちとしても本当にうれしいことです。KYOTO EXPERIMENTとポンピドゥー・センターの間でも、毎年の交流プロジェクトが予定されています。
それはほんとうに楽しみですね。2年にわたっていわば空白期間を強いられたものの、日本とフランスの間の文化交流がさらに豊かなものになることを、私も強く願っています。
最後の質問ですが、昨今のウクライナ情勢は、今後、どのように影響しそうでしょうか。
 EU加盟各国の公的文化機関によって構成されるEUNIC Japanが、ウクライナを支援するための催しを3月15日にゲーテ・インスティトゥート東京で開催しました。ロシアによる侵攻に反対し、ウクライナの独立とウクライナの人々の自決権を擁護することで、フランスを含むEU加盟国は一致しています。ウクライナ情勢がただちにアンスティチュ・フランセ日本の活動や日仏間の文化交流に影響するわけではないと考えていますが、日仏間の航空便の運航休止やルート変更、費用高騰などによって、もともと関係者の来日が容易ではなかったのに加えて、美術品の輸送まで難しくなるなど、すでに影響が出てはいます。

 コロナ禍においても、私たちは「以後の世界」がどのようなものになるのか、どのようなものであるべきなのか、考えをめぐらせました。ウクライナ戦争は、「以後」の世界秩序に対して、コロナ禍を上回る深刻な影響を与えることになりそうな、嫌な予感がしています。平和と秩序が早く回復することを祈っています。
私もまったく同感です。本日はどうもありがとうございました。

*1 一言に「アンスティチュ・フランセ」といっても、パリにある世界本部、大使館文化部に置かれる各国本部(=日本の場合、アンスティチュ・フランセ日本)、個別の文化施設(=アンスティチュ・フランセ東京など)と文脈によって異なる組織を意味するので注意が必要である。

*2 人新世(Anthropocene)
ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンらによって提唱されている「人類の時代」という意味の地質時代における新しい時代区分。人類が地球の地質や生態系に与えた影響に注目して考案されたもの。

*3 『もつれる水滴』
構成・演出:束芋、ヨルグ・ミュラー
ドラマトウルグ:ソフィ・ボースウィック
出演:ヨルグ・ミュラー、間宮千晴
美術:束芋
音楽:田中啓介
日本の現代美術家で社会に潜む不条理をアニメーションで炙り出す束芋と、フランスのコンテンポラリーサーカスの第一人者であるヨルグ・ミュラーが2年におよぶクリエーション重ねた日仏共同プロジェクト。富山での2カ月にわたる滞在創作を経て、オーバード・ホールで2022年4月に世界初演。フランスツアーも予定。