国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan

New Plays 日本の新作戯曲

2022.4.6
娘

Musume (daughter/girl)

Ryo Ikeda


池田亮

自らが体験したいじめや家族の話などを演劇化してきた池田亮(1992年生まれ)が、自身が代表を務めて作・演出・美術・映像を担当する団体「ゆうめい」の公演として2021年に初演。母性を司る女神ヘーラーと結婚を守護する女神ユーノーに由来する名を持つ《へら》と《ゆの》。子ども同士が結婚したことで家族となった二人の母を中心に、断片的な記憶を拾いながら、血縁の有無、個人の生い立ちや価値観、世代などさまざまな違いを巻き込んで続く家族の姿が描かれる。初演では、プロローグを含めて全20場になる入れ子構造の戯曲を、ボックスを三重に重ねた可動型の美術を巧みに使って上演した。

娘
娘
娘
娘

ゆうめい『娘』
(2021年12月22日~29日/ザ・スズナリ)
撮影:佐々木啓太

Data :
[初演年]2021年

プロローグ
『娘』の作者を名乗る《へら子》役の俳優が登場し、この作品はもうすぐ娘が生まれる自分と妻《ゆの子》、その両親と祖父母のことを調べてそのまま劇にしたものだと告げる。

第1場
《へら子》《ゆの子》夫婦が暮らす家を、妻の両親《ゆの》《ゆの夫》が訪れ会食をする。別居中の夫の両親《へら》《へら夫》もリモートで参加している。《へら子》は義父母の好物のエビ料理をふるまうが、自分は苦手で勢いで食べたものの吐きそうになりトイレに駆け込む。

第2場
母親同士《ゆの》《へら》が卒婚について話しをしている。《ゆの子》が娘が生まれると告げる。会食を終え、《へら子》《ゆの子》は夫婦で散歩しながら両親の別居のことなどを話す。《ゆの子》は自分の娘も母たちと同じようにいろいろな我慢をすることになるのではないかと言う。

第3場
《へら》の夢に父が現れる。1949年、北海道で父はヤクザと大麻を売っていたと若い頃の《へら》に話す。

第4場
《ゆの》の夢に父が現れる。1964年、岐阜で暮らしていた両親が庭に来る猫について口論する。子どもの《ゆの》が父からピアノを習う。

第5場
《へら》の父がヤクザの女に手を出し、父の兄が激怒する。《へら子》は中学生の頃、ザリガニを緑だと言っていじめられたが、色盲が父からの隔世遺伝だったことが明らかになる。

第6場
子どもの《ゆの》はピアノの発表会でうまく弾けずに泣く。両親はそのことでケンカするが、庭に来ていた猫の死骸がみつかり、それどころではなくなる。

第7場
若い頃、《へら》はトラックに轢かれた。それを機に一家は母の実家がある東京に引っ越す。

第8場
1980年の岐阜。《ゆの》が夫とともに父を尋ねる。母と別居中の父は、《ゆの》が今もピアノを弾いているかと気にするが、認知症のような症状もある。家に帰ると、義母がピアノのことや外で働くこと、猫を飼おうとしていることに嫌味を言う。

第9場
1989年の東京。公務員になった結婚前の《へら》が夫と飲み会から一緒に家に戻ると、父が仕事仲間のヤクザといて、みんなで飲み直す。

第10場
2001年の岐阜。《ゆの子》は母よりも義母に懐いている。《ゆの》は父に電話し、娘を産んだのは味方が欲しかったからだが、今は猫とインターネットが味方だと言う。《ゆの》は夫と娘をピアノ教室に車で送る。ガチャガチャをやりたいとせがむ娘に、ピアノが終わったらと言い、《ゆの》と夫は教室が終わるまで映画に行くことにする。

第11場
2001年の東京。《へら》と夫は《へら》の父を探している。父は借金を返すために生活保護を受けながらヤクザと仕事もしているらしい。借金を肩代わりし、父を迎えに行こうとする《へら》を夫は止める。家族だからという《へら》に、子どものところに帰ってくれと言って夫はヤクザについていく。

第12場
《ゆの》と夫はピアノ教室にお迎えに行く。ガチャガチャは売り切れで、《ゆの子》は「おばあちゃんならピアノの前に買ってくれた」と泣く。一度、家に戻るが、別の場所でガチャガチャをやるため夫が車を出そうとして、誤って飼い猫を轢いてしまう。《ゆの子》は母を責めて泣きじゃくる。《ゆの》は思い余ってあなたが天使の猫の絵を描いたせいだと言う。義母は孫と夫だけを慰める。

第13場
インターネット上の匿名掲示板「既婚女性専用の雑談板」の画面が映し出される。《ゆの》がキーボードで文字を打ち込むのに合わせてピアノの音が鳴る。義母に対する憎しみを吐露する《ゆの》。それに対して《へら》は「ピアノやりなよ」とコメントし、二人はメールで愚痴を言い合う。

第14場
悪夢にうなされる《ゆの》を夫が起こす。夢の内容を訴えても、夫はパソコンをやめて早く寝るようにと言うばかり。

第15場
2005年の東京。《へら》は路上生活をしているらしい父に一緒に暮らそうと言うが、お前には家族がいると拒絶される。
2011年の東京。《ゆの》が父に様子伺いの電話をすると、今日、家に来て欲しいと言われるが、仕事が終わらず難しいと答える。
《ゆの》の父の葬儀。《ゆの》はなぜ義母が葬式に来なかったのかと夫に尋ねる。《ゆの》は義母への恨みを独白し、父の家の跡地に新しく家を建てて一人で暮らすと宣言する。

第16場
アパートの一室で下半身が腐って亡くなっていた父を見つけたときのことを夫に語る《へら》。これからは一人でやりたいようにやると告げ、夫もそれを受け入れる。

第17場
2021年の東京。《ゆの子》のアニメーションの展示会場。《へら子》がエビアレルギーだったと診断されたことが告げられる。天使の猫のイラストなど、自分の記憶をコラージュしたアニメーションが投影される。

第18場
アニメーションの上映が終わり、人々が去っていくなか、《ゆの子》が母に手を振る。

第19場
2021年の岐阜。《ゆの》が匿名掲示板に書き込みをしている。打鍵の音が『乙女の祈り』の旋律になる。定年後のこれからを楽しみたい、死ぬときは一人でいたいと書き込む《ゆの》に《へら》が同意のコメントを書き込む。

ニャーと猫の鳴き声が聞こえる。

Profile

1992年、埼玉県生まれ。脚本家・劇作家・演出家・美術家・俳優。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻卒業。彫刻家としての活動を経て、2015年にゆうめいを立ち上げ、作・演出・美術・映像を担当。亡き祖父の絵画を展示し実父と共演するなど、現実の関係性からの地続きで空間と物語を描く。ノンジャンルでの創作の多面性を解析しながら活動し、外部の公演やテレビドラマ、アニメへの脚本提供も多数。作品に自らが体験したいじめをもとにした『弟兄』(初演・再演2017年、再再演2020年)、自身の家族の話を実父が出演するかたちで演劇化した『あか』(2018年)、『姿』(初演2019年、再演2021年)など。

ゆうめい公式サイト
https://www.yu-mei.com/