山本卓卓

バナナの花は食べられる

2021.08.13
山本卓卓

山本卓卓Suguru Yamamoto

1987年山梨県生まれ。2007年、桜美林大学在学中に範宙遊泳を旗揚げし、劇作家・演出家を務める。2013年の東京を舞台に、現在の緊張した空気感とそこで生きる人への祝福を描く『幼女X』を発表。投影した文字と俳優が絡むオリジナル・スタイルで、携帯電話やスマートフォンの文字や絵でコミュニケーションする世代を象徴する表現として注目を集める。以来、加速度的に倫理観が変貌する現代情報化社会を反映した作品を発表。2014年にTPAMに参加したのを契機に、アジア諸国や北米など9カ国で公演や国際共同制作などを行う。2020年5月に「むこう側の演劇」と題して、過去公演の無料配信や新作の発表など、オンラインを創作の場とする活動を始動。

範宙遊泳
https://www.hanchuyuei2017.com/

劇作家・演出家の山本卓卓(1987年生まれ)が代表を務める演劇集団「範宙遊泳」が2021年に初演。新型コロナウイルス感染症の影響により2020年にオンライン作品として『バナナの花』全4話を先行公開(第1部とほぼ同じ内容)。その後、舞台作品として発表し、6台のカメラで収録した映像作品をオンデマンド配信。マッチングアプリのユーザーと女に化けて客を誘い込むサクラ(オトリ)として出会った2人の男が、意気投合して探偵業をはじめる──。
バナナの花は食べられる
バナナの花は食べられる

範宙遊泳「バナナの花は食べられる」
(2021年3月25日〜28日/森下スタジオ Cスタジオ) 撮影:たけうちんぐ

Data :
[初演年]2021年

第1部

 2018年6月。前科一犯で独身、彼女なし、友達なしの元詐欺師、自称「穴蔵の腐ったバナナ」(以下、バナナ)は自己啓発本「君の友達が君自身だ」に刺激を受け、友達をつくろうとマッチングアプリに書き込みをする。

 ミカを名乗る女からメッセージが届いてから、131件ものメッセージが届くが、それらは明らかに詐欺を目的とした「釣り」だった。同じ人物による書き込みだと察したバナナは、その人物を百三一桜(ひゃくさいさくら。以下、桜)と名づけて、更生を促す説教メールを送りつける。

 最初は反発した桜だったが、バナナに「会えませんか?男ですけど」と返信し、会う。思いがけずお互いの共通点を見出した2人は、一緒に探偵業をはじめる。

 様々な裏家業の元締めらしいミツオを追うことになったバナナと桜。情報を得るためにミツオの元彼女でデリヘル嬢のレナに接触する。二人の目的を知ったレナは、反発しながらもやがて桜と付き合いはじめる。

 2019年夏。ミツオらしき男に捕まったバナナから桜にビデオ通話がかかってくる。男はスマートフォンの文字読み上げ機能を使い、おそらく自分はミツオだがその記憶を失ってしまったらしいと言う。自分には特定の人物の死ぬ日がわかり、バナナが2020年9月30日に死ぬと予言。首に傷を持つその男を「クビちゃん」と名づけたバナナは、死の当日だけ自分を監禁して護って欲しいと言う。男は同意し、なりゆきでバナナたちの仲間になる。

第2部

 ベッドの上で苦しそうにカラダをくねらせるアリサ。酔っ払って安らかなまま目が覚めない朝を迎えたいと言う。

 2017年。バナナは禁酒会でアリサと出会う。アリサはバナナを中学の吹奏楽部の後輩だと勘違いするが、バナナは否定できない。禁酒会後にアリサをお茶に誘ったバナナは、彼女に恋をするという思い出話を、バナナがしている2019年冬。探偵業の新しいミッションとしてアリサを捜し出して救いたいと言うバナナ。レナの元カレであるクビちゃん(ミツオ)が仲間になってから、桜はバナナとうまくいっていないと感じている。バナナは桜もクビちゃんも必要な存在だと言い、3人はアリサを救うために動きはじめる。

 2017年。レナはミツオのためにコカインの売人をしている。

 2019年。バナナたちの調査により、アリサはカナエという名前で福井に住んでいることが判明。男性不審に陥っている様子のアリサに近づくため、バナナはレナにアリサと友達になってほしいと頼む。それは同時に、ミッションに参加することでレナにかつてのミツオとの関係に折り合いをつけてほしいという思いがあったからだ。レナは承知する。

第3部

 墓らしき場所に花とアルコールを供えるアリサ。手を合わせ帰ろうとするが、引き戻されるようにしてアルコールに手を伸ばす。幽霊のような男が現れ、彼女に暴力を振るう。抵抗するうちに彼女は男を殺してしまい、力尽きる。

 そこがそのままカナエ(アリサ)の部屋になる。2020年2月。友達になったレナが訪ねてくる。アリサは売春相手だったらしい男を叩き起こして追い出す。今日で東京に帰るというレナは、アリサを「友達」のライブに誘う。それが不幸な結末につながるとも知らず──。このときのことを振り返るレナは、強い後悔を抱いている。

 ライブハウス。お面を被ったバナナ、桜、クビちゃんがバンド演奏をしている。それを聴くレナとカナエ(アリサ)。バナナは「好きだ」という曲を歌い、お面を外す。驚くアリサ。これまでの顛末をレナがアリサに伝えるが、アリサは受け止めきれず、バナナの告白に「友達でいよう」と答える。レナが桜を、桜がクビちゃんをアリサに紹介する。クビちゃんの顔を見たアリサの様子がおかしくなる。アリサはバナナたちが結託してミツオを連れてきたと思い込み、逃げる。

 街で錯乱状態のアリサが保護され、施設に収容されたと言うレナ。そして、バナナは死に、ミツオは姿を消し、自分も桜と別れたと話す。

 2020年9月30日。バナナが死ぬという日。彼はオフィスで椅子に縛りつけられている。アリサのことがあって以来、バナナは仕事中でも飲酒するようになっているらしい。記念撮影をしようと拘束を解かせたバナナは、そのまま鬼ごっこをはじめて、オフィスから脱出したバナナは街全体を巻き込んだ鬼ごっこの末に死んだと、桜が語る。

 クビちゃんが、ミツオとしての記憶を取り戻していたこと、バナナを救ってから話そうと思っていたことを告白する。そして、アリサが2021年3月24日に死ぬと予言する。二人の死をめぐって言い争いになり、レナとミツオは桜のもとを去る。

 2021年1月1日。桜にバナナからメッセージが届く。バナナが死んだときのために送信予約されていたそのメッセージには、桜とレナの子どもを「花」と名付けて欲しい、機会があればアリサの誤解を解いてほしいと書かれていた。

 2021年3月24日。アリサを死から救おうと、レナとともにいる彼女のもとに桜が現れる。桜の「生きたいんですか?」という問いに、アリサは「生きたいですよ。今は」と答える。三人からは見えない場所で、ミツオが死神を取り押さえている。ミツオから逃れた死神を、バナナとそっくりな男が現れて取り押さえる。

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