国際交流基金 The Japan Foundation Performing Arts Network Japan

New Plays 日本の新作戯曲

2020.10.7
『未開の議場』オンライン版

The Council – Online edition

Daisuke Kitagawa

『未開の議場』オンライン版
北川大輔

2014年に作家・演出家・俳優の北川大輔が立ち上げた劇団カムヰヤッセン(現在、活動休止中)で初演した「会議」を舞台にした作品を、新型コロナウイルス感染症拡大による劇場閉鎖を踏まえ、設定を「オンライン会議」に変えて再創造(2020年4月にYouTubeで配信)。トメニア共和国からの出稼ぎ労働者が定住する架空の町・幸笠県亀井郡萩島。商店街が企画するイベントをめぐるオンライン会議で、日常に隠されていた想いが晒されていく。

『未開の議場』オンライン版
『未開の議場』オンライン版
『未開の議場』オンライン版
『未開の議場』オンライン版

『未開の議場』オンライン版

Data :
[初演年]2020年
[上演時間]2時間25分
[幕・場数]一幕八場
[キャスト]14人(男8人・女6人)

プロローグ:
 Zoomでのオンライン会議の画面が立ち上がる。商店街でカフェを営む苗山が、トメニアの煮込み料理をつくる様子が映っている。劇作家・演出家の北川が登場し、視聴者にアナウンスする。

1場:
 萩島町役場職員役に転じた北川が、苗山とお喋りしながら遅れている参加者を待っている。新型コロナウイルス感染症のため商店街のイベント「萩島フェスタ」の会議もオンライン開催になったのだ。実行委員長の神田(不動産店主)が入室し、北川退室。向井(ゲームセンター店長)、町屋(スーパー店主)が入室するが、神田と一緒に一旦退室。
 森(トメニア人の教育を支援するNPO代表)、紫門(商事会社社長)、葉浦(行政書士)、馬場(食品会社勤務)、池畑(地元ケーブルテレビ局員)、升遠(スナックの女店主)、未亡人の湯田(コンビニ店主)、大崎龍介(JA勤務)と妻・舞子(銭湯店主)が入室(画面には人名と肩書きが常にクレジットされている)。普段から不仲な森と葉浦が小競り合いを始めたところに神田ら3人が戻り、会議が始まる。

2場:
 舞子が、酒気帯びで銭湯に来たトメニア人女性とトラブルになったと発言したことをきっかけに、前回からの議題「フェスタのボランティアにトメニア人を募集するかどうか」の議論に。スーパーやコンビニでの万引きの話も出て、募集しない方向に傾くが、森は必死に抗弁する。
 スナックでは上客だと言う升遠、番組で付き合いのある池畑らは募集に賛成するが、トメニア人絡みのトラブルに対応してきた葉浦が反対し、森と激しく対立する。

3場:
 広報に関する議題に移り、ここでもトラブルを引きずっている舞子が水着で銭湯に入るイベントはできそうにないと言う。印刷物を担当する森がトメニア語のものばかり作成していることが判明し、再び葉浦と対立。町屋や池畑が間をとりもつ。
メインステージでのバーベキューを担当している紫門が、話の途中で「帰る」と言い出す。この会議を口実に升遠の店に日参していたことが妻にバレ、LINEで離婚を告げられたのだ。神田が仲裁するため、休憩に。

4場:
 残った人々の世間話。龍介と苗山、森は高校の同級生で、森は当時からトメニア人と馴染んでいたなどと話す。戻った葉浦が森を批判すると、「居ない人の悪口で盛り上がるのはやめよう」と苗山が止める。
 湯田がtwitterで、「メインステージの公園をトメニア人学校が不法占拠している」というツイートを見つける。その発信者は、「フェスタの実行委員はバカが多く会議は進まず」などと10分前にも更新していた。内部の犯行かとざわつく人々。

5場:
 トメニア人のボランティア募集の採決。池畑が「“決定に従う”という選択肢をつくろう」と提案。賛成は森と池畑、反対は舞子と湯田、残りは“決定に従う”。挙手しなかった苗山は、「みんなが仲良くするためのフェスタだから、募集するからには全員が賛成でないと」と持論を述べる。
 「強く思う人の意見が優先されるべき」と言う葉浦。湯田が再び不法占拠の話を持ち出し、この件を調べていた葉浦が事実だと認めて森を追い詰める。「みな潜在的にトメニア人を差別している」と憤る森の言い分に怒った、万引き被害に遭っていた町屋も募集反対に回る。
 龍介は、舞子が高校時代に交際していたトメニア人が黙って帰国したことを引きずっているとバラす。実は、20年前にトメニア人による連続婦女暴行事件があり、舞子の恋人は犯人の弟だった。森が、「彼らは性に大らかだから」と失言したことで、会議はさらに険悪なムードになり、再び休憩に。

6場:
 残った湯田、舞子、池畑が高校時代の思い出や大崎夫妻のなれそめなどを話す。舞子は2人きりで話したいと、湯田と退出して電話する。
 戻って来た森に池畑は、「場の空気を重んじる日本人相手なら、(トメニア人が)居なくていいを居てもいいに変えるのは不可能ではない」と言う。
 三々五々、人々が戻ってくる。日系トメニア人が妻の馬場は、「生活も仕事もトメニア人が関わらない場面はない。恩恵にも預かっていると認めたうえで、話し合いを続ければいいのでは」と言う。池畑が、「伴侶を得る際の神の思し召し」を意味するトメニアの慣用句「波を待て」「潮は来た」を挙げ、時が満ちれば解決することもあると言う。

7場:
 ツイートの主がわかったと言う向井。名指しされた湯田は本音をぶちまける。万引きが大きな損害になっていること、従姉妹が婦女暴行事件の被害者の一人だったこと、共存を進める未来志向など綺麗事で、実行委員も今すぐ辞めると叫ぶ。
 向井は日本で生まれ育ち日本語しか話せないトメニア人の若者を引き合いに出し、「相手が嫌いでも、ここでしか暮らせないトメニア人が隣りに居る以上、相手を知るため努力するしかない。トメニア人が嫌い、の立場で会議には残るべきだ」と説く。
 実行委員たちの気持ちがまとまり、改めてボランティア募集について採決。“どちらかと言えば賛成”多数の中、湯田と舞子、苗山が挙手しない。結論は多数派に従うと言う湯田と舞子。だが苗山は、「トメニア人の目線にまで下がらなければならない」と持論を譲らない。升遠は、「それは“仲良くする”の暴力ではないか」と指摘する。
 冷戦中の妻から帰宅を急かすメールが来た紫門が帰りたいと言い出し、会議は散会となる。

エピローグ:
 画面に残る池畑、升遠、苗山。升遠は苗山に握手を求めるが、拒まれ退室する。池畑は苗山が作っていた煮込みを一緒に食べたいと言うが、苗山はこれも断る。
 役場の北川が会議終了の確認で入室し、池畑、苗山が退室。北川のみの画面上に再び池畑が入室し、二人は流ちょうなトメニア語で実行委員たちの“日本人らしさ”を笑い合う(日本語字幕が出る)。

Profile

1985年、鹿児島県生まれ。劇作家・演出家・俳優・プロデューサー。東京大学在学中の2008年に劇団カムヰヤッセンを旗揚げ(17年より活動休止)。緻密な構成による骨太な作品が信条。12年に東京都北区の民間小劇場である「王子小劇場」のプロジェクト・ディレクター就任。14年から18年まで同劇場芸術監督として、地域と連携した演劇祭の開催などを展開。退任後は、同劇場の運営元である佐藤商事株式会社取締役兼劇場シニアマネジメント・ディレクターとして活動。
http://www.en-geki.com/
『未開の議場』は現在もオンラインで配信中(他に英語字幕版と九州・沖縄俳優編がある)。

https://mikaionline.jimdofree.com