<第1幕>
時は90年代。演歌の道を志す青年コージは、祖母が借金して持たせたスーツを握りしめ、北津軽郡のさびれた港町から上京する。演歌の大御所・北野波平に弟子入りの直談判をしようとするが、訛がきつい田舎者のコージは相手にされず、付き人たちに阻まれる。
北野から破門されてしまった弟子のオキナワが通りかかり、「一曲歌わせて決めればいい」と提案。しかし、コージは極度のあがり症で歌うことができない。失敗したコージを、オキナワは人生にどん詰まった怪しい者たちが流れ着くドヤ街「みれん横町」に連れて行き、歓迎される。
そこにヤクザから逃れた外国人の女(テレサ)が現れる。持ち前の正義感から、殴られても、殴られてもヤクザに立ち向かうコージ。必死になったコージは、火事場の馬鹿力で我を忘れ、そこにいるみんなが思わず聴き入る演歌を絶唱し、気絶する。
オキナワはコージを励まそうと、ストリップ劇場「バスエ」に連れて行く。そこでは不法就労の女たちが働いており、その中にヤクザに連れ去られたウクライナ人のテレサもいた。売春を強要されていた彼女を助けたい一心で、自分が歌ってお金を払うと強がったコージ。故郷への思いを綴った「北国の春」を歌おうとするが力が発揮できず、ボーイにつまみ出される。
思うように声が喉から出ないコージは生活のために土方仕事を始め、すっかり横丁の住人になっている。そこに流しの演歌歌手・大野が通りかかり、辛い日常を生きる住人たちにせがまれるまま、ささやかな人生を謳う「暖簾」を歌う。大野の歌は人々の心に寄り添い、誰しもに「自分のための歌だ」と思わせる力があった。歌える時と歌えない時の違いが自分でも分からず混乱していたコージに、大野は言う。「言いたいことがうまく言葉にできなくて、やっと喉から出て来てみたら、歌になっちゃったんだろ?」
コージとオキナワは大野に弟子入りし、二人は歌手とギター弾きのコンビを結成。コージは流しとして人前で歌う修行をはじめる。偶然、北野が店を訪れるが、客に合わせるだけのコージの歌を聞いて、「歌を否定されたら自分が否定されるような歌を歌え」と言い残して去る。実は大野と北野は、かつてライバルと言われた間柄だった。
偶然、道で再会したコージとテレサはお互い惹かれていることに気づく。ストリップ劇場の女たちと、横丁の住人たちが協力し、テレサを足抜けさせることに成功。みんなに迷惑がかかると躊躇するテレサの背中を押したのは、コージが必死で絞り出すように歌った、「死ぬまで一緒にいよう」と伝える愛の歌「命くれない」だった。
<第2幕>
コージとオキナワが住むアパートにテレサが同居する。幸せで緩みきって野心がなくなったコージ。いらだつオキナワはコンテストに引っ張り出すが、出来レースで敗退。歌を聴いていた芸能プロダクションの社長・戊亥に声をかけられるが、スカウトされたのはコージのみだった。
テレサは彼の足手まといにならないよう、自ら警察に連絡し、不法滞在で強制送還される道を選ぶ。
オキナワと決別し、テレサも失い、祖母のスーツも脱ぎ、訛りも直し、がむしゃらに取り組んだコージだったが、芸能界の醜いしがらみに巻き込まれ、デビューを逃す。
一方、チンピラとなったオキナワは、北野から金をゆすろうとするが、座敷牢に監禁されてしまう。オキナワの才能を見抜いた北野は、「貴様のような人間のために演歌はある」と自分の曲をつくることを勧める。
少しの間に寂れてしまった「みれん横丁」。カラオケ時代の到来で流しの仕事が減り、大野は仕事を探している。舞い戻って来たコージは、目標を失い、途方にくれていた。「夢も希望も女もプライドもなくなって、やっと俺とちょうどよくなった」と、オキナワは魂を込めて書いたオリジナル曲「俺節」の楽譜を渡して去る。
再び演歌に向き合う気持ちになったコージは、オキナワと野外コンサートの前座を務めるが、アイドル目当ての観客のヤジで本領を発揮できない。逃げ腰のコージの耳にテレサの声が届く。
強制送還される日、バスエ劇場の女たちがコージにひと目会わせようと引っ張って来たのだ。コージとテレサは互いの思いを確認する。雨の中で「俺節」を魂で歌いあげたコージを見届け、テレサは静かに去る。
翌日の新聞にコージの記事はない。横丁の住人たちが「自分たちはちゃんと聴き届けた、心震えた歌だった」と伝えるため、集まってくる。光が射し、遠くのほうからコージとオキナワが歩いて来る。