倉持裕/ラサール石井

HEADS UP!/ヘッズ・アップ!

2016.03.31
倉持裕

倉持裕Yutaka Kuramochi

1972年、神奈川県出身。学習院大学経済学部卒業。92年の大学在学中より俳優・劇作・演出家として学生劇団に参加。94年、劇作家・演出家・俳優の岩松了が、若手俳優を集めて行ったプロデュース公演『アイスクリームマン』に俳優として出演。以降、岩松に劇作・演出を師事する。96年に俳優・戸田昌宏、谷川昭一朗とともに演劇ユニット「プリセタ」を結成。2004年の退団まで劇作・演出を担当する。00年には自身の主宰劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」を旗揚げ。以降、全作品の劇作・演出を手掛けている。物事を独自のシニカルな視点で切り取り、精妙な会話として紡ぐ高い筆力で、日常と背中合わせにある異世界が突如姿を現すような不条理な劇世界を巧みに構築する。独創的な舞台美術による大胆かつトリッキーな劇世界の創造と空間制御力にも定評がある。また小説や能楽、歌舞伎など古典を題材にした翻案、戯曲化にも手腕を発揮。近年はテレビのドラマ脚本やコントを執筆するなど、活躍の場を広げている。04年、劇団作品 『ワンマン・ショー』 にて第48回岸田國士戯曲賞を受賞。

ペンギンプルペイルパイルズ
http://www.penguinppp.com/

ラサール石井

ラサール石井LaSalle Ishii

1955年大阪生まれ。お笑い芸人、俳優、声優、演出家、脚本家。早稲田大学在学中にミュージカル研究会と声優の養成を行う劇団テアトル・エコー養成所に所属。同養成所で知り合った渡辺正行、小宮孝泰とコント赤信号を結成し、お笑い芸人としてテレビ、舞台で活躍。1996年からテレビアニメで放映された『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の主人公・両津勘吉の声が声優として当たり役となった他、俳優としてテレビ、舞台に多数出演。2001年から本格的に舞台の脚本・演出を手掛けるようになり、舞台版『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(脚本・演出・主演、2001)、東京ボードヴィルショー『トノに降る雨』(演出、2012)こまつ座公演『てんぷくトリオのコント〜井上ひさし笑いの原点』(脚本・監修、2014)、ミュージカル『ヘッズ・アップ!』(原案・作詞・演出、2015)など人情味溢れるコメディタッチの作品を次々に発表。『ヘッズ・アップ!』で第23回読売演劇大賞の優秀演出家賞を受賞。

 演出・作詞を担当したラサール石井が10年以上も温めてきた原案を元に、ペンギンプルペイルパイルズの倉持裕が台本にまとめたミュージカル。とあるミュージカルを上演することになった地方の劇場を舞台に、芝居を愛する裏方たちの夢や挫折、人生をコミカルに描いた劇場へのオマージュ。さまざまなトラブルを乗り越え、1本の芝居を終えるまでの“仕込み”“本番”“バラシ”が作品の中で展開される仕掛け。

ミュージカル『HEADS UP !』
(2015年11月13日〜23日/KAAT神奈川芸術劇場) 撮影:國田茂十
[原案・作詞・演出]ラサール石井
[脚本]倉持裕
Data :
[初演年]2015年
[上演時間]2時間30分
[幕・場数]2幕
[キャスト]23人(男14・女9)

仕込み前の舞台に劇場職員の熊川が登場。ここが某地方都市の劇場「黎明会館」であること、今日は名優小山田丈太郎主演によるブローウエイミュージカル『ドルガンチェの馬』の1001回目の公演があること、これから搬入が始まり、何もない舞台が別世界に生まれ変わることを告げる。#1『劇場で起こること』

気弱そうな新人舞台監督・新藤が登場。#2『古い劇場』 
ブロードウェイ留学帰りで、前舞台監督・加賀美の助手だった新藤にとって今日は舞台監督デビューの日。主演女優の交替など不安材料がいっぱいだが、「うまくやってみせる」と自分に言い聞かせる。

不良あがりで一癖も二癖もある裏方集団・如月社の3人が掃除機を背負ったゴーストバスターズ・スタイルで登場。兄貴と慕われる加賀美も加わり、「舞台で光浴びる者を 闇にまぎれて守る」と歌う。

裏方が顔を揃えた朝礼が始まり、ボランティアの若者・慎也も参加。参加できなくなった演出助手ゆりちゃんのピンチヒッター、立川が普段は本番に立ち会わない演出家が今日は来ると伝える。

仕込み開始。バトンが降りてくる。ブロードウェイではこういうヘルメットを着用する危険な作業時間を「Hard hat time」と言うと立川。「Heads Up!(上に気をつけろ。転じて、元気を出して上を向け)」と歌いながら作業が始まる。#3『ハードハットタイム〜ヘッズ・アップ!』

慎也が足袋に履き替えたときに、脱いでバトンに掛けた靴が上に消えていく。

遅れていたトラックが到着するが、トラブルでセットが半分しか届いていない。

「今やれることをやるんだ」。如月社・久米の音頭であり合わせの材料を使い、何とか砦を完成させようとする。#4『Do it!』 

衣裳助手のまきは女優志望。役者から裏方にまわる人間は多いのよ、と持ち道具係の桃子。二人が歌う。#5『いつかきっと』 

加賀美の別れた妻で、代役でヒロインを務めることになった女優ひかるが、加賀美に絡む。実は、かつてこの作品でヒロインを務めるはずが、稽古中の事故で降板。舞監だった加賀美はそれをずっと悔やんでいた。#6『あの日から』 

主役の小山田が登場し、唐突に主役のソロ、#7『キング』を歌い出す。どうやら高齢でボケ始めているらしい。

砦は完成するが、ラストの“馬”もない。新人舞監の新藤はまたパニックに。

慎也は、黎明会館が閉館になると聞いてボランティアに参加した。アニメ映画にヒーローショー、子どもの頃は憧れの場所だった。#8『劇場リプライズ』 

女癖の悪い演出家・海老沢が登場。間に合わせのセットを見て、公演の中止を要求する。絶対にやると対抗する制作。#9『チケットは売れている』 
横柄な態度にまきもキレ、皆で彼を縛ってセットに閉じ込める。

開場の時刻、緞帳が上がる。

#10『ドルガンチェの馬〜キング』
コーラスをバックに小山田とひかるが歌う。上から、慎也の靴が落ちてきて、つられて歌詞が「ドルカンチェの靴〜」に。
#11『ドルガンチェの馬〜ラスト』
大詰めで間に合わせのセットを隠していた幕がはがれ、材料に使っていた“黎明会館”の看板が見えてしまう。「ドルガンチェ〜」と歌うべきコーラスが「黎明会館〜」に。看板が電飾で光り輝き、幕。

バラシが始まった。#12『夢は終わった』とともにセットが崩され、NGシーンが回想される。

如月社・滝はバラシが大好きだ。#13『奴をバラせ』 
不良だった頃に如月社の社長に拾われ、ヒーローショーに出るようになった。

久米には、酒に溺れて女房を病死させた苦い思い出がある。#14『酒のダンス』
ヒーローショーで慎也憧れていたのは、久米が演じていた悪役の怪人。「この劇場で繋がっていた」#15『Chain』
道具を運ぶ加賀美の後姿を見ながら、ひかるも同じフレーズを歌う。

海老沢に、立川が演助につくはずだったゆりの妊娠を告げる。#16『キング』リプライズ
海老沢は「愚かなキング 裸の王」と歌う。

小山田の述懐。30年前、ここで上演するはずだった『ドルガンチェ〜』は本番中に火事になり中止に。最後まで観客の避難誘導をしていた劇場職員が亡くなった。一度上げた幕は下ろさなければならないと、今回の公演を決めた。

新藤はみんなの助けがなければ公演できなかったと、自分の力のなさに落ち込んでいる。一人で全部できるわけがない、Heads Up!だと加賀美が励ます。#17『一人じゃない』

加賀美は次の生き方を探すと言う。ひかるは、舞台を続けることに決めた。#18『Chain』『あの日から』リプライズ

熊川がやってくる。新藤は、熊川こそ30年前の火事で観客を守った劇場職員だったと気づく。#19『劇場で起こること』リプライズ

トラックの音が聞こえる。「搬入だ!」と舞監の声が響く。

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