岡田利規

スーパープレミアムソフトWバニラリッチ

2015.12.18
岡田利規

岡田利規Toshiki Okada

1973年横浜生まれ、熊本在住。演劇作家、小説家。チェルフィッチュを主宰し、作・演出を手がける。2005年に『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。以降、その活動は国内外で高い注目を集め続けている。2008年、小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』で第二回大江健三郎賞受賞。2016年よりミュンヘン・カンマーシュピーレ劇場のレパートリー作品の演出を4シーズンにわたって務め、2020年には『The Vacuum Cleaner』がベルリン演劇祭の“注目すべき10作品”に選出。タイの小説家ウティット・へーマムーンの原作を舞台化した『プラータナー:憑依のポートレート』で2020年第27回読売演劇大賞 選考委員特別賞を受賞。2021年には『夕鶴』でオペラの演出を初めて手がけるなど、現在も活動の幅を広げ続けている。

チェルフィッチュ公式サイト
https://chelfitsch.net/

リアルな若者の話し言葉、独特な身体表現を用いて現在を照射してきた岡田利規が、消費社会の象徴とも言うべきコンビニエンスストアにスポットを当てた作品。バッハの平均律クラヴィーア曲集から着想し、曲の流れのままに全48シーンで構成。店内のBGMとしてアレンジした同曲にのせて、コンビニに集まる人々の日常から現代を読み解く。

『スーパープレミアムソフトWバニラリッチ』
ドイツ・マンハイム「Theatre der Welt」公演

(2014年5月)
(C) Christian Kleiner
Data :
[初演年]2014年
[上演時間]100分
[幕・場数]48場
[キャスト]7名(男5・女2)

 コンビニのバイト店員「いがらし」と「うさみ」。うさみは、この店で廃棄ロスが一番多いのは店長だと、発注センスの無さをひとしきりぼやく。

 客1(女)が来店する。いつも引き寄せられるように真夜中のコンビニに来てアイスを買ってしまう。店内を徘徊し、出て行く客1を店員たちは「ありがとうございましたー」と送り出す。

 店長が店内を紹介する。売場面積100㎡、その中に約2,500種類の商品があり、プライベートブランドが存在感を放っている‥‥。

 店長が新人バイトの「みずたに」を紹介。うさみは清潔感がコンビニの命だから掃除を最初に覚えて欲しいというが、いがらしは所詮コンビニ店員なんだからチャラチャラーっとやってねと、どこまでも人をバカにしている。

 客2(男)が来店し、コンビニのバイトなんて不毛な仕事をなぜやっていられるのか、格差社会のこんな最低の状況に君たちは怒りも感じないのかなど、一方的にぶちまけて去る。「今のみたいの客じゃない、とか思わないでね」と新人に言ういがらし。立ち読みだけしにくるやつにも、僕らは挨拶するだけ、考える必要はない。

 新人がバーコードリーダーについて語る。ときどき、何度機械を当ててもピッっと鳴らないことがある。ちゃんと当ててるはずなのに……。客1がレジに持ってきたアイスクリームのバーコードが読み取れなくて焦る。店長が来て、それは死に筋商品で本部が取り扱いをやめたから読み取れないんだと教える。客1が買おうとしていたのは“スーパーソフトバニラ”だった。「わたしは超大好きだったのに」と納得できない客1。

……本部のスーパーバイザー(SV)マミヤが登場。SVはハンドマイクを取り出し、廃棄ロスにビビって発注を少なくするんじゃねえ、と非難しまくる。

 店長が見た夢について語る。売れ残った「シャケ&ねぎ塩弁当」がふたつ重なり、もぞもぞと交尾していた。自分はその繁殖で廃棄ロスが増えるのを待っていた……。

 店長が提案した接客好感度アップのための“お釣りの渡し方”が本部で採用されるが、こんなことで売り上げの悪さはリカバリーできないとSVからの非難はやまない。

 うさみが新人に発注作業は予測が当たると楽しいと言う。いがらしは売り上げデータを予測できないようにグチャグチャにしたいと夢想する。

 店長が新しいお釣りの渡し方を、店員たちに教えている。この仕草は、前にいたバイト、韓国からの留学生イーくんのやり方を真似たものだ。

 SVがコンビニの神話を語る。むかしむかし、ある新月の夜に天からコンビニの形をした飛行物体が地上に降り立った。そして、人類すべての問題をコンビニは解決した!

 来店した客2に、「また説教垂れに来たの? これまで一度もなんか買ったためしないよね。あんたこの店、出禁だよ、出禁」とうさみ。客2は、消費者をコントロールする戦略に充ち満ちたこの空間の中で、人類はどうしたら自由になれるのか? 唯一可能なのは、そこに行って何も買わないことだと語る。

 店にいた客1に、新人が話しかける。今度、新商品の“スーパー、プレミアム、ソフト、W(ダブル)、バニラ、リッチ”が出る。お客様の好きだった“スーパーソフトバニラ”のバージョンアップ版ではないかと。好きなアイスがなくなって出来た心の隙間が消えていく客1。

 店長が、毎週月曜に出る新商品によるコンビニの新陳代謝を語る。

 “スーパープレミアムソフトWバニラリッチ”の発売日。来店した客1に、新人がアイスを手渡す。それを買って店を出ていく彼女を、3人の店員が見送る。「今のほっこり感、すごくいいよね」といううさみに対し、いがらしは新人の接客態度は笑顔のダンピングだと非難する。新しいお釣りの渡し方もみんなで拒否しようというが、そんな反抗的なキャラにはなれない、と新人。

 うさみがコンビニの新陳代謝について語る。1年で70%ぐらいの商品が入れ替わる。残る30%と消える70%。自分はどっち側なんだろう。

 客1が来店し、新しいアイスは期待はずれの別物だったと非難する。自分がハマっていたものに人気がないという、やっちゃった感。自分が好きになったら、絶対人気が出なくなる呪いがかかってるんじゃない?

 本社の人と話したいと息巻く客1に、「売れねえ死に筋商品は、すぐ店頭からどかすってのが常識なんだよ」と、容赦ないSVの声がスピーカーから響く。客に勘違いさせた責任をとって辞めるという新人は挨拶をして出ていく。

 SVが、新しいお釣りの渡し方が取りやめになったと店長に告げる。おめーのやることなすこと全部マイナスなんだよと言われ、やってらんねーと店を出て行く店長。

 トイレを借りるために入ってきた客2を、お前に貸すトイレはない、とうさみが拒み、いがらしも同調する。客が俺たちのことを見下すのは、コンビニが客を甘やかし過ぎるからじゃねーの……。

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