田村孝裕

世界は嘘で出来ている

2015.03.05
田村孝裕

田村孝裕Takahiro Tamura

1976年、東京都出身。劇作家、演出家。98年に舞台芸術学院を卒業後、同期生9人で劇団「ONEOR8(ワン・オア・エイト)」を旗揚げ。以降、劇作・演出を務める。家族など近しい人間関係を丹念にみつめた作品が特徴。外部への書き下ろしも多く、大劇場でのプロデュース公演の演出なども手掛けている。岸田戯曲賞の最終候補ノミネートは、劇団に書き下ろした『絶滅のトリ』(10年)、文学座への書き下ろし『連結の子』(11年)に続いて3度目。テレビドラマや映画シナリオなどでも活躍している。

https://wp.oneor8.net/

劇団「ONEOR8(ワン・オア・エイト)」の座付き作家、演出家・田村孝裕の、第59回(2014年度)岸田國士戯曲賞最終候補作品。孤独死があった部屋を片づける特殊清掃業者の滝口。その弟・孝行がアパートで遺体となって発見される。清掃と兄弟の過去の情景が交錯しながら、すれ違いを繰り返してきた二人の関係が描かれる。

ONEOR8 第28回公演『世界は嘘で出来ている』
(2014年10月16日・17日/穂の国とよはし芸術劇場PLATアートスペース、10月21日〜29日/下北沢ザ・スズナリ) 撮影:新村猛
Data :
[初演年]2014年
[上演時間]1時間50分
[幕・場数]1幕13場
[キャスト]13名(男9・女4)

 古い木造アパート。掃除用具を手に、ビニール合羽を着た滝口と初出勤の土井が現れる。軽薄な態度で無礼な口をきく土井に苛つきながら、滝口は仕事の段取りを説明する。遺体は自分の弟だと言う滝口に驚く土井。

 1カ月前、孝行と看護士の麻衣子が同棲しているこのアパートに大家が家賃の催促に来る。麻衣子は不在で、孝行はしらばっくれて大家を追い返す。

 現在。内装屋と畳屋が清掃後のリフォームの下見にやってくる。大家は滝口に、部屋を改装する費用まで負担するよう要求する。

 25年前、実家。仮病で学校をずる休みし、母のそばでゲームに熱中する孝行。滝口に仮病がバレるが、水商売をする母のことが原因で友達を殴り、級友二人に無視されていると言う。彼らの名前を聞き、無言で出て行く滝口。

 1カ月前。アパートで孝行とヘルパー養成講座の仲間・志茂が、ゲームをしているところに麻衣子が帰宅する。志茂は、孝行がわざと採用試験に落ち、失業保険で暮らそうとしているとうっかり口走る。失望した麻衣子は出て行けと怒るが、孝行は頭が痛いと言って自室に引っ込む。

 現在。アパートで遺品の整理をしながら、麻衣子は都合が悪くなるといつも頭痛を言い訳にする孝行を本気で心配しなかったことを、滝口に悔いる。

 6年前、兄弟の部屋。滝口と恋人の冬子は、彼女が妊娠したので結婚して家を出ると孝行に告げる。冬子と二人になったとき、孝行は寂しさと諦めを口にする。

 25年前。滝口は、孝行を無視した級友二人を家に連れてくるが、そんな事実はないと否定される。母から嘘をたしなめられた孝行は、家を飛び出す。失踪した父の借金のため、風俗店に勤めている母に対するささやかな反抗だったのだ。疲れ果てている母に滝口は、学校を辞めて実入りのいい特殊清掃業に就くと言う。

 現在。遺品の整理をしながら、麻衣子は滝口が孝行に紹介した会社を辞めた経緯を語り出す。

 1年前。電話で話す兄弟。孝行は商品を破損した濡れ衣を着せられて会社を辞めるという。頭が痛いと話を切り上げようとする孝行に、滝口はすぐバレる嘘をつくなと怒る。

 現在。麻衣子は、孝行が会社を辞めたのは、上司が滝口の会社に上乗せ請求していたことを知って憤ったからだと言う。遺品箱に収めた孝行の携帯電話が鳴り出す。介護士事務所からの電話で、今日は孝行の初出勤日だったという。事実の重さに耐えかねる麻衣子。滝口はゴミに出したヘルパー養成校の修了証を探して欲しいと土井に言う。

 20年前。兄弟は上京するため、母は恋人と同居するために家を出る日。母は兄弟を順に強く抱きしめる。

 現在。滝口が母に電話をかけている。孝行の死の状況、恋人との関係など、母を安心させるために次々と嘘をつく。修了証を持ってきた土井は「今日限りで辞める」と言って去る。ひとり残った滝口は、仕上げの掃除機をかけ始める。ふと動きを止めた彼の口から嗚咽が漏れる。

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