何もない空間に「男」が、次いで「女」が現れる。男が壁に円を描く。二人はそれを使い、マイムのキャッチボールを始める。ラインやゴール、ネットなどを描くにつれ俳優の人数も増え、彼らはドッヂボール、サッカー、野球などに興じる。続いて男が「music」と書くと合唱が始まる。歌いながら壁や床を日常生活、社会、環境、信仰などにまつわる言葉や絵柄で埋め尽くす俳優たち。
「男」と「女」が出会う。電車でのアクシデント、偶然の再会、同棲、旅行…。思い出は増えているのに次第に心は離れ、会話のなくなる二人。「女」は二人の間にあった情感や思い出、使っていた家具などを黒板から消していく。
別の場。ジョギングウェア姿で必死に走るジョギング女が現れる。傍らには心配そうな恋人らしき男。女は川をめざし走っているが、いつまでも辿り着かず、そんな自分には生きる価値がなく世の中も酷くなる一方だと嘆く。以降もジョギング女は登場し、自分と世の中への不満をぶちまける。
勤務先の部品工場に出社した「男」は、工場長から突然解雇を告げられる。状況を認識し、自分だけの“光”を見つけろと諭す工場長。帰宅した「男」を待っていたのは、大半のものが消えた部屋。不意に床に穴ができ、「男」は落ちる。
穴の底にはサラリーマン風のスーツ男がいた。脱出をあきらめたかのような彼の様子に発憤した「男」は勢いでがむしゃらにはいあがり、脱出に成功。通りがかった娼婦を買う。
一方、同棲を解消した「女」も、街で見かけた「男」を無意識に追ううち穴に落ちる。必死にはいあがろうとろうとするが、上半身が穴から出たところでスーツ男に足をつかまれ身動きできなくなる。
さ迷う「男」は理不尽に服剥ぎに合い、重力に負けたかのように下着姿で床を這いまわる。
「男」の実家で床屋を営む父。働き、食事し、テレビを見る。日々は繰り返し。父は母から突きつけられた離婚さえ、驚きながらも受け入れた。這ったまま実家へ辿り着いた息子を心配し、床屋を継ぐことを勧めるが、「男」は突っぱねる。
別の場。母方の祖父が交通事故で死ぬ。痴呆が始まった祖母は死を認識できず、祖父との思い出を幸せそうに語り、もっと話したかったと言う。その場で「男」は母の離婚理由を尋ねるが、言葉では説明できないと言う。
そんな時、頼りの父が倒れる。「どう生きればいいかわからん」と泣きながら介護する「男」。付き添う母は、壁の言葉や絵を辿りながら「生命の旅」について語り始め、全人類の唯一の共通点は女性器から生まれてきたことだと断言する。
植物状態の父の顔に触れ続ける母。「男」は父の服に着替え、母に「人間は変われるか」と問う。母は答える代わりに「You Are My Sunshine」を歌う。
扉の前に人々が集う。ノブに手をかける「男」。一度目はすぐに閉じ、二度目に開け放たれた扉の奥へと人々は進み、再び舞台の穴から現れ、流れはぐるぐると循環する。
穴に落ちたままのスーツ男は「女」に哀願して「愛に包まれたキス」を受け、二人は開放される。
ジョギング女は彼女をおぶって猛然と走り出した彼氏により、めざす川に辿り着ける。川では大勢の人が、祝福するように「You Are My Sunshine」を歌っている。やがて川の音は街の喧騒に変わり、人々は掃除を始める。
掃除する人々はそれぞれの人生を生きている「男」や「女」である。扉を挟み、互いが見えぬままの会話。内か外か、押すか引くかのやりとりの後、扉が静かに開き「男たち」と「女たち」は向き合う。
ふと「男」が一人、穴から光が漏れていることに気づく。「女」は穴に向かって両手を広げ、光を胸に抱き入れる。
光はさらに強まり、人々は掃除を続け、最後には○が二つと、太陽だけが残る。