2012年7月。宮崎県大潮市坂根地区の人々は、いつになく落ち着かなかった。自然に恵まれた、と言えば聞こえは良いが、海と山しかなく経済的にも逼迫した過疎村。そこに脚のある魚が現れたのだ。
折しも、この村をなんとかしようと坂根ふるさと会を中心に『ブルーツーリズム』という都会の人に漁村の暮らしを体験してもらうイベントが企画されており、村民達は漁船での湾めぐりや干物づくり、坂根神楽の準備に大わらわ。しかしこれでは人を呼ぶどころではなくなってしまう…。
とにかく専門家の判断を仰ごうと、野生動物調査会社SEAの研究員で元獣医の酒田七生に調査を依頼する。七生は慎重に魚を調べ、保護するか別の地域に放すことを検討したいと主張するが、真っ向から反発する村民も多かった。環境や動物のことを配慮するより、人間の生活が大事だから、異形の生物は駆除、殺害してしまえばいいと言うのだ。村の安全のために、そして村の存亡をかけたブルーツーリズム成功のために…。保護か駆除か。村の男達はこの議論で真っ二つに割れる。
話合いをするうちに、それぞれの村への思い、人生観があらわになってくる。また先代、歴代の祖先から持ち越された確執も浮き彫りになり、折り合いを付けることはきわめて困難な様相を呈してくる。
口蹄疫の現場で獣医としての本分をまっとうできなかった七生は、今度こそと少ない手がかりから魚の弱点を推測し、電気柵を立て、住民を保護しつつ、魚に対処する方法を考えていく。しかしそうしている間も魚は数を増し、被害を訴える住民も出て、魚を殺さざるをえなくなる。苦渋の決断をした七生は一人でその任務にあたり、大きく、美しい魚を殺し続けた。
夏の坂根の海に毎年浮かび上がるホヤが、今年は花になって海上を埋め尽くした。それは世界の終わりの風景のようにも思えた。
やがて、増え続け巨大化し続ける魚は、坂根だけでなく全世界で出現していることが判明する。もう村を脱出するしかない。七生らのそんな説得や自衛隊の懸命の救出もむなしく終わった。なぜなら…人間が魚に変わり始めたからだ。人類は魚に進化したのだ。
ほとんどの人が魚になった村で、七生は生き残った人に話す。まだ諦めたくない、事態をとめる方法を求めてもう少しあがいてみたい。この地方には魚は神楽に引き寄せられるという言い伝えがあった。神楽に何かヒントがあるかもしれない。あるいは、今生き残っている人達の遺伝子に何か人類を救う鍵があるかもしれない。
そんな七生に村人は、もし七生が生き残ったら持っていて欲しいと人間の絵を手渡す。「世界には、人っちゅう変わった生き物がおった。そん証じゃ」。