中津留章仁

CONVENTIONHAZARD〜奇行遊戯

2011.05.26
中津留章仁

中津留章仁Akihito Nakatsuru

1973年、大分県出身。2000年に「トムアクターズスタジオ」出身の俳優らと共に「TRASHMASTERS」を旗揚げ。団体名は「駄作の達人」の意味合いで、名作・王道と呼ばれる作品の方程式にはない手法や表現を模索し、創作に用いることで、それら主流を超える創作をめざしていることからつけられた。近年は、日本の現代社会が抱える多様な問題を取り入れた、重厚な人間ドラマを数多く執筆。エンタテインメントとして広く楽しめる作品を前提としながらも、床面まで変える大胆な場面転換や、長時間上演など、制作する上で難しいとされる舞台づくりにチャレンジしている。主な作品に『TRASHMASTAURANT』(2002、2003年。TVドラマ化もされる)、『とんでもない女』(2008、2011)、『BEYOND THE DOCUMENT〜渇望と裁き〜』(2008)、『elevation〜幸福の難民〜』(2009)、『灰色の彼方』(2010)など。劇団外のプロデュース公演での劇作・演出、映像作品のシナリオ執筆の他、俳優としても活動。劇団以外の上演ユニット「中津留章仁Lovers」や、自身の製作プロダクション「Last Creators Production」での活動も行っている。

https://lcp.jp/trash/

九州・大分県の小さな漁村のバーを振り出しに、マグロの養殖と寿司チェーン店で企業家として成功を収めた晴海増鷹が主人公。過去から月旅行が当たり前にになった近未来までを前・後編で描き、彼の生い立ちや彼にまつわる登場人物たちが背負った因果(日中問題、いじめ、人種差別、海洋環境問題、狂信的な動物保護活動など)をめぐりながら、矛盾を抱えた人間の生き様を描く。2010年度岸田國士戯曲賞最終候補作。

TRASHMASTERS『CONVENTION HAZARD〜奇行遊戯』
(20010年6月/下北沢駅前劇場)
Data :
[初演年]2010年
[上演時間]2時間45分
[幕・場数]2幕3場
[キャスト]12人(男10・女2)

 プロローグ。舞台は下手側の大部分がバーの店内、上手には住居スペース。

 店主・晴海増鷹(はるみ・ますたか)がベッドから起き上がる。続いて昨夜の客だったありすも身を起こす。

 そこへ増鷹の従姉・璃子(りこ)が現れる。近所のブリ養殖場主・大和刀(やまと・かたな)と結婚しているが、暴力を振るわれては逃げて来るのだ。自室に匿う増鷹。璃子を追い刀の弟・誉(ほまれ)も登場。二人は不倫関係にあった。ありすと増鷹の会話に、誉と璃子の喘ぎ声が重なる。

 スクリーンが下り、増鷹のナレーションが字幕と共に投影される。私生児としての生い立ち。3歳で母を亡くし、この街で祖父と叔父夫婦、従姉の璃子と育ったこと。苛烈ないじめ、中学時代に現れた父、オーストラリアへの留学とニューヨークでの大学進学。3ヶ月前に街に戻りバーを開いたことまでが一気に語られる。「前編 くさりの街」の文字が映り、暗転。

 再びバーの店内。誉と在日朝鮮人の同級生・張啓示(ちょう・けいじ)、ありすが酒を飲んでいる。

 そこへ刀が璃子を探しに現れる。璃子の所在はばれるが、刀たちはひとまず落ち着き家へ戻る。

 同級生の西島大成(にしじま・たいせい)が現れる。過剰に動物保護を訴える大成は、自分が生命の大切さに気づいたのは小学校時代、増鷹を屋上から突き落としたことが契機だと改めて謝罪する。

 中座した張と入れ違いに、刑事である同級生・時任讃次(ときとう・さんじ)が入って来る。讃次も増鷹を突き落とした共犯。いじめは小学5年の平和授業で南京大虐殺が取り上げられたとき、教師が支那事変に出征した増鷹の祖父の話をしたことがきっかけだと明かされる。

 再び刀が現れる。讃次は刀の養殖場で、違法の有毒薬剤を使っているという疑惑を調査していたと言う。通報したのは璃子だとも。言い争う刀と讃次の間で、誉が薬剤の使用を認める。薬剤を使わねば網の目が詰まって養殖が成り立たない。使用は組合の総意でもある、と。

 増鷹が連れてきた璃子を刀はなじるが、璃子は薬剤使用の葛藤から自分に暴力を振るっていたくせに、と逆に刀を責める。出頭のため店を出る際、刀は璃子と誉の不倫を知っていたと告げ、後を託していく。

 入れ違いに張が店に戻って来る。

 隣室を物色していたありすは、どこかへ連絡を入れている。

 息を荒らげた大成が現れ、行方不明の子犬の骨と頭を張の家のゴミ箱で見つけたと息巻く。張は祖父の仕業と思い当たり詫びるが、大成は張にバットを振り下ろす。銃を構えて止めに入る讃次。そこに、刀が自宅の庭で縊死したと連絡が入る。

 誰もいなくなった店にありすが現れる。彼女は余命宣告をされた増鷹の父と本妻の両方の依頼を受け、増鷹が財産放棄と相続どちらに相応しいかを確かめに来たと告白する。ありすは後者を選択。増鷹の哀しみに引かれ合うように、自然に心と身体を合わせる二人。

 再び映像字幕と増鷹のナレーション。遺産を手にした増鷹は誉とマグロの養殖を始め、自社の魚を使った寿司チェーンも成功させる。誉と璃子、増鷹とありすは結婚。ありすは国籍は日本だが中国人で、家を放火された過去などから中国人を異常に嫌う璃子にその事実を隠していること、動物保護団体に養殖場の網が破られ大きな損失を被ったことなどが語られる。

 さらに数年後。中国はさらに国力を増し、日本では若い世代に自国固有の文化への関心が高まる回帰現象が起こっていた。

 映像に「後編 奇行遊戯」のタイトルが映され、ナレーションは続く。

 アメリカに月旅行の代理店ができ、増鷹は23本目のシャトルに乗るが、エンジントラブルのため漂流。食料も水も尽き、死者も出るが増鷹はかろうじて生き残る。

 さらに数年後、相次ぐ日本企業の市場参入に反日感情が高まる中国では、飲食業などを除く日本企業の参入制限を政府が行っていた。暗転。

 東京。増鷹のオフィスビル内、社長室に続く応接室。副社長となった誉が、中国大使の李(りー)と、製鉄会社バオスチールジャパンの社員・栄田(さかえだ)を連れて来る。ボディガードとなった讃次とともに、社長の増鷹とありすも登場。故郷の街と南京が姉妹都市になり、親善大使の仕事から戻ったばかりという増鷹。誉は商談の前に李らに社内を案内する。

 その間に刀の双子の弟でジャーナリストの讃(たたえ。刀との二役)の来訪が告げられる。増鷹は「子と讃の不倫を解消するよう切り出し、誉と讃、璃子は話し合うが、誉の思いが通じぬまま離婚が決まる。続いて讃は、シャトル漂流事件の真実を増鷹から聞き出そうとするが、増鷹は一切を拒絶する。

 戻って来たありすは、妊娠中の子どもに奇形の可能性があると診断されたと話す。増鷹は「どんな子でも愛せる」と出産を促す。

 璃子が衆議院議員の真山(まやま)の到来を告げる。親中派の増鷹を批判する真山。だが本題は、衆議院解散後の次の選挙での、基盤の弱い九州地方の票集めへの助力の要請だった。中国への経済制裁も視野に入れる真山の党に協力できないと言う増鷹。真山は自分が本妻の子なのが反目の理由かと言うが増鷹は取り合わず、会談は決裂する。

 李らが戻ってくる。商談の中身はバオスチールの新工場を増鷹の会社の土地、故郷の街に誘致して欲しいというもの。養殖場の水質確保を理由に断る増鷹。だが李は、商談が成立すれば中国高官に働きかけ、日本企業に対する中国市場の閉鎖を一部解除すると言う。

 拒絶する誉と対照的に、増鷹はこの条件に関心を持つ。両国の友好を深める絶好の機会だと。増鷹の翻意に憤る誉は、兄の墓のある土地を汚染する工場の誘致は認められないと怒鳴るが、そんな個人的な事情を李は笑い飛ばす。増鷹は自分たちの行動が、個人の感情や企業の利益を越えて重要なことなのだと誉を諭す。

 最後の来客は過激な動物保護団体の一員となった大成だった。大成は養殖場の網を破り、マグロを放すため警備を甘くしろと言う。要求をはねつけた増鷹に、大成は切り札として増鷹の両親の因縁を話し始める。次々と愛人をつくる夫に耐えかね、本妻は増鷹の母を事故を装って殺せと命じた、と。さらに、ありすも増鷹の父の子どもで、二人は知らずに結婚したのだと。

 激しい衝撃が二人を襲う。だが愛は変わらず、脅迫にも屈しないと言う増鷹とありす。大成は潜入させていた味方を呼び、小型爆弾を増鷹の腕に着けさせる。制限時間は2分。「助かりたければ腕を切り落として爆弾を外せ」と、ビルに装備された非常用斧を渡して逃亡する大成。

 躊躇うありす。爆発まで残り15秒のところで、ありすは絶叫しながら斧を振り下ろし、爆弾を外して捨てる。爆音。「また、生きてしまった」と増鷹。生まれてくる子どもとの未来を思い、二人は強く身を寄せ合う。

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