快快『My name is I LOVE YOU』
(2009年8月〜10月ヨーロッパ・ツアー) 撮影:加藤和也、林靖高
Data
:
[初演年]2005年
[上演時間]1時間10分
[幕・場面数]1幕13場
[キャスト数]5人(男2・女3)
*これ以外に台詞の語り手が1名。上演ヴァージョンによって男女両方の場合あり
北川陽子
My name is I LOVE YOU
北川陽子Yoko Kitagawa
1979年生まれ、栃木県出身。快快のリーダー。作品の脚本執筆および演出を担当するほか、集団の方向性を決定している。外部媒体へのレビュー執筆や、アート作品へのモデル参加など、活動は多岐にわたる。
舞台奥に左右対称のハチ公像のパネル。その間はスクリーンになっており、渋谷の街の雑踏などを映し出す。場面ごとに映像、静止画、字幕などにも変わる。
テクノのモノローグ。彼は自分をテクノ好きなだけで、特に意志も目的もない「日本人の中でも特に狭い日本人」と自己紹介する。語っているのは1週間前に見た光景。髪を切るために出かけた彼は、途中で頭が割れて脳が見えたまま歩き回る鳩を見つける。鳩と自分との間になんの関係性も見出せず、解決しようのない不快感に捉われたテクノは世界の理不尽さに絶望する。
再び渋谷の雑踏。ハカセが、半分人間のダッチワイフ・ソフトダッチに客を引かせている。「2080年にはセックスは消滅する。売れるうちに売って、売り上げで学生が新たな学問に取り組める『渋谷大学』をつくる」ことがハカセの持論と野望だ。だがソフトには「セックスに愛が必要かどうか」が重要な問題。
通りかかるテクノ。ハカセとはかつて同級生だったが、いじめられていた様子。ソフトを盛んに売り込まれるが「ハードでなければ」とテクノは断る。
再びテクノのモノローグ。小学生時代の作文の思い出。「爬虫類が好きだ」と書きたかったのに無意味な嘘をつき、「哺乳類が好きだ」と書き直した自分の罪悪感を語る。ハカセとソフトが絡むが、3人の会話が噛み合うことはない。
突然、未来人を名乗る女が現われ、「2062年生まれの18歳、未来では服など着ない」と言う。だが「全裸は不潔だ!」と自分の身体を激しく痛めつけて抗議するテクノに驚き、慌てて時代錯誤の奇妙な服を着る。未来人はテクノに好意を持つが、テクノは彼女のダサさを拒絶して去る。残された未来人にソフトがお洒落の手ほどきをするが、意図は伝わらない。
ハチ公前では完全な機械のダッチワイフ・ハードダッチが客引きをしている。彼女はソフトの妹で感情はあまりなく、仕事にも迷いはない。ハードならばと買おうというテクノ。そこへ未来人が現われてセックスの売買に激しく抗議し、自分を抱くようにテクノに詰め寄るが彼の反応は冷たい。
テクノは自分の髪型に関するモノローグを始め、割って入ったハカセと共に大音量の音楽のなか、ダンスを交えたバトルを繰り広げる。止めに入る未来人。彼女は自分に2万円の値段をつけてテクノに買われ、ハチ公前で愛を囁きあう。
ソフトとハードが言い争う。セックスをめぐる金と愛の関わりについて、二人の意見はまったくの平行線。ハカセが現れ、二人に客を取るよう促すが、ソフトは「切なくて働けない」と言う。
全員によるポップなダンスがインサートされる。
テクノが登場。「恋人とタダでセックスするのは物理的な快楽だけ求めているようでイヤだ」という彼は、宝くじの賞金50億円でハードを買う。テクノとハードが去ったあと、ハカセは「渋谷大学を未来につくる」と宣言。「ハチ公とハチ公の間を通ると未来に行ける」という都市伝説を信じ、服を脱ぎ捨てて像の間を通って未来に向かう。
取り残されるソフト。彼女の目には渋谷の景色だけが映し出される。自転車、車、男、女、子供、太陽、空、空、空、劇場、観客……。そして彼女は叫ぶ。
「わたしは見つけました、わたしの名前を読んでください、わたしの名は、、、、、、、、、、!」
その叫びは完結せぬまま、暗転。
快快(faifai)
2004年結成(08年4月1日に小指値〈koyubichi〉から快快に改名)。多摩美術大学映像演劇学科の同級生であったハンガリー人を含むメンバー10人と、サポートメンバーによるカンパニー。演劇、ダンス、映像などさまざまなメディアを取り入れたパフォーマンス作品を集団創作するとともに、それらを観客とともに楽しむ「場」を提案している。現代の複雑さに向かいながらも、いつのまにか幸福感に満たされてゆく作品性は、たくましい都市と人そのものと評されている。09年夏には代表作『My name is I LOVE YOU』英語版を創り、ハンガリー、オランダ、スロヴェニア、ドイツを巡るヨーロッパ・ツアーを敢行。NHKとのコラボレーションドラマ、銭湯でのイベント、東京/アジア各地でのパーティオーガナイズ、各種アート・フェスティバルへの参加、ギャラリーでの作品展示、書籍リリースまで、活動の幅は広がり続けている。
https://www.faifai.tv/
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