平田オリザ

サンタクロース会議(アダルト編)

2009.02.03
平田オリザ

平田オリザOriza Hirata

1962年東京生まれ。劇作家、演出家、青年団主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督、城崎国際アートセンター芸術監督。大阪COデザインセンター特任教授、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、四国学院大学客員教授・学長特別補佐、京都文教大学客員教授、(公財)舞台芸術財団演劇人会議理事長、富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマネージャー、日本演劇学会理事、一般財団法人地域創造理事、豊岡市文化政策担当参与、奈義町教育・文化の町づくり監。
16歳で高校を休学し、1年半かけて自転車による世界一周旅行を敢行。世界26カ国を走破。1986年に国際基督教大学教養学部卒業。在学中に劇団「青年団」を結成。大学3年時、奨学金により韓国延世大学に1年間留学。
「現代口語演劇」を提唱し、1990年代以降の日本の現代演劇界に多大な影響を与える。海外公演に意欲的に取り組み、フランス、韓国、中国との国際共同制作も多数。2008〜2013年にBeSeTo演劇祭日本委員会委員長。また、民間小劇場のこまばアゴラ劇場の経営者として若手演劇人を育成。演劇によるコミュニケーション教育、大学における演劇教育など演劇教育分野でも目覚ましい成果を上げる。公立劇場芸術監督を務め、「芸術立国論」(2002年発行)を著すなど、国や自治体の文化芸術による公共政策をオピニオンリーダーとして牽引している。
受賞歴:1995年『東京ノート』で第39回岸田國士戯曲受賞したのをはじめ、2019年『日本文学盛衰史』で第22回鶴屋南北戯曲賞受賞するなど作品の受賞歴多数。2006年モンブラン国際文化賞受賞。2011年フランス国文化省より芸術文化勲章シュヴァリエ受勲。

青年団 公式サイト
http://www.seinendan.org/

平田オリザが小学校で子どもたちとワークショップを行い書き下ろした、初めての親子のための戯曲。子どもが参加できる参加型演劇とアダルト編がある。
平田オリザ『サンタクロース会議(アダルト編)』

青年団 第58回公演『サンタクロース会議 アダルト編』
(2008年12月/こまばアゴラ劇場)

Data :
[初演年]2008年
[上演時間]約1時間
[幕・場面数]一幕三場
[キャスト数]13人(男7・女6)

 大きな半円形の会議机が置かれ、その輪の中にベッドがひとつ。子ども(母親と二役)が寝ている。ベッドの枕元には大きな靴下が下げられている。舞台奥に人が出入りできそうな煙突のある大きな暖炉。

 BGMのジングルベルの音楽が少し大きくなって、照明がベッドだけに当たると、子どもがゆっくり起き上がる。靴下の中を覗き喜ぶ。ベッドを降り、会議机の下をくぐって舞台奥に進み、暖炉から消える。

 クリスマスを迎えるにあたり、毎年開催されている「サンタクロース会議」が今年も開かれようとしている。お父さん、お母さん、教師ら出席メンバーが三々五々集まってきて、第833回の会議が始まる。議題は「サンタクロースさんに、何をお願いするか」。客席側に座った3人の子どもたちにも意見を聞くと子どもらしい答えはサッカーボールぐらいで、「バイク」や「お父さん」を欲しがる子どもに大人たちは困惑する。

 とうとうクリスマスの専門家を名のるガミガミ博士が、「そもそもサンタなんていない」と持論を展開するに至って、サンタクロースの専門家を自認するガリガリ博士との間でサンタの存在をめぐる激しい言い争いが始まるが、これはどうやら毎年繰り広げられているサンタクロース会議のお馴染みの風景らしい……。

 やがて、ジングルベルの曲が大きくなり、ベッドにスポットライトが当たる。会議を途中で抜け出してベッドに入っていた子ども(母親と二役)が、ゆっくり起き上がる。靴下の中を覗き喜ぶ。ベッドを降り、会議机の下をくぐって舞台の奥へ進み、暖炉から消える。

 照明が明るくなると第834回目の会議が始まる。議題は「サンタクロースには、どうやったら会えるか」。しょっちゅう会っているらしい魔女がゲスト参加しているが、「あなた、本当に、魔女?」と疑った会議の出席メンバーは魔法で豚に変えられてしまう。同じく、あまり発言しない魔女に突っ込みを入れた母親は犬に、帽子と鼻の形をくさしたガミガミ博士は猫に変えられ、まるで動物会議のようなナンセンスな状態に。

 「クリスマスの夜にずっと起きていたら、お父さんがプレゼント持ってきたんですけど」、と質問する子ども。「それはサンタさんがお父さんのふりをしているんだ」と、シラッと答える魔女。「うちはお母さんしかいない」「プレゼントの包み紙がデパートのだった」などなど。子どもたちの的を得た質問を適当にはぐらかす魔女に異議を唱えるお父さん、お母さんたちは次々に魔法で次々に動物に変えられ、事態はますます紛糾していく。

 やがて、ジングルベルの曲が大きくなり、ベッドにスポットライトが当たる。会議を途中で抜け出してベッドに入っていた子ども(母親と二役)がゆっくり起き上がる。靴下の中を覗き喜ぶ。ベッドを降り、会議机の下をくぐって舞台の奥へ進み、暖炉から消える。

 第835回、議題「煙突のない家は、どうすんのよ」の会議が始まる。相変わらずサンタいない派のガミガミ博士は、プレゼント至上主義の物質優先思考が日本を駄目にしていると主張する。これを受けてまじめな教師が、アフリカの飢餓の問題まで持ち出したことから、議論は教育問題から世界の飢餓問題にまで広がり、メルヘンな会議は居心地の悪い現実に乗っ取られ、みんな逃げるように帰って行く。

 サンタクロース会議は、こうして来年も、再来年もまた続いていくのだった。

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