ごまのはえ

ヒラカタ・ノート

2006.05.08
ごまのはえ

ごまのはえGoma no Hae

1977年大阪府枚方市生まれ。本名・多賀浩治。劇作家、演出家、俳優。佛教大学在学時より、同大学の劇団「紫」で演劇活動を開始。99年劇団「ニットキャップシアター」を旗揚げ。劇団代表。生活感の溢れるギャグと、叙情的なエピソードを含んだ、きわめてスピーディーで切れ味のある台詞劇を書く。04年に『愛のテール』で第11回OMS戯曲大賞、05年に『ヒラカタ・ノート』で同戯曲賞特別賞をそれぞれ受賞した次代の注目新進作家。

https://knitcap.jp/

Data :
[初演年]2004年
[幕・場面数]1幕
[キャスト数]8人(男5・女3)+コロスたち数名

 舞台は大阪の下町・枚方(ひらかた)にある巨大な集合団地内の公園。

 傾いた鉄柱の上部にラッパスピーカーが設置されており、地面には子どもたちが遊んでいたのだろうか、丸や四角などさまざまな模様が描かれている。

 3つのエピソードが縦横斜めにからまりながら進行するにつれ、これらの幾何学的な模様は象徴的な記号として活用され、時間や空間がメビウスの輪のようにねじれ、公園は時に登場人物たちの部屋、アルバイト先の牛丼屋、また未来のどこでもない空間など、自在に変容する。

 縦糸のエピソードは、高校の時に恋人を自動車事故で失った青年・信夫の、20代後半までの点景だ。平凡な高校時代を終え、牛丼屋でアルバイトをし、生のむなしさに悩み、ひきこもりのような生活に入る。

 それに対して横糸として綴られるのが、団地内でトラックにはねられて即死したはずの彼の恋人が、「死体のまま」百メートルほどを歩き続けた姿を、次々に目撃していった住人たちの生活風景である。朗読者によって、住人たちの証言や日常のありさまが適宜挟み込まれていく。

 3つめのエピソードは、人類が死に絶えようとする近未来なのか、あるいは壊滅的な大災害の起きた直後の廃墟なのか、イトクズという老人とサカナという少女の間に生起する黙示的風景である。

 この戯曲で描かれているのは、特定の人物の身に起きたドラマではなく、枚方の団地のたたずまいであり、より普遍的にいえば、現代の日本の「町」の空気であり、またそこに暮らす私たちのそこはかとない虚しさの匂いのようなものなのである。

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