三浦大輔

愛の渦

2006.03.29
三浦大輔

三浦大輔Daisuke Miura

1975年北海道生まれ。劇作家・演出家。早稲田大学演劇倶楽部10期生によって結成された演劇ユニット「ポツドール」主宰。旗揚げ時点での演劇的に過剰なドラマ作りから、一転して演劇的なものをできる限り排除し、「リアル」なものを徹底して追及した「セミドキュメント」の作風を経て、現在は「ドキュメンタリー」タッチなものを巧みにドラマの中に注入することで得られる、「リアリティのある虚構」を描く手法にたどり着いた。岸田國士戯曲賞受賞作

愛の渦

『愛の渦』
(2005年/THEATER TOPS) 写真:曳野若菜

Data :
[初演年]2005年
[上演時間]2時間
[幕・場面数]1幕7場
[キャスト数]12人(男7・女5)

この作品では、男女5人ずつの客が、三々五々集まってくるところから始まり、夜が明けて彼らが部屋を出ていくまでの、一夜の模様だけが、なんの事件らしい事件も起こらないまま描かれていく。

登場人物は、男1・大学生、男2・会社員(既婚者)、男3・フリーター、男4・工場勤務、男5・女5の恋人、女1・常連の客、女2・保育士、女3・大学生、女4・OL、女5・男5の恋人、店員1、店員2の12人である。

劇の冒頭、初対面にしてバスタオル姿である客たちの間には、しばし気まずい沈黙が流れるが、男は男たち同士、女は女たち同士喋っているうちに、次第にうち解けだし、最初に男1と女4がロフトへあがっていく。

以下終幕までに展開するのは、幾組かのカップルが成立し、ロフトにあがっていった彼らのいとなみの声を、残ったものたちが下で耳にする繰り返し。

その合間に会話される内容は、好きなテレビタレントのことや、それぞれの職業のこと、次にどの女性とSEXしたいかなどの話題だけである。

物語としてはほぼ無事件に見える戯曲ではあるが、演劇的な事件はそれとは別のところできちんと起きている。それは性欲に突き動かされる人間の愚かさであり、そうした人間を、精神的な結びつきが完全に排除された、性欲のみが支配する特殊な場に置くことで、個々人が抱える個性や職業といったアイデンティティーの空疎さをいやが上にもあぶり出し、性欲に憑かれた人間の愚かさをほとんど愛しさにまで描き取ってみせていることである。

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