三谷幸喜

オケピ!

2005.10.22
三谷幸喜

三谷幸喜Koki Mitani

劇作家、演出家。1961年、東京都出身。日本大学芸術学部演劇学科卒業。大学在学中の83年に、学友らと劇団「東京サンシャインボーイズ」を結成する。コメディに強いこだわりを持ち、明確なキャラクター設定を施された登場人物による、ウェルメイド・プレイを活動当初から多数執筆。舞台以外にテレビドラマのシナリオを多数執筆する他、裁判員制度実施以前に、陪審員制度を導入した日本を仮定した『12人の優しい日本人』(90年初演)、太平洋戦争下での軽演劇の作家と検閲官の攻防を描いた『笑の大学』(96年初演。2007年にはリチャード・ハリス脚色の英訳版 『The Last Laugh』 での英・日公演も実施)、幕末の英雄・坂本龍馬の死後に遺された未亡人を巡る人情劇『竜馬の妻とその夫と愛人』(2000年初演)など映画化された戯曲も多い。自身でも劇団時代の戯曲でラジオドラマの収録現場での騒動を描いたコメディ『ラヂオの時間』(93年初演)を映画化し、97年に監督デビュー。以降は映画監督としても作品を発表している。劇団は97年の『東京サンシャインボーイズの「罠」』公演をもって、30年間の活動休止中。『笑の大学』で第4回読売演劇大賞最優秀作品賞、99年『マトリョーシカ』で第3回鶴屋南北戯曲賞、00年に初のミュージカル 『オケピ!』 で第45回岸田國士戯曲賞、08年に第7回朝日舞台芸術賞 秋元松代賞など受賞歴も多い。

オケピ!
「オケピ」というのは、オーケストラ・ピット、つまり劇場のステージ前方下にしつらえられているオーケストラボックスのこと。この作品は、あるミュージカルの上演中に、その「オケピ」で展開されるミュージシャンたちのドタバタを、シチュエーション・コメディの手法で描き出す、バックステージ・ミュージカルだ。

パルコプロデュース公演ミュージカル『オケピ!2003』
撮影:谷古宇正彦

Data :
[初演年]2000年
[上演時間]約3時間半
[キャスト数]13人(男9・女4)

 幕が開くと、舞台はオーケストラ・ピットの体裁。上のステージのための演奏が、そのままこちらの舞台のミュージカルナンバーでもあるという、ひねった趣向にもなっている。

 客席と舞台を繋ぐナレーター役も務めるコンダクターが登場。三々五々集まってくるミュージシャン(俳優)たちを紹介していきながら、こんなふうに語る。華やかな夢の一夜が展開するステージの下で、しがないバンドマンたちはけれど毎夜、精一杯生きているのだと。人生で起きるすべてのことはここでも起きる、と。

 ンダクターの妻は、バイオリンのハチ子。男をつくって別居中である。その相手の男というのが、トランペットの藤堂である。なんとか妻とよりを戻したいと考える一方、コンダクターはハープの東雲にほのかな浮気心を抱いてもいる。

 ところが、ギターの丹下が、東雲と婚約したとにわかに発表する。だが、なにやら含みありげな東雲の表情に、コンダクターが尋ねてみると、彼女にはそんな気持ちはないのに、丹下が勝手に一人走りしているのだとうち明けられる。

 ここぞとばかりコンダクターは丹下を説得にかかるが、やがて判明するのは、誰にでも思わせぶりな態度をとる東雲の、優柔不断で他人を惑わせがちな性格だ。彼女は、コンダクターと一緒に行った同じレストランに、丹下とも行ったばかりでなく、丹下の親とも会い温泉にも旅行したが、それはただ「一度行ってみたいと思っていた温泉だから」だけのことなのだという。

 こじれる恋愛模様をよそに、上のステージではミュージカルが進行し、次々と演奏を段取らねばならないコンダクターには、さらに問題が降りかかる。ミスをしてばかりのピアノ、二日酔いのトランペット、ネズミ講まがいの洗剤販売を持ちかけるドラム、眠り込んでしまうビオラ、神経質で気むずかしいオーボエ。コンダクターはまさに右往左往である。

 そんな中、ハチ子は藤堂に二股をかけられてすでに別れていること、二股の相手が、他ならぬ東雲であること、が明るみに出る。

 東雲が、淋しいから誰かに愛されていたいけど、傷つくのがこわくて誰も愛せない、と自分の真情を歌う。

 コンダクターは、もう一回やり直そうとハチ子に持ちかけるが、彼女はこう言う。長い間いっしょにいると、お互いのいやな面ばかりが見えてくる。私はこれ以上あなたを嫌いになりたくないから別れるの。あなたを尊敬している。なぜなら、「あなたじゃなかったら、これだけの現場、まとめられないわ」。

 上のステージもラストをむかえ、エンディングを演奏する中、幕。

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