岡田利規

三月の5日間

2005.07.20
岡田利規

岡田利規Toshiki Okada

1973年横浜生まれ、熊本在住。演劇作家、小説家。チェルフィッチュを主宰し、作・演出を手がける。2005年に『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。以降、その活動は国内外で高い注目を集め続けている。2008年、小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』で第二回大江健三郎賞受賞。2016年よりミュンヘン・カンマーシュピーレ劇場のレパートリー作品の演出を4シーズンにわたって務め、2020年には『The Vacuum Cleaner』がベルリン演劇祭の“注目すべき10作品”に選出。タイの小説家ウティット・へーマムーンの原作を舞台化した『プラータナー:憑依のポートレート』で2020年第27回読売演劇大賞 選考委員特別賞を受賞。2021年には『夕鶴』でオペラの演出を初めて手がけるなど、現在も活動の幅を広げ続けている。

チェルフィッチュ公式サイト
https://chelfitsch.net/

三月の5日間 岡田利規
撮影:片岡陽太
2003年、アメリカ軍がイラク空爆を開始した3月21日(アメリカでは20日)。この日を間に挟んだ5日間における、数組の若者たちの行動を語る戯曲。語るとは、文字通り「語る」のであって、俳優たちが役を「演じる」のではないところにこの作品の最大の特徴と魅力がある。

Data :
[初演年]2004年
[上演時間]約1時間20分
[幕・場面数]2幕10場
[キャスト数]7人(男5・女2)

 六本木のライブで知り合い、そのまま渋谷のラブホテルに5日間居続けになり、たまに外へ食事に出ては、不思議と渋谷にいつもとは違う新鮮な感覚を覚えるミノベとユッキー。ミノベの友人で、少しばかり電波系の少女ミッフィーと映画館で出会うアズマ。渋谷の町を行進する反戦デモに「ゆるい」感じで参加するヤスイとイシハラ。

 舞台に登場する男優1男優2と名づけられた7人の俳優たちのセリフは、たとえば次のようなものだ。「それじゃ『三月の5日間』ってのをはじめようって思うんですけど、第一日目は、まずこれは去年の三月っていう設定でこれからやってこうって思ってるんですけど、朝起きたら、なんか、ミノベって男の話なんですけど、ホテルだったんですよ朝起きたら、なんでホテルにいるんだ俺とか思って、しかも隣にいる女が誰だよこいつしらねえっていうのがいて、なんか寝てるよとか思って、っていう、」このようにして俳優たちは、行動の当事者となって物語を展開するのではなく、入れ替わり立ち替わりながら、彼らから聞いた話を観客に説明するというスタイルで、代話していく。

 事件らしい事件の起こらないこの作品で試みられているのは、「現在的な表現」への真摯な模索である。まず、いかにもそれらしく「役を演じる」ことの演劇的な欺瞞を排除し、次に、いかにもセリフらしいセリフの嘘くささを取り去ってみている。

 いま現在における、最も誠実な表現の姿勢を突き詰めたはてに現れたこの作品では、「戦争」という巨大な出来事と、ほとんど些末ともいえるリアルな日常を巧妙に対比させ、日本の若者たちの抱く、とらえどこのない現実感を見事に構造化している。

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