長塚圭史

悪魔の唄

2005.04.17
長塚圭史

長塚圭史Keishi Nagatsuka

早稲田大学在学中の1994年に「劇団笑うバラ」を旗揚げ。解散後、96年、劇団の形態にとらわれず、少数で行う芝居をやりたいと、新たにプロデュース集団「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成し、作・演出・出演の三役をこなす。テレビドラマの脚本執筆や映画への出演など活躍が広がっているが、商業演劇でアイルランドの現代戯曲を演出するなど、新進演出家としての期待も大きい。阿佐ケ谷スパイダースでは、自作以外の作品も取り上げ、小劇場演劇の実力ある俳優を集めたプロダクションを実現している。長塚作品の特徴は、親子関係や恋愛感情などの人間関係を現実と虚構の中間の感覚で描くところ。2004年の『はたらくおとこ』は9都市で公演を行い、1万4,800人を動員している。

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悪魔の唄
リゾート地の小さな村に密かにたたずむ古い洋館。自分の浮気によって精神を患ってしまった妻・愛子の療養のために、静かな暮らしを求めて移り住んできた夫・壱朗。しかし妻は、夫から逃げ回っては東京に帰りたい、森山という男に電話をかけたいとわめきちらし、壱朗の望みはかなえられない。洋館に着くと、リビングにサヤという若い女が静かに座り、なにやら古い唄を歌っている。さらに彼女を捜して夫の眞が訪れる。互いに夫の元から逃れよう徘徊する妻たち、そして互いの妻を捜し歩く夫たち……。

『悪魔の唄』
(2005年/本多劇場)

Data :
[初演年]2005年
[上演時間]約2時間30分
[幕・場面数]5場
[キャスト数]8人(男6・女2)

 ある夜、愛子を連れ出したサヤは、穴を掘ってほしいと頼む。その穴から出てきたのは、死の眠りから呼び覚まされた戦死した兵士だった。これをきっかけに古い洋館から次々と第二次大戦中に犬死した若き日本兵たちがゾンビのように甦る。吸血鬼のように太陽の光にさらされると”死ぬ”ため、洋館の地下に立てこもり、妻子や兄弟や国を思いながら戦ってきた日々を愛子とともに語り合う。甦ったものの責任としてアメリカへの報復計画に一縷の望みを見いだした兵士たちに、愛子は夫の愛を確かめることのできる一石二鳥の企てを持ちかける。

 企てとは、自分を人質にして壱朗に爆撃機を調達させ、アメリカに報復するというもの。約束の期限は3日。壱朗は妻を救うためしぶしぶ条件をのむ。

 一方、サヤにはある秘密があった。兵士の一人は、第二次大戦で戦死した彼女の恋人だったのだ。60年という時空を超え、ゾンビを蘇えらせたのも彼女の強い想いがあってのこと。サヤは恋人の死後、眞と結婚するが、元恋人に対する思いを断ち切れず、自らも死してなお現世に留まっているのだ。さらに眞もサヤを追う亡霊だった。ただ自分の思いを恋人に伝えたいサヤと、自分の愛に応えてくれないサヤを殺し、妄念となって彼女を追う眞。

 3日目。眞と壱朗は、ゾンビの兵士たちから妻たちを取り戻すため、爆撃機が準備できたと嘘をつき、洋館に遮光幕を張って3人の兵士をおびき出す。兵士たちの思い、サヤの思い、愛子の思い、壱朗の思い、眞の思い──果たされることのない思いを乗せて、幻の爆撃機は轟音とともに夕焼けの空に向けて飛び立つのだった。

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